チャラ男、チャラ男をやめるってよ。
固まったアーリヤに気付いてチャラ男神官見習いは目を見開いた。
そうして…
「あの時は大変申し訳ありませんでしたーっ!!」
それは見事なジャンピングスライディング土下座をかました。
ズシャシャシャシャシャーーーーーーッ!!!!!!
入り口からアーリヤの足元までスライディングしてきた。
土下座ポーズで。
「ええと、あなたは…」
「以前命令でいいよって撃退された神殿の者ですっ」
「あー!
あの時のそこそこのイケメンの人!
雰囲気変わったから誰だから分からなかったです。」
チャラ男神官見習いは相変わらずそこそこのイケメンだった。
…が、
毛髪が死滅していた。
基本的に、夜と闇の神殿の者は男女問わず髪を伸ばす事が推奨される。
昔からの伝統というのもあるのだが、一応神から力を引き出す際に万が一力が尽きた時に髪を捧げる為という大義名分もあったりする。
以前会ったときは肩より長い髪を紐で括っていたはずだ。
「ん?
なんだこのニイチャン太陽の神殿の者なんじゃないのか?」
「私も一瞬そう思ったのでぎょっとしたのだけど、実はナギちゃんの神殿の人だよ。」
「ま、まじか!
どう見ても太陽の神殿の人間にしかみえないぞ。」
そうなのである。
夜と闇の神殿の人々は基本的に長髪で男女比が半々であるが、太陽の神殿の人々は基本的に剃髪・もしくはスキンヘットで男性が圧倒的に多い。
どうしてそんな事になっているのか、太陽の神殿の人々は語らない。それ故、頭に日光を溜めて夜に光輝くとか、頭から太陽光ビームを放つとかおかしな都市伝説が蔓延っていたりする。
「はい。実は太陽の神殿に移ることになりまして、その前にきちんと謝罪されてもらおうと来ました。
この街に定住したと聞いて…」
「えっ、おいっ、夜と闇の神殿と太陽の神殿なんざ犬猿の仲だろう。
どうやったらねじ込めるっていうんだ?」
ナギの養父の尽力で今では交流もある両者だが、半世紀前は犬猿の仲どころか血で血を洗う小競合いもしばしばだったはず。
「色々事情はありますが…ちょっとお話出来ないことなのでスルーしてください。」
まぶしい頭を下げるチャラ男。
「おお、そうか…」
「別にもう怒ってないですよ、だから気にしないでください。
命令されたなら仕方ないですもんね。」
納得いかなくても頷くしかできないネイバン。
触らぬ神に祟り無しだ。
そんな中で、アーリヤはのほほんと言った。
にこにこしながら言葉を紡ぐ。
「私が許すって言えば気が済むのはあなただけでしょう?
もう済んだことなんですから掘り返さないでください。正直迷惑です。」
ネイバンは驚いた。
アーリヤから紡がれた言葉はなかなか辛辣だ。
そんなこと言う性格じゃないと思っていたから余計に。
「…確かに…はは、そうですね…これからはチャラチャラせず清廉に生きます…では…」
そう言って深々と頭を下げたチャラ男は店を後にしていった。
カラン…と扉に付いたベルが寂しく鳴る。
アーリヤがため息を吐いた。
「びっくりしたー」
「やぁ、俺も驚いたぜ。アーリヤでもきついこと言うんだな。
まぁアイツは自業自得だろうがな。」
「うん。レイちゃんからもらった対策マニュアル本のお陰だよ。」
「は?」
「自分がすぐに対応できない時はこれを参考にしなさいって渡されてたの。
見る?」
ネイバンに差し出された掌サイズの小さな本には色々なトラブルに対する対処法や言い方が詳しく事細かに書かれていた。
全てレイリーの手書きである。
「無くさないようにポケットサイズなんだよ!
レイちゃんが何かある度に追加してくれるから何があっても安心!それに今はネイバンさん達みたいに頼れる人が居るから前ほど使う機会はないんだ。」
にこにこしながらアーリヤが言う。
今までページの分…いや、それ以上に色々あったのだろう。
「うん、アーリヤこれからも遠慮せず頼れよ。」
ネイバンはこれ以上ページ数が増えないことを祈った。




