ドキドキな冒険が始まるぜ!
「まぁ、そんなことは置いといて…」
「置いといてほしくはないのですが、俺的には。」
ネイバンの抗議を無視して魔王は言った。
「レイリーが召集されたのは知ってるよな、アーリヤ。
実は同居人の神官のお嬢さん…ナギだっけ?…も実は同じ件で呼ばれたんだよ。」
「うん。確か狭間の森が大変なことになってるんだっけ?」
「魔術の暴走と失敗による結界の消失と生態系異常。
更に生態系異常で狂暴化した生き物に広範囲かつ強力な魔術を放ったことで、更に狂暴化して増殖という地獄絵図が展開されているんだな。はっはっは。」
「えっ、ちょっ、なに笑って話してるの?!
それって十分国家的な危機だよなぁ!??!」
一人、常識的な反応を返すネイバンに魔王は微笑んだ。
「うんうん。そうなんだよ。
あー、あんたいいやつだなぁ城の連中そんな反応全く返さないしさぁだから何?そのくらいで?的なねえー。
まぁ実際うちの国は大したことないんだがリアクションはほしいわけだよ。」
「大したこと無いのかよ!!」
「そこら辺はまぁ、最強の国やから。
気にせんでくださいネイバンさん。魔王様のいつもの我が儘やから。
どんでもないこと周りに振るくせにリアクションも初々しくしろゆう人なんです。魔王様は。」
話せば話すほど、おちゃらけた魔王様にネイバンは戸惑った。
普通、そんな話になったなら大規模な討伐隊が組まれ、悲劇やら壮絶な覚悟やらが展開される事になるのにそんな要素が全く感じられない。
「実際大変だと思うぞ?人間は。
実はな、魔道研究塔のアホが事の発端なんだが、更に悪化させたのも魔道研究塔の人間なんだ。
おまけにウチの国のやつらも巻き込んで魔術放ったそうだぞ。
セイランから報告受けた時はさすがの俺も驚いた。」
「…それは、宣戦布告とも受け止められかねない事じゃあないんですかね…?」
「おっ!
さすが良識ある人だなぁ。その通りだ。
はぁ、良かった。人間の国の連中皆そこまで思い至らないほど愚かに成り果てたのかと思ったがそうじゃないらしいな。」
「ちなみに地獄絵図展開はウチの国が討伐隊から抜けた事によって起こっとる現在の事態ですねん。」
にこにこと魔王とセイランが言う。
ネイバンは冷や汗が出るのを感じた。にこやかに言っているが滲み出る怒りを感じる。人類は危うい場所に居るのかもしれない。
「二人とも怒ってるの?なんか怖い。」
「怒りたくなるで?助けに行ったらいきなり背後から魔術ぶつけられたらどう思う?」
普通、死ぬか重傷をおいますとネイバンは思った。
「えーっ!そんなことされたの?!ビックリするよねぇ。
レイちゃん居たら報復酷いよ!」
ビックリどころじゃねえよ!とネイバンは思った。
「しかもなぁ、間の悪いことに救援に出ていたのはミカの居る小隊で、ファルコが有給使ってついてきてたんや。」
「ミカ?ファルコ?」
「ああ、こいつらの同郷。人間だけど強いぜ?系統は違えどレイリー級の実力者。」
ネイバンの疑問に魔王が答えた。
興味深そうに棚の陳列商品を眺めて回りはじめている。
「ファルコはミカにぞっこんだからなぁーキレたみたいだぜ。
魔術一刀両断。」
アーリヤ愛用の枕を手にとってしげしげと眺める魔王。
大変暢気だが話の内容は物騒だ。
「魔術って斬れるもんじゃないと思うが…?」
「俺の近衛やってるやつだからなぁー。まあ強いんだわ。
この前サボって昼寝してたらソファーだけ一刀両断されて腰強打したんだぜ、ひどいよな。」
お前がな!!!と思うネイバンだったが口にする勇気は無かった。というか目の前の魔王様はそんなにサボって大丈夫なんだろうか。
「このまま放置でも俺らは構わへんのやけど、このままいけばレイリーもナギさんとやらも前線に送られるかもしれん、責任被せられる危険もあるんや。」
「えっ?じゃあしばらく帰ってこないの?!」
「そうや。」
ガーンとショックを受けるアーリヤ。
それより気にすることがあるだろうと思わなくもないが、本人にとっては国家的危機より仲間の行方の方が気になるのは仕方ないのかもしれない。
「だからアーリヤも現地に行って助けに行かへん?」
「えっ?」
「変装してちゃっちゃと解決したらええやん。
安心せい、俺も一緒や。」
「それはスパイ的な?」
「ちょっと違う…けどまぁ似たようなもんやな。」
「面白そう!じゃあ行く!」
「軽いっ!!のりが軽すぎるぞアーリヤ!」
先程のアンニュイはどこに行ったと思いつつ、ツッコミを入れるネイバンだった。
こうしてアーリヤは冒険(?)に出ることとなったのである。
年内はこれが最後。
皆様、よいお年をお迎えください(*^▽^*)




