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それは、高校三年生の春を迎え、いよいよ大学受験と向き合わなければなり、初めてのオープンキャンパスに赴いた日。私の身に運命的な出来事が起こった。
その日は朝から違和感の連続だった。
普段乗らない路線の電車に乗り、降りた地はどこか懐かしさを覚えた。
スマートフォンでマップを見ながら、大学に向かう。しかし、どこか見たことのある場所。土地勘はないはずだが、昔訪れたのだろうか、と思ったほどだ。
大学に近づけば近づくほど感じる既視感に違和感を覚えながらも、私は四季学院大学に辿り着いた。
私は改めて自分が志望する栄養学部の説明会の会場を確認する。
(G棟の301号室か…)
確認し、G棟に入った瞬間。
目の前のエスカレーターに乗ろうとする1人の女性に目を奪われた。
艶のある綺麗なロングヘアに大きな瞳。
白い肌にすらっとした脚。
私は立ち尽くした。
彼女が女神のように綺麗で見惚れていたのだ。
少しでも彼女のことを知りたいと、私は急いでエレベーターに乗った。
名前は?高校は?ここが第一志望?学部は?
脳内が勝手に彼女への質問を考える。
(花宮愛ちゃん…四季学院高校からの内部生で国際学部の…)
しかし、私は彼女と初対面なはずが、この質問に全て答えることができた。
そして、忘れていた記憶を全て思い出した。
(そうだ…思い出した!ここは私がかつて大好きだったフォーシーズンズ・ラブの世界!)
この既視感やモヤモヤは前世の記憶だったのだと、スッキリした。
私はかつて、この乙女ゲームが大好きだった。乙女ゲームが好きだったわけではない。
アニメショップの折り込みチラシで、このゲームの特集があり、キャラクターに一目惚れしたのだ。
勿論一目惚れしたのは攻略対象ではなく、ヒロインだ。
見目麗しい容姿だけではなく、性格も勉学も出来る完璧な女性だった。
そして、コロコロ変わる表情一つ一つに私は悶絶した。
彼女をずっと見つめていたい。誰よりも長く身近で。その前世の悲願が叶ったのだ。
私は栄養学部志望だったが、これを機に国際学部へ志望を変更した。
理系から文系への転換をこの時期にすることは両親からも先生からも苦い顔をされたが構わなかった。そして、私の強い意志を感じた周囲の人達は最終的には応援してくれた。
これは運命だ。
彼女を見守る使命を仰せつかったのだ。
そう、彼女の唯一の弱点は死亡フラグが異常に多いことだ。
乙女ゲーム内の舞台である大学一年次、彼女にはありとあらゆる死が襲ってくる。
攻略対象がヤンデレ化して殺されたり、交通や災害に巻き込まれ、事故死。ライバルキャラの策略にハマり、衰弱死。挙げ句の果てにはストーカーに殺され、死体をストーカーの手元に保管されるエンディングも存在する。
恐怖や悲しみに慄く彼女の表情もとても魅力的だが、彼女の幸せそうな笑顔が一番好きだ。
だから私はどのエンディングを彼女が迎えたとしても、死亡フラグは絶対折ってみせる。
手には記憶を辿って記録したノートと大学の合格通知の紙。
私は今日、乙女ゲームの世界に足を踏み入れる。
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