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元の世界


 「元の世界で会おう」


 俺の言葉に全員が頷くが、皆の顔は疲れ切っている様子で言葉で返事する力すらも残っていない様だ。

 俺たちは自室に戻った。この時ばかりはサホの部屋に入り浸っていたレナも自室に戻る。




 自室に戻ったはいいが何をすればいいのだろうか?  目覚めた時は寝ていたのだから、寝れば夢でしたとかいう事ではないか?  特にする事もないし、疲れもした。暫く横になってみるか。

 ベッドに横になって目を閉じた。



 どのくらい寝ていたのだろうか。長かったような短かったような。しかし、悪夢が続いている事だけは確かだった。目の前には未だに白い天井が広がっていたのだ。

 眠る前と変わっていない。やっぱり悪魔に騙されたという事か……という思いが頭をよぎる。

 他の人はどうなっている?  居ても立っても居られなくなってベッドから飛び起きる。


 「サホ!  俺だ開けてくれ!  サホ!」


 俺はサホの部屋のドアを叩くが返事が返ってくる事はなかった。ノブを回すと鍵が掛かっていない。緊急事態の為、躊躇う事なくドアを開ける。

 そこには、白い壁の部屋があるだけだった。


 レナ、ユウナ、ルミ、クラトの順番で部屋を回るが結果は同じだった。

 誰もいない。いや法廷だ。あそこはまだ確認していない。俺は法廷に急いだ。




 法廷の扉を開ける。そこにはサホもレナもユウナもルミもクラトも居なかったが、その代わりに裁判長がいた。

 裁判長がいる事も重要だが、法廷の形状が変わっている。前は悪魔たちとの間に3階くらいの段差があったのだが、今はその差がない。そして、今は裁判長と同じ高さにいる。


 「これはこれは遅いお目覚めで」


 「裁判長?  他の人はどうなった?」


 「もう裁判長ではないので、ルシファーとお呼びください。他の方々は帰られましたよ」


 「ルシファー。俺はどうやったら帰れるんだ?」


 「あなたは元の世界に帰ることは出来ません」


 「なぜ?」


 「真理を解いたという割には鈍いところがありますね」


 「茶化さないでくれるか?」


 「やれやれ、あなたはこの世界を繰り返していますよね?  我々に何度殺されても、まるで夢であったかの様に」


「……それがどうした」


 「いつかの裁判の際に『我々に死はない』と言った事を覚えていますか?  いや、言ったのはサタンでしたか」


 悪魔は死なない。俺も死なない。だから俺は悪魔と言う事だという事だろうが、そんな事は簡単には納得できない、天使であれ悪魔であれだ。


 「どういう事だ?」


 「今度は私を試そうという事ですか。裁判は終わっているのだから、まあいいでしょう。あなたは我々と同じ天使になっていたのです。あなたはここに来た時点で既に元の世界では死んでいたんですよ」


 「どうして、どうやって死んだ?」


 「聞いてしまえばその時の痛みを思い出してしまうかもしれませんよ。知る事は出来ますが、私は知らないし知りたくもありません。意味のない事です。失くしてしまった物ならばどこで失ったかを思い出せば元通りになるでしょうが、それとは話が違うのです」


 「痛みを思い出すかもしれないというのはどういう意味か?」


 「あなたは今痛いところがありますか?」


 「いや。強いていうなら心が痛い」


 「なるほど。では、心だけでなく体も痛くなるという事です。そんなリスクしかない事に意味はありません。もし、知りたければ時間をおいてからにした方がいいでしょう」


 知らずにいる事は騙されている可能性を放置している事になる。それは避けたいが、死ぬほどの痛みを感じ続けるというのもかなりのリスクだ。とても考え事など出来ないだろうから、嘘であっても避けて通りたい。

 別の聞き方で真偽を探るのがいいだろう。


 「……俺以外の人の事が知りたい。この世界をどうやって脱出した?」


 「生きている人からすれば、ここでの出来事は全て夢」


 「夢?」


 「そう。ただの夢。多くの人はそれほど真剣には受け止めていないただの夢です」


 「ちょっと待て。核戦争、あれはどうなる?  そのままだと未来に起こるのか?」


 「さあどうでしょうね。  夢をどこまで覚えているかで回避する事が出来ますよ」


 「ただの夢じゃ真剣に考えることはない。そんなんじゃ核戦争を止められない。俺は、俺は生き返れないのか?」


 「無理です。夢を覚えているという可能性に掛けましょう」


 「俺は……何か出来る事はないのか?」


 「あの人たちの様子を見る事が出来ますが見ますか?」


 「見守る事しか出来ないのか……。もどかしいな」




 壁に映像が映し出される。

 そこには俺以外のユウナ、サホ、レナ、ルミ、クラトがいる。私服のせいか違和感を感じる。

 駅前で集合した直後という感じだ。


 「イヤー。こうやって会ってみると皆、夢の通りでホント怖いわ」


 「見つけるのに苦労するよりはいいんじゃない?」


 話をしているのはレナとサホ。


 「マア、立ち話もなんだから、ファミレスでも行こうか」


 レナが指差しながら言い、皆が頷き歩き出す。

 ファミレスに入って席に付く。


 レナがユウナを突きながら言う。


 「ネエ、ユウナが挨拶しないと始まらないよ」


 「えっと……。その私そういうの苦手で……」


 「イイのイイの。そんなの適当で。皆そんな事は知ってるんだから。形だけだよ形だけ」


 「あのぅ、本日は私のネットで公開している小説『地獄裁判』の件で集まって頂きありがとうございます」


 小説?  あのユウナが?  どういう事だ?


 「驚いた顔をしてますね。あなたの行動が彼女に影響を与えたのでは?」


 ルシファーの問いかけに答える余裕は俺にはない。

 俺のいない世界。そこで行われている事に俺は夢中だ。俺にとっての仲間である皆の命が掛かっている話なのだ。


 「早速、小説の話に入ろうよ」


 レナが話を切りだす。それに続いてサホが話し出す。


 「そうね。小説としての面白さなども考えなければならないから多少違うのは判るけど、いろいろと違うところが多すぎるのが問題よ」


 そう攻めるなよ。夢なんてそんなにしっかりとは覚えていないものだろ?

 そう思っている間にもルミもユウナに向かって口を開く。


 「あの~。ユウナの視点で書かれているのは良いとして~、私の扱いひどくないですか?  悪魔を紹介するだけの役ってどういう事?」


 「そ、そもそもシュウヤって誰だ?  あの場に男はボクだけだったはずだ」


 クラトもユウナに苦情を言う。

 俺は、クラトの言葉に苦情を言いたい。俺を忘れるな!


 「シュウヤはいたでしょ?  ユウナとあんなにラブラブしてた感じはなかったけどね」


 サホは俺の事を覚えててくれたのか。良かった。

 ちょっと待て、ラブラブってなんだ?  全く覚えはないが、ユウナから見て俺の評価は高かったという事だろうか。

 「シュウヤとの関係は……創作かな。だってそれくらいはしないと話が盛り上がらないから」


 小説だから多少話を盛るのは仕方ない事だ。


 「シュウヤがいたかどうかは私もハッキリとはしないのよね。確か私たちは5人ではなく6人だった気はするんだけど」


 レナからも俺がいなかった説が出る。人数まで曖昧というところに不安を感じる。


 「私たちが~6人だったのは間違いないですよ~。だって、悪魔に扮した天使と人間の合計が13人だった。13と言うのは忌み数、つまり特別な数字ですから~、私がそれを間違える訳がありませ~ん」


 忌み数で覚えるとはルミらしい。七つの大罪と6人で13か。俺はてっきり、多数決封じに悪魔7に対して人間6の割合だと思ってのだが、人によって見方が異なる様だ。

 覚えている内容と覚えていない内容には何らかの差がありそうだが、各自の考えによるものらしい。


 「お、おかしいな。微妙に内容が違っている。でもこうやって会ってみて確信できる程の姿、性格、声。

もう三年も前の夢だというのに今でも思い出すことが出来る。

流石に詳細を覚えているかと言われると、自信はないが」


 クラトの言葉に全員が頷く。

 少なくともユウナが小説を書いているのだから元の世界に戻ってすぐという事はないのは判るが、3年も経過しているのか。最初に見た時の違和感はこの時間の経過のせいだったか。しかし、なんで俺はなんでそんなに長い間寝ていたんだ?

 そんな事を考えている暇もなく話が進んでいく。


 「ソレにしても、たかが夢を小説にしようなんてよくやるわね。

かくいう私も大学に入ってサホを見つけた時、つい話掛けたんだけどね」


 「あの時は私も驚いたわよ。夢に出てきた人そっくりな人が、近づいてくるんだから」


 レナとサホはべったりくっついてたからな。


 「ふ、二人は以前から知り合っていたのか。

しかし、皆よくやる。流石に僕は何もしていない。

たかが夢にロマンを感じる事はないな」


 クラトてめぇ。たかが夢じゃねーよ。世界の未来が掛かってるんだよ。

 ……よくよく考えたら、お前これハーレム状態じゃねーか。くそ。なんで俺が死んでるんだよ。うらやましい……。


 「ソンじゃ、なぜここにいるのよ?」


 「な、何か嫌な事を思い出した気がする」


 レナの一言でクラトが俯く。

 元の世界に戻ってもクラトの扱いが同じなのを見てなんか落ち着く。


 「んっ。夢から覚めて、まず何かしなきゃと思ったのが始まりだった。最初はマンガで描きたかったのだけど全く絵が描けなかった。

それで、小説を書いたのだけど、小説とかあまり読まないから、ちゃんと伝えられてるかな?」


 ユウナはマンガ好きだったが、描くとなると話は別だからな。小説もそれなに読まないとそれなりのモノは書けないのだが、その辺は察しろという事か。


 「イヤもう、全然ダメダメ」


 「レナそれは言い過ぎ。ユウナ、雰囲気は伝わっているし、目の当たりにした私たちには伝わってるから」


 「むぅー。それ意外の人には伝わっていないって事じゃないですかー」


 フォローになっていないサホの言葉にユウナがツッコむ。

 皆で笑っている。

 俺は死んでいたり、忘れられていたりと不遇だが、皆は楽しそうでなによりだ。


 急にレナが真面目な顔になって言う。


 「ソレで今回の集まりの目的だけど、夢の内容について違いがあるこの状態を何とかしたいって事なのよ。とても大事な夢だったはずなんだけど何か大事な事を忘れているような気がする」


 レナいいぞ。その調子だ。


 「そんな~大事な事を~忘れる訳ないですよ~?」


 ルミ。覚えてるのか。そうか。それは良かった。


 「エ?  マジで?」


 「善も悪もないって事でしょ?」


 「イヤ、そういう事じゃ。……そういうのもあったかもしれないけど。ユウナの小説でも核戦争の話があったでしょ?  核戦争を止めなきゃ」


 「そんなの~知らないです~」


 レナもルミも肝心なところを忘れたのか。

 夢は忘れる。夢を深く考えない。それは仕方のない事かもしれない。しかし、それは俺が託した思いだ。なんとかして思い出して欲しい。俺には思いを伝える手段がもうないのだ。


 「アーもう、個人個人が話をしても埒が明かない。とりあえずシュウヤがいたと記憶している人挙手!」


 今まで纏まりが無かった話し合いをレナが中心となって話し出す。

 レナの問いにユウナとサホが手を挙げる。


 「ジャあ、ユウナの小説をメインとするとシュウヤばかりが活躍しているけど、本当のところはどうだったのサホ?」


「半々かな。私とシュウヤで裁判に勝利したと言ってもいいくらい」


 半々か。忘れている部分もあるだろうから深くは考えまい。サホなら許す。


 「ソレじゃ、ユウナは?  ……小説を盛り上げる為の創作を抜きにして」


 「んっ。私からすればサホも十分に活躍してたけど、殆どシュウヤだったと思う」


 「ダーー。だったらなんでこんな大事な時にいないの!!」


 ファミレスという事もあって、レナの声はそれほど大きくはない。その分アクションは大げさで、両手を挙げた後、頭を抱える。


 「それは仕方ないよ。むしろ私たちが再会出来た事が奇跡なくらい。

ユウナの小説ってそんなに見てる人いないと思うよ。そんなに人気があるものじゃないし、ちょっと分かり辛いしね。

それにレナだって私がこの小説を勧めるまでは知らなかったじゃない」


 「イタイところを付かれたわー。それはそうとシュウヤの事を詳しく知っている人はいないの?」


 誰も手を上げない。話はしても詳細な部分は忘れているらしい。


 「ンー。仕方がないから、この問題は後回し。次、ユウナの小説では悪魔が実は天使でしたって終わり方してるんだけど、創作よね?」


 え?  あの衝撃的な事を覚えてないなんて……。夢だから仕方ない。と言いたいが、一緒に戦ってきた俺としてはショックだ。


 「ぇ?  そこは創作じゃないよ。夢の通りだよ」


 ユウナは覚えていた。っていうか覚えてないと書けないよな。


 「ウソ。また、挙手で確認しよう」


 ユウナが手を挙げる。


 「覚えてないとか~罰当たりにも程があります~」


 そう言いながらルミが手を挙げる。天使だった事を覚えていたのはユウナとルミの2人だけの様だ。逆にずっと悪魔にうなされていたのがサホとレナとクラトと言う事になる。


 「ンー。多数決でなかった事にしたいけど……」


 「多数決はダメ。そのやり方は間違ってるのよ」


 レナの話を切ってサホが言う。悪魔との裁判において多数決の問題点を指摘しただけあって元の世界に戻っても覚えている様だ。


 「ウン。判ってるって」


 「た、多数決が間違ってる?  なんで?」


 レナがあっさりと引き下がるのに対してクラトは裁判での事を忘れているらしい。あれだけ口論しておいて忘れられるものだと言いたいが夢なのだから仕方ない。


 「正しい意見を掬い上げるやり方でないといけない。多数の中に埋もれたら霞んでしまうようなやり方ではダメなのよ。

 一人一人の意見をきちんと聞き修正していく。そういうやり方でないと。もっと詳しく話たいけど今日はその話じゃないから」


 「マータ、個人個人で話始める。話が脱線しやすいだから程々にしてよね。悪魔か天使かについては置いておきましょう。

次、ユウナの小説では裁判が二回しか行われていないんだけど少なくない?  いじめと核戦争しかないんだけど?」


 「むぅ。だって裁判の内容殆ど覚えてないんだもん。裁判が何回あったかも分からないし……」


 「7回以外~ありえないじゃないですか~」


 ルミが当然の様に言う。まあその通りなんだが。厳密には裁判することもなく閉廷したものも一つあったが。


 「ヤケに自信たっぷりなのね。それ以上覚えてる人は?」


 誰もいない。


 「スベテを覚えてるの?  それとも、なんかが関連した話?  理由聞かせてくれる?」


 「七つの大罪に~合わせてそれぞれの裁判を行ったのだから、7回以外ありえないじゃない~」


 「ンー。悪魔が7体居たというのも曖昧なんだけどね。でもそれくらいはあった気がする。具体的にはどういう裁判だったか覚えてる?」


 「覚えてないよ~」


 「ソノ他の人は?」


 レナはルミから情報が得られなかった為に全員に尋ねる。そうすると、クラトが反応する。


 「ち、ちょっと待った!  その話は長くなりそうなので先に俺の話をしていいか?」


 「ナニ!?  下らない話なら容赦しないよ」


 クラトの待ったに大袈裟に驚きならがレナがそう言う。


 「ユ、ユウナの小説では僕の名前が『クラタ』ってなってるんだか、『クラト』だからな」


 「ソンなの聞き違いや間違って覚えていたって話じゃない?  そのくらいの事で話を逸らさないでよ」


 レナはクラトの話をさらっと流そうとするが、サホはクラトの話に食いついた。


 「私もユウナの読んだときに疑問に思ったのよ。確かにクラトだった。『クラタ』じゃ苗字だもんね。

ちなみに苗字で呼び合う事がなかったからよく覚えてないんだけどクラタって苗字の人いたっけ?

多分その人と混同したんじゃない?」


 「クラタぁ。名乗り出なさい」


 レナの言葉に俺が返事をした。それは俺の苗字だ。『倉田 修也』が俺の名前だ。


 「誰もいないじゃん」


 「可能性があるとすればシュウヤの苗字?  ユウナは覚えてる……訳ないよね。間違えてる訳だし」


 サホにも忘れられていることにショックを受ける。忘れられるというのも辛い。


 「忘れられる事を嘆く必要はありません。それはあなたが真の意味で自由であるという事です。でも彼らはあなたの思想を思い出さなければならない」


 ルシファーは忘れられる事をいいことの様に言うが、善悪は無くなったのだから良くもあり悪くもあるという事になる。覚えていて欲しかった俺にとってはただの慰めでしかない。


 それから裁判の内容を詳しく話ていく面々。

 ファミレスの様な場所で長時間粘っている事を悪いと思ったのかレナが適当なところで、次また会う約束をしてお開きにする。




 映像が変わる。次また会うと言いながらすぐ会うとは場所を変えただけなのか?

いや、服装も変わっている。


 「どういうことだ。これ」


 「ある程度の時間が経過した様ですね。今のあなたに時間の概念はありません……と言っても理解は出来ないでしょうね」


 俺の独り言にルシファーが答える。当然ながら俺はルシファーの回答を聞いていない。

 今まで生中継で皆の様子を見ていると思っていたが、どうやら編集されたVTRの様な物らしい。


 「ひょっとして俺が見たいところだけ見れるという事か」


 「聞いてませんね」


 俺の独り言にルシファーが反応する。


 「マタ、会えて本当に良かったわ。シュウヤとは未だに連絡が付かないのが気がかりだけど」


 レナが言う。台詞からして再会後というところか。


 「そ、そのシュウヤだが、わかったぞ」


 レナの言葉にそう返したのはクラトだ。


 「ぇ本当!!」


 ユウナがテーブルを叩き立ち上がりながらファミレスには不適切な音量で言った。その行為のせいで店員に怒られる。

 店員に頭を下げて謝った後、レナが会話を再開する。


 「ヤルじゃん。で」


 「ゆ、夢を見た数日後の新聞のお悔やみ欄に倉田 修也の名前があった。年齢も確認したから恐らく間違いない」


 クラトの言葉にユウナがしくしくと泣き出す。ユウナを励ますことも出来ず静まり返る一同。遠巻きに迷惑そうな顔をする店員。


 「ドーして、今そういう話をするかな」


 レナが自分の頭を押さえながらクラトに向かって言う。


 「そ、そう言うなよ。探すのだって楽じゃないんだから。それに、連絡が付かないのだからそういう事しかないだろ?」


 「ンー。そうすると、サホの言い分で見積もっても半分は私たちに託されたって事になるのよね。サホは自分の発言はどれくらい覚えてるの?」


 サホは顎をつまんで少し考えて言う。


 「それほど多くはないかな。でも思い出してみるよ」


 レナが頷く。そしてユウナの方に向き直って言う。


 「ソレと、ユウナは……。もう少し思い出せる事はないの?」


 「むぅ。それがあんまり、何かきっかけがあれば思い出せるんじゃないかな」


 「ソノきっかけが問題なのよね。ルミはなんか思い出せる?」


 レナはそう言いながらルミに視線を移す。


 「七つの大罪が~テーマだったのだから~そこから考えていけば近いモノが出来ると思うのだけど~」


 「ドーやって?」


 「分からない~」


 レナは人差し指で自分の頭を押さえる。暫く時間を置いた後、クラトに視線を向ける。


 「ンー。クラトは?」


 「な、なんか多数決の話で論戦をした覚えがあるな。結果は覚えてない」


 レナが驚いた顔をした直後、サホが話に割り込む。


 「それ私と論戦してるから」


 「ヤ……なにそれ?  クラトあんた悪魔だったの?」


 レナが驚きの表情から白い目でクラトを見る。サホ、ユウナもレナと同じようにクラトを見る。


 「お、おいおい。確か一般的な回答をしてたはずだ。そんな悪魔の様な事をした覚えはない」


 そう言うクラトの顔から冷や汗が噴出している。

 クラトの言葉にサホは少し考えてから言う。


 「あ、それもそうか。あの夢から私は多数決を信用するに値しないという考えになったんだもん」


 「サホはすごいよね。常識と思われていた事をひっくり返しちゃうんだから」


 レナはサホの頭を撫でるながら言った。


 「確かそんな感じで常識をひっくり返していた気がするわ。内容はうろ覚えだけど」


 「ンー。詳細は誰も覚えてないかー。やっぱ私たちじゃダメなのかなー」


 手詰まりになり、また静かになる。その静寂を破ったのはルミだ。


 「い~こと~思いついたんだけど~聞く?」


 「ナニナニ?」


 「クラトに~悪魔役をやってもらうのよ~」


 急な指名にクラトの顔が引きつりつつ、その顔をルミに向けてクラトが言う。


 「か、勘弁してくれよ。ちょっと前に悪魔の疑いを掛けられたばっかりだってのに」


 「それで~思いついたのよ~。私も手伝うから」


 「ぼ、僕としては、ほのぼのとした雰囲気で過ごしたいのにな」


 「あの悪魔たちの理不尽な~口撃を真似できるのよ~。こんな良い役ないでしょ」


 「し、仕方ないな。恨まないでくれよ」


 ルミとクラトの間で勝手に話が進んでしまった事を気にする事なくレナが言う。


 「今のところそれ以外いい方法が思い浮かばない以上、それをやってみましょう」




 クラトとルミが悪魔役になってロールプレイが始まる。これを繰り返して俺の意思を汲んだ内容になってきた。こうしてユウナの小説は『悪魔裁判』として完成した。


 ありがとう。俺の意思を引き継いでくれて、本当にありがとう。


 「これで、世界は救われるんだな」


 俺はルシファーの方に向き直って言った。ところがルシファーは首を縦にも横にも振らずに言う。


 「そろそろ、本当の絶望を教えておかなければなりませんね」


 「ここに来て?  今まで散々、絶望を味わって来たというのにまだあるのか?  いやそもそも悪魔の時の話だろ?  なぜ天使になってそれを言う?」


 「それほど変な事を言う訳ではありませんよ。ただ、彼らがどう頑張ろうとも社会が受け入れるかは別問題だと思いませんか?」


 「如何に正しい事でも社会が受け入れなければ……。なんだよ。どうするんだよ!  ひどい話じゃないか」


 「これが自由の本当の姿、自由とは混沌です。どうする事も出来ません。ただ見守るだけです。神に祈るだけです。私の視点からすると手立てはあるのですが……」


 「何か出来るのか?」


 「彼らに加勢する事は出来ないのです。私に出来ることは別の誰かに同じように叡智を授けるだけ。混沌に勝つ為には数で対抗するしかありません。

 あなたは墜ちる夢を見た事はありますか?  そして夢と気付いて飛ぶ事が出来ましたか?」


 「ああ。ある。そして飛ぶ事が出来た。たまに落ちる事もあるが」


 「夢と気が付いたのは何故ですか?」


 「なんでだろうな。堕ちている理由が分からなかったからかな」


 「疑問に思うところがあった訳ですね。もし疑問に思わなかったら墜ちていたでしょ?」


 「そりゃあ。そうかもな」


 この世界で見た最後の夢では飛ぶことを諦めた事によって地面に叩きつけられた。正確には最後に少しだけ飛んでみたのだが間に合わなかった。


 「常に疑問が持てるよう、そしてその疑問に対して対抗しうるよう叡智を授け続けていたのです」


 「……まさかこんな事を延々と……」


 「はい。繰り返しています。でも、今回は運がいい」


 「……確認したいことがあるんだが……」


 「なんでしょうか?」


 「裁判で負けて俺が諦めていた場合、他の人たちはどうなっていた?」


 「ただの夢ですよ。悪い夢。それよりもう疲れたのではないですか?」


 「先に結末が知りたい」


 「残念ですが、今はここまでしかお見せする事ができません。

 そんなに焦らずとも私たちが出来る事はもうありませんので、暫くお休みになられた方がいいでしょう」


 「そうか。それなら仕方ない」


 この天使たちの話は聞くしかない。意地悪でそのような事を言っている訳じゃない事はなんとなく判る。恐らく、その先はまだ分からないとか編集が済んでないとか、そういった類の問題なのだ。



 自由とは必ずしも良い訳ではありません。

人を自由に殺して良いとするならば社会は成り立ちませんし、その様な事をすれば罰せられるでしょう。でも、殺人を扱って評価される人たちがいます。それはミステリー作家です。


 同じ殺人なのに一方は罰せられ、一方は評価されます。なにが違うのでしょうか?

実際に人を殺していないから……ではありませんよ。それだと、未遂はどうなります?

悪い自由とは、身勝手もので行動が伴います。

良い自由とは、表現の自由など主張する事で行動を伴わないものです。


 良い自由は行動を伴わない……は、相手の為を思って行動した場合などがある為、納得がいかない人も多いでしょう。ですが『ありがた迷惑』という言葉あります。ですがだからといって、死にそうな人が居ても見捨てろと言っているわけではありません。このやり取りでは堂々巡りになるだけです。


 『自由か規律か』その答えは現実の中にあります。

真理に従って動いています。ですが、人類は最初から全てを知っていた訳ではありません。気付いて正してきたのです。それまでの人が作った誤った規律を、正すだけの自由が必要なのです。そして真理に近づけていく事で発展するのです。


 真理を知る事は出来ません。ですが、真理に近づく事だけは出来る。

そして、それは……(続きは次の後書きで!)。


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