お代はいかほどですか?
その後は何事もなく、二日酔いのナギの世話やら掃除洗濯で一日が過ぎていった。
翌朝、宿の食堂でレイリー、ナギ、アーリヤの三人が食事をしていると、漆黒のマントに鎧を身に付けた男達が宿へと現れた。
皆一様に鼻まで覆う覆面をしているため目しか見えない。
正直、怖い。
「我らは…」
「うるさい。」
レイリーがそう言って指を振ると男達はこつぜんと消える。
ドサドサドサドサドサドサ!!!!!!
と外で重いものが落ちる音と、呻き声が聞こえたので外に強制転移させられただけだろう。
「ナギ、お前の宗派の者だろう。
何やらかした?」
レイリーが珈琲のおかわりを飲みながらナギに問いかける。
「なにもしておりませんわ。
しいていうならそろそろ結界の定期点検ですわね。
ああ、そういえば…先月貴女の母校の魔道研究塔の阿呆が魔力の暴発起こして結界に穴を開けたと文をもらいましたけど。」
「ああ、身の程知らずの暴走者な。
言っとくが私はどんな影響が出るか被害はいかほどか計算しつくして力を使っているからな。」
「ナギちゃんもレイちゃんも有能だからスキあらば力を借りようとしてくるんだねー」
アーリヤがのんびりと言った。
そういう問題でもないのだが、ナギとレイリーは力を持ちすぎた故に妬みや怖れで古巣を追われた経緯がある。
しかしながら、追い出しといて困ると助けを求めるという理不尽な現象。
各地を転々としていた頃はそんな面倒事から逃げていた側面もあった。(レイリーはめんどくさいから、ナギは対人恐怖症の毛があったから)
しかしながらアーリヤが二人に無理難題を押し付ける古巣に目をつけられ狙われてから二人は変わった。
スローガンは、やられる前に殺れ。
過剰防衛、右の頬を打たれそうになったらかわして全力でぶちのめす!…だ。
どうつけ狙うかと言えば、二人の古巣はアーリヤにハニートラップを仕掛けてきたのだ。
乙女の純情を弄ぼうなど許しがたい。
女の友情は脆いとも言われるが、そんなの男女関係ない。壊れるときは壊れるし、壊れないものは壊れない。
私達、ずっ友だよっ!的に仲良し(時に毒ははらむ)にヒビをいれるなど許さない…と、二人は立ち向かう事になった。
無理難題を精査し、どうしても自分の力がなければ解決しないもののみを引き受ける事となった。
…有料で。
「金をちゃんととってこいな?
まけるとお前の価値がさがるぞ。安請け合いすると付け上がるのは目に見えている。」
「ええ。
一括前払いで受け取ってから解決しますわ。」
お金をとると決めても、ゴリ押しに弱いナギはタダ働きとか、値切られて帰ってくることが度々あった。
その度、レイリーが出向いて集金をしていたのだ。
おかげで、本部のお偉いさんはレイリーを見ただけで怯えたり、この悪魔と罵ったりしてくる今日この頃。
一体何をした。
ちなみに、アーリヤにハニートラップはあまり効かなかった。
ちょっとポーッとはなったが、しきりにレイリーやナギの事を聞いたりする事に現実に目が覚めたのだ。
この出来事を機に、アーリヤの恋愛関係の鈍さは磨きがかる事となった。
「ごちそうさまでした。
さて、話を聞いてきますわ。アーリヤついてきて。」
「はーい!
レイちゃんこれまだ食べるから置いておいてね。」
「おー、行ってこい」
口元をナプキンで拭い、ナギは立ちあがりアーリヤを連れたって出ていった。
レイリーは更に珈琲のおかわりをして読み掛けの魔道書に目を落とすのだった。
数分後
アーリヤ「レイちゃん!お代もらってきたよ!」
金貨ザクザクな袋を持ってくるアーリヤ。
レイリー「よしっ、数えてくる!」
アーリヤから金貨を受け取った瞬間、猛ダッシュで部屋に駆け上がっていくレイリー。
アーリヤ「速いなぁ。モグモグ」
ナギ「お金が絡むと人が変わりますわね。
普段は自分で持つ荷物も魔術で運ぶか軽量化の魔術で羽より軽くして持つのに。」
アーリヤ「お金の重みは幸せの重みって言ってたよ。モグモグモグモグ」
ナギ「ええー?!」
アーリヤ「魔道研究塔時代、お金がなくて魔道書とか普通の本買えなかった反動だと思う。モグモグモグモグモグモグ」
ナギ「拝金主義にはそんな理由が…」
アーリヤ「ところでナギちゃん、行く用意しなくていいの?」
ナギ「お金を数えている時のレイリーには近づきたくないですわ。(キッパリ)」
アーリヤ「おー、ナギちゃんがいつになくキッパリ言い切った!
その調子で神殿でも頑張って来て!」
ナギ「あ、アーリヤそのついてきては…」
アーリヤ「行かない」
ナギ「その、少しで…」
アーリヤ「断固としてお留守番する。」
神殿には何やらか色々あるようである。