話を聞く気はないね、お互い。
「ひ…久しぶりだな…ナギ。」
睨まれながらの挨拶にナギは固まった。
目の前には陰険姑野郎な兄弟子アイオーン。現在、大神官の一人でゆくゆくは養父リヴァイがついていた大神官長につくであろうと言われている人物。
相変わらずきらきら通り越してギラギラしいほどの美形っぷりだが妄想のオカズよりも嫌悪感が勝ってしまって、自然と眉間にシワがよる。
「お久しぶりでございます。
ご健勝のようでなによりですわ。では、私はこれで失礼いたします。」
何かを読み上げるような棒読みで頭を下げそのまま静かに部屋を後に…
「おい!話がある!待て!」
…できなかった。
リヴァイがアイオーンそんな言い方はよくないよ、ナギもまぁ座りなさい。と 言ったのでお互いしかめっ面で席につく。
「なんでしょうか、大神官様。私は一刻も早く依頼を片付けて帰らねばならないのですが。」
「その、いつもついてきていた娘はどうした。来ないのか。」
「アーリヤでしたら最後に着いてきたときに部屋まで押し入られたので怯えて来なくなりましたわ。
まぁ当然だと思いますわ。嫁入り前の娘ですもの。みだりに男性と二人っきりの密室にしかも身分を振りかざして来られれば怖いですわ。
私、間違ったことを言ってまして?養父様。」
「二人っきりではない!
お付きの者もいたぞ。」
「なお悪いですわ。」
「そうだったんだねぇ…それは不味いね。」
ナギだけでなく敬愛するリヴァイにまで否定されアイオーンは不安顔になる。そんな顔すら美しい。
「高位神官は結婚しないから分からなかったのかもしれないがね、一般的に見て複数で一人きりの女性の部屋に押し入るのは無作法であるし乱暴目的ととられても致し方ない。
しかも、自分達のお膝元でやれば、相手に何をしても揉み消せるんだぞと脅す事にもなりかねない。
アイオーン、誰にも止められなかったのかい?」
柔らかにリヴァイは問いかけるが、普段の彼を知る二人にとってはかなり厳しく言っていると分かった。
「…あの時、補佐官が一人止めましたが他の者に責められ退室した後は私の補佐から外れました。」
最低だとナギは思った。
アーリヤはあの時いきなりアイオーンが来てびっくりしたから滞在中はナギの所に居たいと言っていた。
一緒に布団に寝たりお風呂に入ったりとナギはなんだかお泊まり会のようで楽しかったが、そんなことがあったとは知らなかった。
一対多なんぞナギとて恐ろしい。しかもアイオーンとその取巻きなんてたちが悪すぎる。
「彼は今の大神官長の補佐をしているよ。
彼は君を責めなかったし、余計な事は言わなかった。諌められなかったのではずしてほしいと私に頭を下げてきた。だから別な人間につけたんだ。
言わなかったけどね、あの後追加の請求が来てね大問題になって私が支払いをして責任をとることで落ち着いたんだ。」
にこにこと穏やかに言うリヴァイの言葉に凍りつく。
惜しまれつつも一年前に引退した理由の一端が今明かされた。
アイオーンは真っ青だ。
「も、申し訳…」
「謝って済む話でもないんだよ。
謝ったから元に戻る訳じゃないし、消えるわけでもない。
取り返しのつかないことに対して許しをこう、許しを得ようとするのはある意味自己満足ともいえる。
まぁ、私は歳だしそろそろ丁度良かったから辞めたことに後悔はないんだ。許すよアイオーン。
けれどね、ナギはまだ神官だけどうちには戻らないと言っているし、これ以上不利益を被るのなら辞めるとも言っている。
彼女達にまで許しを強要してはいけない。
君はそれだけの地位と権力を持つんだ。」
「…はい。」
きつく手を握りしめ、唇を噛み締めてアイオーンが返事をする。
この出来事を糧に寛容と許しについて考え実行しなさいと優しくリヴァイが諭す。
とりあえずザマァとナギが内心喜んでいるとリヴァイが爆弾発言を落とした。
「互いを知ることは和解の第一歩。
結界の修復は国境地帯だからなにかと問題も多いから二人で現地に行ってきなさい。」
「「はああぁあ?!」」
生まれて初めて声を揃えてアイオーンとナギが叫ぶ。
「ナギ、お前もまだ夜と闇の神官なんだから寛容と許しを学びなさい。」
そう言われた途端、大規模な術式が展開され二人はアッという間に狭間の森へと転送されたのだった。




