地獄の沙汰もアレ次第。
「ナギ様、それではお連れします。」
正午近くまで待たせたナギに一礼して、黒ずくめの男達は彼女を囲むように先導する。
ちなみにリーダー格の男以外は皆、細マッチョなのでナギ的にはセーフであった。
(なかなか優秀ですね。)
実はあえてゆっくり準備してみたのだ。
その時点で怒り出すような輩がお迎えだと、大抵ろくな依頼でもないし、値切ったり、無償で働かせようとしたりする。
守秘義務や戒律で詳しく依頼内容を言わない癖に逆ギレ、高圧的に接してくる者もいるのだ。理不尽である。
元々大人しく、反抗らしい反抗をしてこなかったナギは侮られやすい。アルビノというものも地域的には差別や排除されやすい対象でもある。
それ故、ナギは捨てられたのだ。
街にある神殿の分社に入ると大規模な陣が床に描かれていた。
ずっと無言だった黒ずくめのリーダー格の男が口を開く。
「ナギ様、これより中央神殿に転移してもらいたいのです。
我々もあまり力は強くなく、貴女様の力を貸してもらえないと戻れないのです。
どうか発動してください。」
そう言って深々と頭を下げた。
他の者も右へならえで頭を下げる。
「…」
「ナギ様、これは我々からのほんの気持ちです。どうか…」
無言のナギにリーダー格の男がおずおずと紙袋を差し出す。
街で人気のお菓子屋で販売されているプリンが入っていた。
低血圧で貧血気味のナギは朝が弱い。
それ故、開店一時間で完売してしまうプリンは彼女にとって幻に近かった。
「分かりましたわ。それでは帰るものは陣に入ってください。」
内心キタコレ!好物!!と大はしゃぎな事をおくびにも出さず、ナギは術を紡いだ。
あたりは光に包まれ、そしてナギ達の姿はかき消え陣も跡形もなく消えていった。
その頃、街のメイン通りにて。
アーリヤ「あっ!レイちゃんだ!
ギルドに貯金しに行ったの終わったんだね、お疲れ様!」
レイリー「おー、ギルマスと膝詰めで依頼を押し付けられそうになったけどかわしてきたぞ。
アーリヤお前、ナギと昼食べなかったのか?」
アーリヤ「うん。
荷物詰め込む作業はやり方が人によって違うしね。私いれば居たでナギちゃん気が散るだろうし。後、付いてきてって言われるのもねー…」
レイリー「部外者に優しくないものな、神殿は。
私行くと大抵怒鳴られたり逃げられるしなぁ。感じ悪いよな。」
アーリヤ「それはね、レイちゃんの自業自得も半分はあると思うよ?」
レイリー「まぁ気にするな。
ところでアーリヤ、私より先に買い物に出たのに荷物それだけか?
色々寄るって言ってたんじゃなかったか?」
アーリヤの荷物は肩掛け鞄にお菓子屋の紙袋のみ。
「あー、これね貰い物。
さっきのナギちゃんお迎え部隊の人に怪我はないか聞きがてら、ナギちゃんの好きな食べ物教えてあげたの。
そうしたら私とレイちゃんの分もお菓子屋買ってくれたんだ。」
レイリー「いや、甘いのはちょっと…」
アーリヤ「レイちゃんの分は無糖珈琲ゼリーだよ。」
レイリー「よし、それを貸せ。冷蔵室に転送しておいてやる。
昼がまだなら一緒に食べに行こう。」
アーリヤ「どこに?」
レイリー「肉森亭。」
アーリヤ「マジか!!
行く!久々肉をたらふく食べたい!」
肉食女子二人は意気揚々と肉の楽園へと駆けていくのであった。
肉森亭…ネーミングセンスもなにもあったもんじゃない。
ナギは胃弱なので、さほど肉が入らない日もあるのでめったに行かない店。
肉料理九割のガッツリ系の食堂兼酒場。
レイリーは痩せの大食い。
食べても食べなくても二時間で腹の虫がなる。
燃費悪い。