夢の終わり
自室に戻ろうと扉に向かおうとするが、そこに扉はなかった。
「扉がなくなっているのだが、どうやって自室に戻ればいい?」
俺はルシファーの方に向き直って言った。
「あなたの部屋はこちらに新しく用意しましたのでそちらをお使いください」
ルシファーが示す方向に扉があり、その扉はルシファーが動かしている訳でもないのに開かれる……自動で開いたのではなく、その扉から出てきた者の手で開かれただけだった。
扉から現れたのは子供の姿の天使ベルゼブブだった。最後の裁判で天使の姿に戻った際の僅かな間にだけ見た姿だった。
「ルシファー。話まだ終わらないの?」
「ベルゼブブ。申し訳ありませんね。たった今終わったところです。これからシュウヤを部屋に案内してください」
「はいはーい」
「おっと、その前にしなければならない事がありました。あなたには何かが憑いたままでした。これは取り除いておかないと」
そう言うルシファーに掴まれて引きはがされてしまう。その直後世界が真っ暗になった。
「取れたのか? なにが付いてたんだ?」
「取れましたよ。何が憑いていたのかはまだ分かりません。
それではベルゼブブ。後はよろしくお願いしますね」
歩いていく音がする。
「そういえば愛を否定したままだけど、分からなければ教えようか?」
「教えてくれるのか?」
「愛とはね、予定や計画の事だよ。無計画なら無責任なだけでそこに愛はないんだよ」
「なんとなく分かってたよ。母乳が出るのは予定されている事だからね。ところで聞いていいか? この先はなんだ?」
「この扉の先はエデンだよ。この先に所謂、禁断の果実があるんだよ。でも、サタン様のお許しが出るまでは食べちゃダメだよ」
「それは、食べちゃ駄目な物なんじゃないの?」
「神はそんな不完全なモノじゃないよ。
そもそも神と悪魔が戦っているって話だって人が争いを止められない言い訳として作られた話なんだから。
勘違いしている点はそこだけじゃないよ。人に寿命がある事だって、真理を探究する為に否定していく為に必要な事だよ。進化の為には死を受け入れる必要があったんだよ」
シュウヤとベルゼブブの声が少しずつ遠くなっていく。
ルシファーが咳払いをした後で言う。
「すみませんが一人になりたいので、早く行ってもらえると助かるのですが……」
扉の閉まる音がした。しかし、シュウヤとベルゼブブの声は小さくなりながらも聞こえてくる。
「これが禁断の果実か。でも食べなくてもいいものなんだろ?」
「まだ疑ってるのですか? しかたがないですね。可能ですが最初のうちは苦しいですよ。たたの食べ物ですから気にしなくてもいいんですよ?」
「そうそう。ここに来たからにはやってもらう事があります」
「なにをしろと?」
「言葉を覚えてもらいます」
「今でも話が通じているのに?」
「XXXX」
「ん?」
「これがここの言葉です。効率がいいんですよ。人が使っている言語はもっと発展するべきなのです」
「……」
「……」
声はとうとう聞こえなくなった。
暗闇の中、声がする。未だ近くにいるはずのルシファーの声だ。
「やっと貴方とお話をする事が出来そうです。
貴方は自らの意思でシュウヤから離れる事が出来たはずです。しかし、そうしませんでしたね。それは恐らく貴方が知識の探究者だからではないでしょうか?
もし差し支えなければ貴方のお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?
……
そうですか。残念です。貴方が何も言わないのか、声が届かないのかは判りませんが貴方から話を聞く事は出来ないようです。
貴方が私たちの世界で体験した事は貴方にとってはどう感じられたのでしょうか?
笑い話として感じたのでしょうか?
異世界の絵空事と感じたのでしょうか?
貴方の世界の現実と重なるところを感じたのでしょうか?
ともあれ、貴方のお役に立つと良いのですが。
そうでした。貴方はもうあまりこの世界に居る事が出来ない様です。その前に話をしておかなければならない事があります。
シュウヤが語った真理『未来は現在を否定する』についてです。残念ながらこれは時間という概念が存在する上でしか成立しません。時間が過去から未来に流れるという常識が破られた時この真理は崩壊します。ですが、少なくとも私は時間という概念をなくす術を知りません。もし、時間という概念を破る事が出来るとするなら……それは、永遠を知る事だと私は考えています。そして、その力を使えるようになった時、神に匹敵する力を得ると考えています。
私たちの世界において、私は神に匹敵する力を持ち、神に反逆した者とされています。しかし、私にその様な力はないのです。
混沌に絶望を感じたかもしれませんが、本当の絶望は秩序の中にあります。貴方たちが直面する秩序とは常識と言われるモノになるかと思いますが。
もし、神の秩序に絶望があるとするなら貴方ならどうしますか?
残念ですが、そろそろ時間の様です。
今度会う時はお話でも出来れば良いのですが……
……」
この度は拙作を(多分)最後までご覧いただき有難う御座います。
当作品で語りたいことは、只一つ。次世代の民主主義についてです。
共産主義を語りたいと間違われそうですが、それは順序が逆です。未熟な民主主義の土壌では共産主義の芽が出ないだけです。
『女性が首相になれない、または、なる事が少ない』それが不公平だという話があります。
ですが、私は女性が首相になっても問題は解決しないと考えます。
なぜなら、首相という地位とその他の地位に不公平があるからです。
仮に、女性が首相になれば次は『LGBTが首相になれない』と言い出す事になるのでは、いえ次は年齢的な問題が先でしょうか?
人という概念から性別で分割、内面で分割……と分割しても答えには辿り着かないのです。人それぞれ違いがあるでしょうが一度棚上げして、人とはなにかを考えなければならないのです。
公平であるべきだとするなら不公平の原因は地位にあります。
これで政治家も企業も不要になります。つまりリーダーは不要なのです。
では今までリーダーが担ってきた事を誰かが行わなければならない訳ですが、各人がアイディアを出す事で成立させます。
その時々で判断するのではなく事前にアイディアを出して置き、その通りに実施するだけでいいのです。
分かりにくい場合、ロボットをリーダーに据えましょう。そして、ロボットに貴方が考えたアイディアを送ります。最優秀のアイディアが選ばれて実施される。という訳です。
え? アイディアの良し悪しをどうやって判断するか?
科学では実験で良し悪しを判断します。なので同様にすればよいのです。
なぜ多数決などで判断するのでしょうか? 少数意見が間違いだとでも言うのでしょうか? 本編中にも申しましたが、始まりは必ず一人からですので、少数意見から始まるのです。
リーダーは不要と言っておきながらなんですが、実際にはなくなりません。
アイディアがなければ何もできないのではシステムとして欠陥ですからね。
よって、リーダーには不測の事態に於けるかじ取りが必要となります。
現在の常識ではリーダーにはリーダーシップが必要とされていますが、その様なモノは不要です。必要なのは人々のアイディアであり、リーダーが活躍しない社会です。
リーダーが働かなくていいなら、職権乱用をする余地もないのです。
次世代の民主主義についての根幹は説明したかと思いますので、この場はこの辺でお開きとさせて頂きます。