第2話 出会い
シオンは音が鳴った方角、森の外の草原へ身体能力強化を使用し駆け抜けた。
身体能力強化は内側にある魔力もしくはマナを使用し身体能力を底上げする魔法の一種である。制御できる魔力・マナの量で強化の度合いもかわる。
草原へ出たシオンが目にしたものは森から離れた所に4mはあるだろう熊の魔物と、魔物に襲われているローブを纏った人達五人だった。
魔物とは生物が魔力暴走を起こした結果、狂暴化し理性を失ったり、巨大化したりと色々な種類がいる。
近くには馬車が壊され残骸となっており、馬は怪我をしているが生きてはいるみたいだ。
襲われている人達の一人はアルバルトさんだ。護衛と思われる騎士の二人は国王を守るように騎士剣を構え対応している。
アルバルトさんこと、アルバルト・ルオ・アルマブルク国王、国王なのに旅が趣味らしく、かなりの武芸者でもあるそうだ。
騎士達は防戦を強いられていた。
熊の一撃は重く一人が受けてはじき飛ばされてはもう一人が入れ替わるようにして国王の楯になっている。そしてその人がはじき飛ばされたら、さっき飛ばされた人が怪我をしたまま盾になる。と繰り返し国王が逃げれる様に頑張っていた。
国王であるアルバルトさんはもう二人、少女だろうか?二人を抱えながらこっちに走ってくる。
さすがはアルバルトさんだ・・・国王なのに鍛え方が半端ない・・・
「アルバルトさん!後ろ!」
シオンは後ろで縦になってくれていた騎士が満身創痍で立ち上がれなくなっていて、アルバルトさんに向かい熊の魔物が走ってきていたのだ。
まだ離れていたが声が聞こえたのだろうか。アルバルトさんは少女達を下ろし後ろを向き咄嗟に腰に差していた剣を構え、少女達を先に行かせる。だが
ドン!!
音がしたら少女達を追い抜かすようにアルバルトさんが飛ばされてきた。
「「父上!!」」
少女たちはアルバルトさんの近くで叫んだ。熊もすぐ後ろまでやってきている。
(このままじゃ間に合わない!それなら!)
シオンはそう考え身体能力強化の魔法の上に風の精霊魔法を纏い爆発的に加速をした。
魔法は本来、人間族が体内にある魔力で詠唱や術式といったもので自然界のエネルギーであるマナに働きかけ事象を起こす技術である。
それに対して精霊魔法は体内にあるマナを使用して直接自然界のエネルギーを操作する。
人間であるシオンは精霊魔法を物心がつくときから使えていた。ただ本来あるはずの魔力はなかった。
その代わりなのか、純粋なマナが膨大に体の内に宿していた。
これがシオンの特異体質である。
他の人の目がある場所では使用はするなと族長に言われて控えていたが、国王のピンチということなら許してくれるだろうとシオンは思い精霊魔法を行使した。
爆発的な加速を得たシオンは少女達と熊の間に入り込む。シオンの姿を少女の二人は見た。
「「え?」」
一人は橙色の瞳で、もう一人は淡い青色の瞳で、風を纏い、剣を構える少年の姿を見た。
シオンは熊の振り下ろした腕を目には見えない剣速で切り落とす。そのまま肉薄し掌底を胴に叩き込み風を収束、掌底を通して打ち込んだ。
熊を少し離れた所に吹き飛ばす。
「落ちろ」
シオンがそう呟くと突如雷が、吹き飛ばされ落下した直後の熊を穿った。
少し焦げた匂いがして熊がまったく動かなくなったのを確認したシオンが
「アルバルトさん!大丈夫ですか!?」
と少女達の隣に横たわるアルバルトが生きているどうか確認する。
「うう・・・大丈夫だ・・・剣の上から奴の衝撃で飛ばされただけだからな」
吹き飛ばすほどの衝撃を受けたにもかかわらず多少ふらふらしながら立ち上がった。
そんなアルバルトを両脇から支えるように少女たちが立つ。
「「本当に大丈夫ですか?父上」」
ぴったり重なるように少女たちは父親であるアルバルトを支えながら聞いた。
「ああ、なんとか大丈夫だ。シオンにも迷惑をかけたな」
「いえ、ご無事で何よりでした」
とそこへ
「陛下!ご無事ですか!」
と二人の騎士がお互いを支えながら歩いてきた。
「なんとかな、この子、シオンのおかげでな」
「シオン殿、ありがとうございました」
「シオン、娘たちも含め我々を助けてくれてありがとう」
「恐縮です」
国王と騎士にお礼を言われて少し恥ずかしくなってしまった。するとアルバルトさんを支えていた少女達がフードを取り顔を露わにした。
身長はリシアより低く150㎝と少しあるぐらい。二人とも髪色は薄い紫色をしていて、ふわっとした感じで、背中の真ん中ぐらいの長さをしていた。
服装は旅装束のようなものを着ていた。
胸の方は・・・リシアよりは確実にある。
それに瞳が二人とも、とても綺麗だった。
「「シオン様、私たちを助けてくれてありがとうございました」」
一語一句違わずぴったり声を合わせてお礼を言ってきた。
双子なのだろうか瞳の色を除いたらふたりとも瓜二つだった。そして、二人ともすごく可愛かった。
シオンは妹がいるから多少は慣れていると自分で安心していたがこの二人は予想以上に可愛くまさに美少女であったため見惚れてしまっていた。
ただなんというか初めて会った気がしないとういうか変な感覚に囚われた気がしたシオンだった。
「そういえばシオンは二人に会うのは初めてであったな」
と見惚れているのがばれてしまったのか笑いながら紹介をしてきた。
「こっちが第一王女のリィナ、リィナ・ルオ・アルマブルク」
紹介を受けた方、橙色の瞳の少女リィナがお辞儀をする。
「でこっちが第二王女のレィナ、レィナ・ルオ・アルマブルクだ」
今度は淡い青色の瞳の少女レィナがお辞儀をする。
「見ての通り双子で、見た目そっくりで私でもたまに間違えてしまう時もあるほどでな。歳は15歳だからシオンと同じだな」
父親がそれでいいのかと思いながら笑ってごまかそうとしていると
「因み今は外向けの顔をしているがな、その内に性格とか違いが出てくるぞ」
娘達を笑いながら紹介すると
「父上、あまり変なこと言わないで」
「そうです、シオン様に変に思われたら大変じゃないですか」
とリィナ、レィナの順で少し顔を赤らめながら抗議する。
娘達の以外な反応に
「お?シオンのこと気に入ったか?」
「「変なこと言わないでください!!」」
顔をさっきより赤くしてそう講義するのであった。
因みに騎士たちはそのやり取りを乾いた笑いをしながら立っていた。
僕は二人の可愛さとアルバルトさんの言葉でどきまぎしながら、アルバルトさんと騎士たちに治療魔法をかけていたついでに馬のほうも
「相変わらず見事なものだ」
シオンの魔法、もとい精霊魔法を見ながら言ってきた。
アルバルトさんは以前、里に来た時に説明はしてあった。
「どうですか?痛みは引きましたか?」
「ああ、打ち身のとうになっていたが痛みは引いたぞ。ありがとな」
「こちらも大丈夫です、ありがとうございます。シオン殿」
アルバルトと騎士たちは言った。
(この騎士の声、どこかで聞いたような・・・)
とシオンはふと思うのだった。
「では、馬車の方はどうしましょう?荷物とかあるでしょうし」
(僕の異空間袋にも大きさ的に入らない物もあるから持ち運びは人の手でやらなければならいか・・・)
シオンが考えふけっていると
「シオン様、ちょっといい?」
リィナが話しかけてきた。
「なんでしょう?リィナ様」
一応王女ということで様付けで呼ぶ、アルバルトさんは本人から許可を小さい頃もらいさん付けで呼んでいるが
「様付けはしないでいいよ。父上のことはさん付けで呼んでるし、同い年なのだから呼び捨ててもいいよ?」
「シオン様、私も呼び捨てでもいいです」
レィナもそう言ってくる。
僕は無言でアルバルトさんに「いいのですか?」と訴えかける。
「まぁ、本人たちもそう言うならいいのではないか?」
と父親の許可も下りたということで
「わかりました。リィナとレィナでいいですか?」
呼び捨てで呼ぶとまた顔を赤らめて
「そそそれでいいよ」
「それでいいです・・・」
そう言ってきた。
「それならば僕のこともシオンでいいよ。一方的に王族から様付けされるのはちょっと」
「わかった。ならシオン君で」
「私もシオン君と呼びますね」
二人とも少し顔が赤い。それに緊張からなのか言葉使いが崩れてきている。
「はっはっは、娘達のこのような表情を見るのは久しいな」
アルバルトさんは娘たちがシオンに気があるのを見抜き嬉しそうにしている。
この様子なら僕も言葉を崩して二人と話しても大丈夫かな?とシオンは思いながら
「でリィナ、何かあったの?」
「そうでした。さっきのシオン君が熊を倒すのは魔法だったの?」
どういう意味か聞いてみると
「さっき私たちと熊の間に入ってきた速度もそうでしたけど、その後の」
とレィナが質問の答えを続け
「雷の魔法?の時、詠唱した?」
と最後はリィナに質問の言葉が戻る。
(なんだ?なんで二人で質問を繋げる・・・)
そう疑問を持ちつつ
「あれは~・・・え~と・・・」
困って言葉で迷っていると
「それより馬車内の荷物は持っていく物に関しては一応森を歩ける量にしてあるから安心してくれ、大半は旅の際に必要な食料とかだ」
事情を知っているアルバルトさんが会話に入り助け船を出してくれた。
シオンは目配せでアルバルトにお礼を伝え
「わかりました、では村へ行きましょうか」
「よろしく頼む」
そうして僕はみんなを先導して村へ向かって森へ入っていった。