うきうきウォッチング!
「ねぇ、飲みに行きません?」
三人パーティの拠点宿でいつものように夕食を食べ終えたレイリーとアーリヤに向かってナギがおずおずと提案した。
ほんのり頬を染めて言葉を紡ぐナギは大変美しい。
キラキラとエフェクトがかかっているかのようだ。
「…。」
「珍しいね?ナギちゃん飲み屋に行きたいなんて。」
「私が代金支払いますから、行きましょう。」
珍しく、積極的にナギが言いつのる。
許容範囲細マッチョまでのナギは屈強な男や筋肉達磨な冒険者がいる酒場はあまり行きたがらない。
レイリーは酒より珈琲が命の水なので、珍しい料理や美味しい食事がとれる酒場にしか行かない。
アーリヤは見た目に反して、普通に呑むので酒場は好きだが、一人で行くと必ず保護者はどうした、一人じゃ危ないと説教や指導が入るので二人や知り合いが捕まらないとなかなか行けない。
「私は遠慮する。新しい魔道書と小説の新刊が届いたからな。
起きてるから、帰ったらノックしろな。
つぶれるほどは呑むなよ?」
レイリーはそう言って部屋に帰ってしまった。
後に残るのはアーリヤとナギ。
二人は顔を見合せで頷き合うと、仲良く宿を出発していった。
「ナギちゃん、どこか行きたいところあるの?
私、おすすめならいくつかあるよ。」
「アーリヤのオススメに行きますわ。案内してくれます?」
「うん!もちろん!!
あまりムキムキいないところで美味しい所に案内するよ!
お代、本当にいいの?」
「ええ、たまにはおごらせてください。」
「えへへへ、ありがとう!」
仲良く手を繋ぎ歩く二人。
すれ違う男性のほとんどはナギにみとれ、アーリヤを羨ましそうに見ていく。
カップルがすれ違うと男性がどうしてもみとれてしまうので、ケンカの原因となったりと知らぬところで小さなトラブルはあったがそんなことなど知らぬ二人は平和であった。
数分歩き、こじんまりとしているが清潔感もあり可愛らしい店の前にアーリヤが止まった。
「ここなんだけと、どうかな?」
「素敵な所ですね。入りましょう!」
二人が入ると扉についた鈴が鳴る。
すぐに若い女性が出てくると二人を店の奥の席に案内してくれた。
「ご予約の大人数のお客様が来ますので騒がしくなるかもしれません。
注文が滞ると行けないので、先に多めに頼んでいただけるとありがたいのですが…」
恐縮しながら店員が尋ねてくる。
若干怯えぎみなのはメニューを眺めるナギが真剣すぎて眉間に皺がよっている為だろう。
超美人のしかめ面は美しいが怖い。
注文後、おしゃべりをしながら二人がちびちびと飲み始めた時に予約客がやって来た。
「うわぁー…」
アーリヤは呻きとも感嘆ともつかぬ声を出した。
ナギが積極的と言うのはこの為かと、納得する。
視線の先には少年と青年の間に位置するような美少年や美青年がテーブルに着くところだった。
あれは最近この街にやって来た劇団の人間だ、とアーリヤは気づいた。
役者も団員も全て男性であることを売りにした劇団でナギがけっこう通っていた記憶がある。
「ナギちゃん…」
と、言いかけてアーリヤは口をつぐんだ。
ナギの目は輝いていた。というよりギラギラしていた。
微笑を浮かべ酒やつまみに手を伸ばすナギは一見すると表情の変化はない。
しかしながら付き合いの長いアーリヤはテンションMAXハジける手前五秒前☆位にナギがなっていることに気付いた。
あ、これは一晩中でも語られるルートだ。と、アーリヤは思った。
妄想力逞しいナギの話は70%ほど歪曲されている。
腐女子フィルターを通せば男同士のアツイ友情や対立、和解なども、愛憎混じった愛の劇場に変わってしまうのだ。
(まぁ、面白いしいっか。)
俗世過ぎる神官(笑)とレイリーが時々からかうだけはあると、思いつつアーリヤは酒を楽しむことに専念したのだった。
「アーリヤ、見てください。
あの褐色の男性、さっきから隣の美少年の世話ばかり。
あの二人、恋人同士に違いありませんわ。」
「ふんふん。」
「あの眼鏡のかたは、その隣の隣の方に狙われてますわ。」
「そうなのかぁ、何でそう思うの?」
「いいですか、アーリヤあの方の目線や動き…」
ナギちゃんの話は半分もわからないけど、キラキラしながら話す姿はとても可愛いなぁと思うのアーリヤであった。