甘酸っぱい、それは…
ネイバンの店を逃げるように飛び出したアーリヤは歩いていた。
頭のなかはぐちゃぐちゃだ。
ビックリしているのと嬉しいのとなんか恥ずかしいのとが頭の中をグルグル駆け回る。
湯気が出そうだった。
「うわあー!卵のヤツ以外なに作ろうー!!!」
「キャンキャンキャン!!!」
いきなり叫び出すアーリヤに、見た目小犬の柴な魔獣ホクトかなにやら訴える。
ポムッと可愛い肉球でアーリヤの靴を叩き、更に声をあげる。
「キャンキャンキャンキャーン、キュンキュンキューン、キャンキャンキャン!!!」
「……!!!
そうか!ホク、賢い!ありがとう!」
「キュンキュンキューン!」
「アーリヤ、おかしな子みたいに見えるわよぉ?」
「わ、ミザリーさんこんにちわ、ビックリした。」
後ろを振り向けば、アンニュイ美女な酒場カフェ店主のミザリーが立っていた。困惑顔すら美しい。
「往来の真ん中で叫ぶのはよくないわぁ。
とりあえずそこの店でお茶でもしましょうねぇ。疲れてるのよぉ。」
「まって!ミザリーさん、お茶できるのはうれしいけど勘違いしてる!
ホクト魔獣で召喚したの私だから意志疎通できるんだよ。」
かわいそうな子扱いされていることに気づいたアーリヤは抗議した。
「あら、そうなのぉ。でも、ちょっと休憩したほうがいいわぁ。顔真っ赤よ。」
ミザリーはさらりとそれを流し、有無を言わさず手を引いて…いや、引きずっていく。
その細腕にどんだけの力が!と驚くほどである。
「なんだか恋の予感がするのよぉ、
お姉様に相談してみなさぁい。からかい倒すけど解決法やらアドバイスしてあげるわ。」
「からかい倒されるのは必須なの?!」
「だってぇ、他人事の恋愛がらみの相談なんて面白いじゃない。
アーリヤちゃんの相談はドロドロ愛憎三角関係やらそんな胸くそ悪いものじゃないだろうしぃ。
うふふ、甘酸っぱ~い予感しかしないわぁ。」
色気たっぷりに笑いながら、ズルリズルリとカフェに引きずっていくミザリー。
からかう気は100%であるが、いつもぽやんとしていてスルーしてしまうアーリヤがこれほど赤面する出来事は珍しい。
見たところ嬉し恥ずかし恋心的な気配を感じるのだ。
甘酸っぱい恋は応援してあげなきゃ、である。
もう自分にはできない分野の事なのでミザリーはわくわくしてしまう。
「ミザリーさん美人だからって微笑めばなんでも許されると思わないでください~!
からかうとかひどい!
そ、それに違うもん、好きとかじゃ、ないもん!」
「うふふふっ、好きなのねぇ~」
「キュンキュンキューン…」
更に真っ赤になって言いつのるアーリヤと、妖艶に微笑みつつ剛力でズルズルと店に引きずっていくミザリーに、ホクトはやれやれと言わんばかりに首を降りてくてくと付いていく。
こうしてアーリヤは連行されたのだった。
カランコロン
店員「いらっしゃいませ~ってミザリーさんこんにちは。」
ミザリー「お邪魔するわよぉ。ちょっと個室空いてるならそこにしてくれない?居ても二時間程度よ。」
店「今の時間帯なら大丈夫ですよ、その子犬は…」
ミ「魔獣だそうよ。しまった方がいいならそうするわ。」
店「ナデナデして良いですかっ?!」
ミ「どうなの?アーリヤ。」
ホクト「キャンキャンキャン」
アーリヤ「優しく撫でてくれるならいいし、抱っこも許すって。」
店「うひょ~ありがとねぇ~よーしよしよしかわうぃねぇ!きゃわいいねぇ!」
ミ「けっこう付き合いあるけどそれほどまで犬好きとは知らなかったわぁ~」
ア「美人なのにでろっでろに溶けた顔になってる…」
店「可愛がりすぎでいつも逃げられちゃうんですよぉ~よーしよしよしよし!」
ア「構われ過ぎるてもストレスになるからなぁ。」
ミ「目が完全にいっちゃってるわぁ。あれで迫られたら怯えるわよねぇ。」
店員は全回復した!
魔獣ホクト、ストレスで10のダメージを毎ターンごとに受ける異常状態を発生!