第8話 旅立ち
「よし!これで荷物はこれで最後だな」
アルバルトと騎士のユーグスとカイルが馬の背中に掛ける形の袋に旅の食糧や水を詰め込んでいた。
一応、アルバルトとリィナ、レィナには異空間袋のことを教えたが、護衛の騎士ユーグスとカイルには教えてないので、荷物は馬に乗せる形になった。
この馬はアルバルトたちが乗ってきた馬車の馬だ。
最初は森の入口で野生に帰すか迷ったが、アルバルトによく懐いていて離れなかったので連れてきていた。
さすがに里の中にいれることは難しかったので、里の入口にいてもらう形になった。
荷車は無いが王都までの荷物持ちとして取り付けるタイプの袋で運んでもらう形となった。
「みなさん。お待たせしました」
そう言いながら入口に現れたのは大精霊アレティアだった。
見送りに来たシオンの家族のリーティンとリシア、警備隊隊長のリカードは唖然としていた。
「おはようございます、アレティア様」
「「おはようございます」」
シオンとリィナ、レィナはアレティアが来ることを知っていたので普通に挨拶を返した。
「「「だ!大精霊様!!」」」
知らなかった3人はかなり驚いていた。
「この森にある物とマナで作ったのよ」
アレティアはそう言いながら何かを差し出してきた。
一つ目は普通の片手直剣に見える。
「シオン、これ持ってマナを通してみて?」
言われた通りにマナを通すと、シオンが自作した魔法剣よりマナの通せる量が増えているのに気が付いた。
「これは・・・すごいですね・・・」
アレティアは胸を張りながら言ってきた。
「でしょ?頑張ったのよ。で、これはリィナに」
次に渡したのは普通の短剣に見えるが柄の部分に橙色の宝石が取り付けてあった。
「こっちはレィナのね」
続けて出したのは短杖だ。杖の先端に、青色の宝石が埋め込まれていた。
「二人とも、マナを通してみて」
最初にリィナがマナを通してみた。すると、リィナの短剣は橙色の宝石が強く光ると炎のような光を纏わせた。
「これは?」
リィナが疑問に思うように宝石の光に触れる。
『っ!』
「な、なに?」
リィナの周りの人達がリィナを見て驚いた。正確には右目だ。
「あの時ほどではないけど、目、光ってるよ」
シオンが教えると
「じゃあ・・・これがあれば・・・」
「まだ駄目よ」
期待を裏切るようにアレティアは言った。
「その輝きでは本来の太陽のマナには届かないわ。それに、その宝石は昔会った巫女二人のマナの力を似せて作ったものに過ぎないわ。だから、浄化の力もそれ自体にはない。その輝きは巫女に近いマナである貴方のマナに反応しているだけ。浄化のマナは自分自身でマナを操るしかないわ。まぁ、その短剣にマナを纏わせれば、普通に使うよりは精霊魔法を強化できるとは思うけどね。これはレィナの短杖も一緒よ。武器の種類は違うだけね」
次はレィナにマナを通すように促す。
レィナがマナを通すと、宝石が青白く輝きを纏い始めた。
「うん。いい感じね。よかったわ、間に合って。これの3個の武器は貴方たち専用の武器となるわ。魔力を流しても何も起きない。マナを纏わせても貴方たち以外のマナだと反応しないようになっているわ。だから大事に使ってね」
専用の武器をアレティアが作ってくれたことに感激した3人は
「「「ありがとうございます!」」」
と同時にお礼を言った。
「その武器の性能におぼれずに精進するのが条件だからね?」
「「「はい!」」」
「あ!そうだ。それなら」
シオンはリシアを呼び、シオンが今まで使っていた魔法剣を渡した。
「これをリシアに上げるよ」
「え?でもこれは兄さんが作った兄さんの・・・」
「今、アレティア様から武器をもらったから大丈夫だよ。僕以外の精霊魔法使いでも使用できるし」
説明しようとすると
「あら?これシオンが作ったの?」
その剣を見たアレティアは興味を持ってきた。
「はい、そうですよ」
「なるほど・・・。人間族が作ったにしてはいい魔法剣ね・・・。これこの森の材料と・・・・シオン自身のマナで作ったって感じかしら?」
「さすがですね・・・その通りです」
「それに・・・この感じはまさか・・・」
「気付かれましたか?」
「ええ。なるほどね・・・貴方のマナをこの剣の芯にある精霊石に詰めた・・・それも太陽と月のマナに染まったマナを」
「え?それって・・・」
リシアはそれを聞きめを見開く
「うん、量は限られるけどね。もし瘴気の魔物が出てきたときに、この剣を通して精霊魔法使えば、多少なり効果はあるはずだよ」
「兄さん・・・もしかしてこのために?」
シオンはかぶりを振る
「いや、残念だけど違うんだ。瘴気の濃い場所での戦闘用に試しで込めたら偶然成功しただけ。でもアレティア様にもらったなら同じことが出来ると思うから」
「確かに素材的には同じ様な物を使っているから可能ね。でも私が渡した剣はシオン用に作ったからもっと効率が良くなると思うわ」
「ってことだからこれはリシアに上げるよ。この剣で母さんを、里を守ってくれると嬉しい」
「・・・兄さん、わかった。私はもっと強くなってこの里を守るってこの剣に誓う」
リシアは力強く頷いた。
「リシア、ありがとう」
こうして、リシアはシオンからもらった剣を持ち、シオンに里を守ることを誓ったのであった。
「シオン、リシアちゃんは俺も守ってやるから安心しな。実力次第では警備隊でも働いてもらうかもしれないがな」
リカードはそう言い、心配するなとシオンに言ってきた。
「隊長、よろしくお願いします」
「おう!」
「では、そろそろ出発するぞ」
そこにアルバルトがそう声を掛けるのであった。
「シオン元気でね。しっかりリィナちゃんとレィナちゃんを守るのよ」
「兄さん、頑張ってね。里のことは任せてね」
とリーティンとリシア
「頑張って来いよ、シオン」
とリカード
「シオン、リィナにレィナ。お前たちのような若者にこのようなことを押し付ける形になってすまない。なにかあったらまた里を訪れるがいい。儂らもできることは力になろう。アルバルトも元気でな」
と族長ラウル
「みんなの旅がより良いものになるように祈っているわ」
と最後にアレティア
「「「行ってきます」」」
とシオン、リィナ、レィナは挨拶をした。
こうして里から旅立つのであった。
森を抜け先日、熊の魔物に襲われた辺りにやってきた。
「馬車は使えないとなると・・・王都まで1週間は近くかかるかもしれないな」
「ってことは」
「一週間は徒歩の旅ですか・・・」
「「はぁ・・・」」
リィナとレィナはアルバルトの言葉を聞きき、肩を落とした。
「まぁ、次の春から始まる本格的な旅の練習って思えばいいんじゃないかな」
シオンがそう言うと
「まぁ・・・確かにね」
「まぁ・・・そうなんですけど」
二人はそう呟いた。
「お前たち、まだ歩き始めたばっかりだから、まだまだこれからだぞ。今日の夕方までにはノルンに着きたいからな」
ノルンっていうのは今歩いている道の先にある小さな宿場町だ。冒険者用の宿屋もあるので今日はそこで一泊する予定だ。因みに歩いている順番は先頭にユーグス、ユーグスに並ぶようにアルバルトが歩き、その後ろにシオン、リィナ、レィナがシオンを挟むように3人並び、最後尾に馬を連れてカイルが歩いている。
「そういえばシオン、お前は王都にいる時はどこに住む?一応候補はいくつか考えているが・・・」
「魔法学校でしたっけ?」
「そうだ。一応、学生寮もあるからそこでもいいが・・・」
「そういえば入学の際もですけど僕はお金そこまで持ってないですよ?」
「金の心配はするな。こっちが一方的に入れるわけだしな。住む場所に関しても金の心配はいらない。こちらで手配する」
アルバルトはそう言った。
まさに至り尽くせりだ。
「住む場所の候補っていうのはどこなんでしょうか?」
住む場所についてシオンは質問する。
「まぁ、普通に考えれば男子寮だな。後は何処かに貸家を借りるかだが・・・」
「?・・・なにか他にもあるんですか?」
「ん~・・・ちょっと確認を向うさんの寮に確認しなきゃだが・・・娘たちの女子寮の一室だ。ちょうど二人部屋だから他の女生徒と部屋は被らないからな」
「「「っえ!?」」」
「ちょっと父上!」
「何いっているのですか!?」
二人は抗議の声を上げているが、シオンは絶句している。
「いやー・・・な?お前たちは婚約者となっただろう。しかも、今回は特例の重婚となる婚約なのだから、早めに周知を広めるためにお前たちは一緒の部屋で暮らした方がいいと思ってな」
「早めに周知って・・・」
「私たちはまだ成人もしていないのですよ?」
そう、この世界では18歳で成人する。3人ともまだ15歳だ。
「それはわかっている。だから子供は待ってもらう予定だ」
「「こどもって!」」
二人はもう首から上は真っ赤だ。
「アルバルトさん、旅も控えているのにそのような行為はしないですよ。でも同室だったら、もしかしたらってのを考えないのですか?」
シオンも真っ赤な顔しているがそう質問する。
「お前たちは3人で旅に出るのだぞ?宿屋では部屋や金の心配もあるから同室もあり得る。その練習と考えたらどうだ?」
(なぜだろう・・・アルバルトさんは僕に娘たちを襲わせたいのか・・・)
シオンはそう考えてしまうほど、アルバルトの同棲生活押しが強い。
そんな会話をしていると
「ん?」
シオンは魔物が近づいてくるのを感じた。
生物は基本魔力やマナを少なからず持っているので、マナを薄く拡げる様にしていると生物の位置がわかるのだ。魔物になるとすごく大きな禍々しい魔力やマナを持つことが多いため、わかりやすいのだ。
当然アルバルトや騎士二人、もちろんリィナとレィナにも反応している。リィナとレィナは魔力よりマナが多いのでわかりやすい。
「シオン、どうした?」
アルバルトがシオンの様子が気になり聞いてきた。
「シオン君・・・」
「これって・・・」
リィナとレィナは気付いたようだ。出発前に移動中にマナの制御特訓として薄く拡げるように言っておいたのだ。
「たぶん魔物だね」
シオンはそう言うと
「シオン殿どちらからですか!?」
先頭を歩くユーグスが武器の騎士剣を構えながら聞いてきた。
「右手の林になっている方ですね」
そう答えて数秒経った時
ガサ!
1mほどのネズミが出てきた。一応小型に分類される魔物だ。
「「いやーーーーー!!」」
シオンの両腕にリィナとレィナは叫びながら抱き付いてきた。
「ちょ!二人とも!?」
シオンは二人に狼狽えていると
「私が出ます」
じゃれ合っている3人を横目に、ユーグスがネズミの魔物に向かって行った。
ユーグスは身体強化の魔法を使っているのだろう。騎士甲冑を着ている割には動きが速い。ネズミはそんなユーグスに向かって飛び掛かってきた。ユーグスは少し身を捻り、攻撃をよけた後、カウンターを叩き込んだ。
ギャッ!
そんな叫びと共にネズミの魔物は地面に落ちそのまま動かなくなった。
「見事なカウンターですね」
シオンがそう言いうと
「我々も中型ぐらいなら単身で討伐はできますよ。シオン殿みたいに単身で大型の魔物は無理ですが」
「そうだな。我が国でも単身で大型を討伐出来る者は片手で数えるほどしかおらんしな」
アルバルトはそう言ってきた。
「それにしても、我が娘達は相変わらずネズミ等の生物は苦手なんだな」
二人はシオンに抱き付きながら講義する。
「だっていやなんだもん!」
「そうです!あれは滅亡するべき存在です!」
「そ、そうか・・・」
アルバルトは娘たちの気迫に少し後ずさった。
「あの~・・・二人とも?討伐終わったからそろそろ離れてほしいんだけど・・・」
「「え?・・・」」
シオンの両腕は相変わらず抱きしめられたままで、柔らかい感触に包まれていた。
「「・・・いや?」」
そう言いながら上目遣いで聞いてきた。
「う!・・・いやではないけど・・・その・・・歩き辛いし・・・みんな見てるし・・・」
シオンは顔が赤いままそう言うと
「「ふふっ」」
二人は同時に笑うと
「ごめんね、シオンの赤くなった顔可愛かったから」
「ごめんなさい、つい甘えちゃいました」
そんなことを言いながら二人は離れてくれた。
「がははは!かなり仲良くなったな」
そんな様子を見てアルバルトは嬉しそうだ。
騎士の二人は微笑ましそうに見ているだけで、特に何も言ってこなかった。
「はぁ・・・疲れる・・・」
シオンはそう呟くのであった。
その後、何度か魔物の襲撃を受けたが、1体ずつしか現れなかったこともあり、問題が起こることなく宿場町に到着した。
魔物討伐の途中からはネズミ以外の魔物の相手はシオンが注意を引きつけている間に、リィナとレィナが止めを刺す、という方法で魔物討伐に参加していた。
「今日はご苦労だったな」
アルバルトはそんなみんなに労ってきた。
「いえ、修行にもなりますので」
シオンはそう返事を返した。
その日は、宿場町ノルンに一泊することになるので、シオン一行は宿屋へ向かうのであった。