あむの家族
「あむ、ご飯よ」
1階から母親の声が聞こえて来た。
いつのまにか寝ていたみたいで外は薄暗くなり時間も18時を過ぎていた。
あむは部屋を出て1階に降りる。
「パパ、おかえり」
玄関にいる父親に声をかける。
「あぁ、ただいま。今日はご馳走かな。いい匂いがするね〜」
2人はお腹を空かせてリビングに入って行くとテーブルには豪華なご馳走が並べられていた。
「うっわぁ〜✨美味しそぉ〜‼︎」
あむの目が輝く。
「本当だ。美味しそうだな〜」
父親はスーツのネクタイを緩めながら呟く。
「お帰りなさい、パパ。今日もお仕事お疲れ様でした」
母親はにっこりと優しい笑顔でキッチンから顔を出した。
「ちょっと着替えてくるよ」
そう父親は言うとリビングを出た先にある自室へと向かって行った。
私の母、柚木 桃香。
いつもニコニコしていて明るくて優しい人。
家事が得意で中でも料理やお菓子作りが大好きな人。
よく姉妹に間違えられるほど見た目も中身も若いママ。
そんなママを口説き落としたのが私の父、柚木 瞬。
性格は明るくて優しくて社交的な人。
そして誰からも好かれる人。
母と同じで若く見られる父だけど中身は母よりも大人でしっかりしている。
父と母と私。
今は3人で暮らしている。
「待たせて済まなかったね」
着替えを終えて戻ってきた父。
「さぁ、お祝いをはじめよう」
ニコニコと嬉しそうに母が微笑む。
『いただきます』
「あむ、大学はどうだった?やっていけそうか?」
「蓮と同じクラスだった」
「蓮と一緒なら安心だな」
「パパも蓮が好きだよね」
「そうだな…紫音に似てるからな」
柚木 紫音は私の双子の兄。
5歳で亡くなった。
私は兄が亡くなった日のことを覚えていない。
きっとあまりのショックに自分で記憶を消したんだと思う。
私が記憶を無くしてから兄の話はしなくなっていた。
だから今日、父の口から兄の名前が久しぶりに出て私は一瞬動揺した。
「あむ、入学おめでとう。きっと紫音も祝ってくれてるはずだ」
「うん。…ありがとう」
あむは笑顔で答えた。
「さぁ!食べよう!ご馳走だぞ!」