カツ丼はない。
「それでは取り調べを開始しするわぁ。」
アーリヤは椅子に縛り付けられていた。
比喩ではなく実際に。
目の前には美味しそうなスイーツ達。ミザリーは笑顔でそのひとつをスプーンですくうとアーリヤの前に差し出した。
「さあ、アーリヤ…で、相手の名前は何て言うの?」
「なんて意地悪!
ミザリーさん、ほどいてください!食べたい!!」
「アーリヤ…名前くらい減るものじゃないでしょう?
それとも名前を明かせないくらい私のことは信用してないの…?」
椅子に縛り付けられたままバタバタとするアーリヤにミザリーは目を潤ませて、うつむいた。
空いてる方の手で顔をおおう。その間からキラキラと光る雫が零れ落ちるのが見えた。
「えっ、そのっ、違いますよ!
そういうんじゃなくて恥ずかしくて…」
「紹介できないくらい恥ずかしい人だなんて!!」
しどろもどろになって言うアーリヤにミザリーは両手で顔をおおって叫んだ。
「違いますっ!!
セイ君はかっこいいしなんでもできるし優しいし、お仕事頑張ってる人なんですよっ!!すごいんです!」
「セイ…君…?
年下なの?アーリヤ…」
「セイ君は本当はセイランですけど小さい頃からそう呼んでるだけです。六つ年上で今は魔王城で働いてます。
だから変な人じゃないです。魔王様は変ですけど。」
アーリヤが答えるとミザリーは顔を上げてにっこり微笑んだ。
その顔には涙は無い。
「あっ、だっ、騙された!!!」
ガーンとショックを受けるアーリヤにミザリーは言った。
「ちゃんと話せたアーリヤにはご褒美をあげるわぁ。
好きなの食べてねぇ~」
縄をすぐに外してやりケーキを進める。
とたんにアーリヤははしゃいで幸せそうに食べ始めた。
「小さい頃からずっと一緒なの?」
「同じ村出身なんです。
ずっと一緒ってわけじゃなくて…。はじめはレイちゃんも一緒に住んでたんだけど魔道研究塔に行って、その後にセイ君も頭よくないと入れない学園に行っちゃって…
私も学校に入学して就職して、冒険者になったからもう何年も会ってなかったんですよ。」
ケーキを食べるのに夢中になりミザリーの質問にもすんなり答える。
狙い通りである。
ミザリーも目の前のケーキを食べながら質問を続けた。
「なんで急に会うことになったのぉ?」
「レイちゃんとナギちゃんがピンチらしくてそれを知らせに魔王様が来て、
仕事をサボった魔王様を追ってセイ君が来たんです。」
「…ちょっとワケわからないわぁ…?」
話がおかしな方向にいき始めているようにミザリーは感じたが、紛れもない事実なのであった。




