夜が明けたら珈琲と美女。
「あ、朝日…」
ふぁーっと欠伸をしてアーリヤは伸びをした。
向かいにはナギと見知らぬ女性がテーブルに突っ伏し、幸せそうに眠っている。
うつらうつらしたりしていたが、二人は先程まで熱心に意見を交わしあっていたのは分かっている。
人見知りのナギがここまで仲良くなるなど珍しい。
とても良い傾向だとアーリヤは嬉しくなった。
レイリーは我が道を行く子なので心配はなにもしてないが、ナギはなんだか危なっかしいところがあるので心配していたのだ。
「アーリヤちゃん、これ飲んだらお帰り。
しかしずいぶん白熱してたねぇ」
女性店主が熱々の珈琲を差し出した。
「ミザリーさんごちそうさまです!
朝方まですいません。
ここ居心地良くて安心してうとうとできますね。」
「本来ならうとうとする前に帰ってほしいところだけどねぇ。
まぁ、神官のお嬢さん連れてじゃ夜道は危ないよ。
酔って暴れずお代を払うなら少しの長居も大目に見てあげるわぁ。」
女性店主ことミザリーはパーマがかった長い赤毛に長い睫毛、プルンプルンの唇をしたアンニュイな雰囲気を醸し出す年齢不詳の美女である。
ハスキーボイスがチャームポイントな元凄腕冒険者、元男、という経歴をお持ちだ。
女になったのは呪いが原因だそうだが、元々オネェ属性だったので問題ないとの事。
アーリヤが何故そんな人物と知り合いかといえば、レイリーとナギを狙う刺客に脅し連れ去られそうになった所を助けてもらったのだ。
いや、刺客自体は一人で倒し終えたが、控えていた仲間が暴行罪だ牢獄行きだ、と脅され困っている所を助けてくれたのだった。
レイリーに話せば怒られそうなので内緒にしたが、お礼と感謝をこめて珍しいハーブを届けてから交流が生まれ、共にハーブ取りに行ったり、お店を訪れたり、たまに別な店に飲みに付き合ってもらったりと細々と交流するようになったのだ。
「ありがとうございます。
それにしても、このお姉さん誰かなぁ?
貴腐人って、なんだろう?」
「そんなんでも伯爵婦人のお貴族様よ。
男同士の恋愛事が大好物なの昔から。私の昔のパーティの子よ。」
「だからナギちゃんと話が合ったんですね~
私はよくわからない事も盛り上がれる人に会えて良かった!」
ニコニコとアーリヤが言う。
相変わらず洞察力があまり無く普通なら色々ツッコミそうな事もスルーする子だとミザリーは思ったが、そこがアーリヤの良いところでもある。
だからこそ卑屈にならずに仲間と過ごせるのだろう。
「…アーリヤちゃんさぁ、
告白されたんだってぇ?良かったじゃなぁい。」
急に話題を変えたミザリーにアーリヤは頬を膨らませた。
まるで子リスである。
「もー!!!
知ってて聞いてますね!!!
ミザリーさん、私が繋ぎにされたって分かっててそういうこと言うんだから!美人だからって許しませんよ!?」
「だって騎士様でしょお!
見た目は良いじゃなぁい。まぁ、色々な圧力に屈しそうだけどぉ、ホホホホ」
「顔なんて知りません!覚えてないもん!」
「…えっ?そうなの?
あー、ならいいわぁ。
傷付いてないかちょっぴりこれでも心配したのよぉ?
本当よぉ?」
ねっ!と片手を胸元に、もう片方の手を口元に置き上目遣いでこちらを見てくるミザリー。
男なれば容易く許すであろうそのあざといポーズも美人慣れしているアーリヤには通じなかった。
胡散臭げな目を向けて、プイとそっぽを向く。
「全くもって信用できないです!」
ミザリー「それにしても起きないわねぇ、もう少しいるぅ?」
アーリヤ「まだ早朝のうちに帰ります。人通りの多い時間帯だと絡まれちゃうし。」
ミザリー「それもそうねぇ、じゃあ…」
アーリヤ「よいしょっと!!」
ミザリー「…アーリヤ、何してるの?」
アーリヤ「えっ?
おんぶだけと、へん?」
ミザリー「貴女の方が小さいのにおぶっていけるのぉ?」
アーリヤ「ナギちゃん軽いし、ナギちゃんか弱いから服とかに軽量化の術が掛かってるの。
たまに鼻血や貧血で倒れるから、もしもに備えて私やレイちゃんが持つと軽くなる術も掛けてるんだ。」
ミザリー「たくましいわねぇ…」