始業式
「大丈夫だよ、俺たちは何も変わらないから。ほら、あの人達は変わってないだろ?」
一部の生徒は変わる事なく正門を通過していた。
蓮はあむより先に正門を通りなんともないことを証明し立ち尽くしていたあむを手招きした。
恐る恐る正門を通過したあむを見て蓮は少し笑う。
「ほら、何にも起きない」
「ほ…本当だ。でもさ、周りの人達の視線が…」
「あー、正門通るのにビビってたからじゃん?まぁ、何もなんなかったんだし組み分け表見に行こう」
蓮はそう言うと組み分け表めがけて歩いていった。
この時あむが感じていた視線が、蓮が言っていた事とは全く違うという事をあむは知る由もなかった。
組み分け表を見るとあむは満面の笑みになる。
何故なら、2人共同じクラスだからだ。
「やったぁー!蓮と一緒だっ!不安なくなったー!」
「俺は不安しかない」
「今なんて言った?」
あむの言葉に蓮は黙る。
組み分け表を見終えると蓮はあむの手を引きある場所へと向かった。
自分達のクラスではなく…。
「ちょっと蓮、1−Aはあっちだよ!」
「そんなこと知ってる」
蓮があむの手を引いて向かった先は理事長室だった。
ノックもせず理事長室に入る蓮。
けれど理事長はそれ程驚いていない様子。
「思っていたより早かったわね蓮。あら、あむちゃん久しぶりね」
あむは再び目を丸くした。
目の前にいる理事長が蓮の母親だからだ。
「あむちゃん、入学おめでとう」
「ありがとうございます」
「分からないことや困ったことがあったら遠慮しないで私か蓮に言ってね。必ず力になるわ」
「ありがとうございます」
「さて、そろそろ入学式が始まる時間ね。まだまだ話し足りないけど仕方ないわね。また気が向いた時でいいわ、理事長室に来てくれるかしら」
「あ、はい。蓮と伺います」
「待っているわ」
あむと蓮は理事長室を出ると自分達のクラスである1−Aに向かった。
蓮が教室のドアを開ると、生徒のほとんどが動物の姿をしていた。
あむは自分がおかしいのかと頬っぺたをつねってみるものの何も変わらない。
そのまま2人は空いている席に座った。
「ねえねえ、その羽根すごく綺麗だね!」
突然あむに声をかけてきたのはフラミンゴだった。
フラミンゴはウエスト細めのスカートを履いている。
あむは思った。
(スカート履くんだ…)
「その羽根、あなたの雰囲気にぴったり」
「あの、さっきから言ってくれてる羽根って?」
フラミンゴの彼女が何か口にしようとしたその時、教室に1人の男性が入ってきた。
見た目は若く、知的そうで割とイケメンな男性だ。
「このクラスの担任になった黒川宗一だ。このクラスとD組を兼任する。よろしくな。さて、これから始業式が第1ホールで行われる。生徒は貴重品以外の荷物を置いて廊下に出てくれ」
生徒達はそれぞれ荷物を机に置き廊下に出る。
「並びは…そうだな適当でいい。D組と合流して行くから俺について来い」
そう言うと担任の黒川はA組生徒を引き連れD組に向かった。
D組に着くとA組の時と同じよう生徒に説明をしていた。
そしてA組とD組は共に第1ホールに向かった。
第1ホールに着くとクラスごとに席が決まっていて生徒は担任の指示に従い座った。
暫くして照明が落ち、中心にある舞台にライトが当たる。
「新入生の皆さん、AF大にようこそ!」
舞台の中心に立っていたのは蓮の母親でありこの大学の理事長、桃瀬 真凛だ。
理事長は生徒を見渡しながら話始める。
「理事長の桃瀬 真凛です。この大学であなた達はたくさんのことを学ぶでしょう。そして必ず未来が変わる。私達教師はあなた達生徒の成長をとても楽しみにしているわ」
にっこりと微笑み舞台を後にすると学長が代わって舞台に上がった。
「新入生の皆さん、入学おめでとう。学長の根津だ。これから君達に教員の紹介をする。まずこの大学の教員数は36名。学年及び各学科にそれぞれ27名。その他に試験教員6名、保健教員1名がいる。さて、初めに1学年の教員を紹介しよう」
9名の教員が舞台に上がる。
「左からアニマル科のA組とD組を兼任する長谷川 花先生。B組とE組を兼任する大和 永遠先生。C組とF組を兼任する小野寺 隼先生。フェアリー科A組とD組を兼任する嘉瀬 雄馬先生。B組とE組を兼任する安堂 蜜先生。C組とF組を兼任する佐々木 なつ先生。アニマルフェアリー科A組とD組を兼任する黒川 宗一先生。B組とE組を兼任する遠藤 沙羅先生。C組とF組を兼任する三浦 将輝先生」
呼ばれた先生達は軽く頭を下げ生徒を見渡していた。
「2・3年の先生は授業中の為紹介を控えさせてもらう。後に合同授業などで紹介するのでお楽しみに。さて、最後に保健教員と試験教員の紹介をしよう。まず保健教員の白石 音先生。それから試験教員の蘇芳 双葉先生、木崎 拓先生、赤羽 愛梨先生、望月 香恋先生、沖田 爽先生の6人」
先程と同じように先生達が生徒を見渡していると新入生がざわつき始めた。
「ねぇねぇ、ほら、あの人だよ!6歳にして試験教員に任命された望月 香恋先生!」
「うわぁ〜やっぱり生で見るとちょーかわいい!」
新入生同士の会話を耳にしたあむは首を縦に振っていた。
「教員の紹介は以上だ。最後に皆へ理事長からの贈り物だ」
そう学長が言うと生徒全員の手首にブレスレットが浮かび上がった。
そしてブレスレットには羽根がついている。
(羽根?)
「今つけたブレスレットはパラレルワールドへの鍵となるものだ。試験などの時に使うことになるだろう。そして羽根についてだ。羽根の色が時として変化することがある。十分に注意してくれ。私からは以上だ。これをもって始業式を閉会する。生徒は教員の指示に従い教室へ戻るように」
学長は舞台から降り第1ホールを後にした。
それから各担任が生徒を誘導し始め、生徒も皆第1ホールを出て教室へと戻った。