カッコ悪くてもいいじゃない。
「ほな、またなアーリヤ。多分着くんは九時ぐらい…にしたい…」
ちょっと困った顔しながらそう言ってセイランは帰っていった。
もちろん転移の術である。
そこそこ高レベルの術がバンバン使われ、ネイバンはもはやつっこむ気にもならなかった。
「き、き、き、きんちょうしたぁぁぁ~…」
アーリヤがため息と共にへたりこむ。
アーリヤと緊張感、それは決して交わらないものだと思っていたネイバンは驚きだった。
「アーリヤ!
お前でも緊張するなんて事あるのかよ!」
「むっ!ネイバンさん失礼です!
私って緊張しいなんですよ!初めて会ったときだってドキドキばくばくオロオロしてたんだからねっ!」
「普通にニコニコしながら挨拶してきた覚えしかないぞ!」
「私、人見知りなんですよ。」
「愛想よくぺらぺら喋れるヤツは人見知りって言わん。
人見知りっていうのはナギみたいなヤツを言うんだよ。」
「マジか!いや、でもほら、無言の方が気まずくてしゃべっちゃうだけだし、ナギちゃんの分も私が何とかしなきゃならないし。
精神的人見知りです。」
へたりこみながらキリッと言い張るアーリヤをネイバンは無視した。どう考えても人見知りではない。
「会いたがってたのってさっきのセイランとやらだろう?
嬉しいじゃなくてなんで緊張しなきゃならないんだよ。
あといつもと変わらない感じだったぞ。」
「本当?
ならよかった。変だったら心配かけちゃうから。これ以上助けてもらってばっかりじゃ辛いもん。」
アーリヤは理由を語らず立ち上がった。
ニッコリといつもの笑みをネイバンに向ける。
「回復薬ありったけと、ふわふわの方の枕七個注文しておきます。
明日取りに来るのでよろしくお願いします!」
アーリヤは頭を下げると返事も聞かずに店を飛び出していった。
ネイバンはため息をついた。
能天気にみえるアーリヤもたくさん抱えるものがありそうだ。
『治してあげたい人』
『欠損した体は戻らない』
先程聞いた内容を考えるに魔王ですら治せない何かの欠損がセイランという男にはあるのだろう。
以前ちらりと聞いたアーリヤの元職場は責任者が重い病に倒れ閉鎖された、らしい。
だがそれはあくまで表向き。色々裏事情も知る機会の多いネイバンの耳には色々と良くない話も届いていた。
裏で違法実験を行っていたことがばれ、潰されたのだという。
職員は知ってるものと、アーリヤのようになにも知らないものが半々だった。ようは実験者と被験者だったのだ。
後々に真相を知る機会がありよくぞ無事だったとネイバンは胸を撫で下ろしたのを覚えている。
今までレイリーが絡んでたんだろうな、位にしか思ってなかったがセイランが絡んでいた可能性の方が高いだろう。
潜入から拷問までなんでもこなすと魔王が言っていたし、必要なら躊躇わずなんでもやりそうな感じがする。
なんていってもあのレイリーと同郷で、魔王も躊躇わずぶちのめせるのだ。なんだってやれるだろう。
影からこっそり守ってやるセイランと、どうにかして意地でも役に立ちたい心配をかけたくないアーリヤ。
見ているともどかしいような、微笑ましいような。
お互い大事にし過ぎてすれ違っているように思えてならない二人。
早くお互いかっこつけるのを捨てて、素直になれば良いのになぁと他人事なのでネイバンは簡単に思ってしまうが本人達にとっては難しいだろう。
「まぁ、野外がとやかく言うものでもないしひとまず見守ろうじゃないか。」
ネイバンは先程の注文の在庫確認のため店の奥へと向かっていくのだった。




