小さな不安
「ただいまー」
「おかえり。大学どうだった?」
話しかけてきたのはあむの母親だ。
「んー。蓮と同じクラスだった」
「あら、それは良かったじゃない」
「うん、そうだね。ちょっと疲れたから部屋で休むね」
「大丈夫?」
「大丈夫だよ」
「夜ご飯の時間になったら降りてきてね。今日はご馳走だから」
「うん、わかった」
あむはリビングを出て自分の部屋へと向かった。
あむの部屋は階段を上がった2階にある。
部屋に入るとバックを机に置きベッドに倒れ込む。
(今日は色々ありすぎて疲れたなぁ…)
「なんであの大学に勧められたんだろう…」
手首のブレスレットを見ながら呟いた。
あむがAF大に入ったのは蓮の母親に勧められたからだ。
高校3年生の秋、進路について考えていた頃…蓮の母親に呼び出された。
「突然呼び出してごめんね、あむちゃん。ちょっと話したいことがあって」
「大丈夫ですよ。話って…」
「あむちゃんの進路についてなんだけれど…AF大に蓮と一緒に来ないかしら?」
「AF大?」
「えぇ、蓮と同じ大学は嫌かしら?」
「いえ、そういう訳じゃないです。ただ私、蓮くんみたいに頭良くないから…」
「あむちゃんは頭いいじゃない。大丈夫よ。あむちゃんなら私の推薦で入れるわ。だから考えてみてくれないかしら」
その日からあむは数週間考え、蓮がいて蓮の母親が理事長を務めている大学なら…という理由でAF大に行く事を決めた。
「これから大学生活どうなるんだろう…」
ベッドに横たわったまま力なく吐き出されたその言葉は、あむの不安な気持ちそのものだった。