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それは、ちょっと昔の、悲しい話。

この話はコメディは無いです。

トラウマ過去編なので人が死んだり村が滅ぶ描写があります。

次話に簡単な荒筋をつけるので苦手な方はスルーしてください。























レイリーとアーリヤはのどかな田舎の村の生まれだった。


アーリヤは祖父母は農家、両親は領主の館に勤める昔からの住人。

レイリーの両親と祖母は、遠い都から田舎に移ってきたいわば新参者であった。

しかしレイリーの父親は技術者で領主に重宝され、病弱だか刺繍や裁縫の得意な母親と祖母はすぐに皆に受け入れられた。

基本的にお人好しでお節介、おおらかな土地柄だったのだ。


友好関係がすっかり出来上がり、レイリー一家が村に馴染んだ頃、二人は産まれた。

むかい隣同士のレイリーとアーリヤの二人は記憶に無い頃から共に過ごした。


退屈だけど、のどかで温かな場所だった。

二人は…いや、その頃は八人居た同い年の幼馴染達は、毎日野山を駆け回り、時に喧嘩をしたり、いたずらをしたり、助け合ったり、笑い合ったり…何気ない日常を共に過ごしていた。



何気ない日常が、いかに尊くかけがえのないモノであったのか。

壊れて、崩れて、なにも無くなって初めて気付くなど知りもせずに。

ただ、毎日を過ごしていた。






何気ない平和な日常はなんの予告もなく、呆気なく幕を閉じる。




その日。

村は年に一度の豊穣祭前日だった。

大人達は忙しく走り回っていた。

アーリヤやレイリー達は自分達より少し大きい子ども達と小さい子ども達、世話係の大人数人と共に丘の上の集会場にいた。

子ども達は小さな手で花飾りを作って、明日の祭に心踊らせていた。

昼御飯を食べ終え、思い思いに休憩を楽しんでいた時にソレは起こった。



レイリーとアーリヤは、ようやくよちよち歩きをはじめたちびっこと花畑にいた。



「レイちゃん、どのはながおいしいかったかな?」


「これだよ、アーちゃん。」



幼い二人は花の蜜が飲める事をこの前発見した。

花を摘んで口にくわえ花ラッパごっこをしていた時に気付いたのだ。

別に飢えているような生活はしていないのだが、行事や祭でもない限り甘いお菓子はめったに出ないので、幼い二人にとっては大発見だった。



「グミのきのみはおおきいこやおとながとっちゃうから、このはなはレイたちだけのひみつにしよう。」


「さんせい!へんだよねぇ。

おさけにするより、たべたほうがおいしいのにね。」



歩き始めたちびっこはアーアー言いながらご機嫌に草花をむしっている。

レイリーとアーリヤは花の蜜をさっそく味わおうとおもいおもいに手を伸ばしたその時。



大地が震えた。



ドオオオォォォォォォォォン



大きな音が鳴り、物凄い震動が襲う。

アーリヤとレイリーは二人でちびっこを抱きしめて花畑に転がった。


揺れる。

恐ろしい程に。


地面にうずくまっているはずなのに時々三人の体は宙に浮いた。

ちびっこは泣き叫んで暴れたが、二人はしっかりと抱きしめて、いや、固まって放すこともできずに震えていた。

その間も揺れて、揺れて、揺れ続けていた。



ようやく揺れが収まって、二人が震えながら身を起こすと景色は一変していた。

村を見渡すような小高い丘の向かい、領主の館の後ろにある山が立ちあがっていた。


そう。

立ち上がっていた。

そのように見えた。


真ん中に棒を入れた砂山の中から、棒を取ったときのように山の表面的にあるものはサラサラと流れていった。

音的にはそんな可愛い音ではなかった。

山にあるモノ全てが下へと流れていくのだ。

凄まじい爆音が轟いた。

木が水が土が、そして山に息ずく生き物が、なすすべもなく流されていく。

それらは混じりあい、うねりとなり村を飲み込んでいった。

人を家を、レイリーお気に入りの花壇を、アーリヤがはしゃぎすぎて壊して修理中の木のブランコを、畑を、川を…

全てをのみこんでいく。



山のあった場所には黒いよくわからないものが立っていた。

ふよふよぶよぶよと漂うようにおぞましく形を変えながら段々と人の形へと姿へと変化をしていった。


目と口ができたとき、ソレは叫び声を上げた。

おぞましい声だった。

へたりこんだまま、レイリーとアーリヤはただソレを見つめているしかできなかった。



村をのみこんだうねりは、丘も飲み込もうとしていた。



「アーリヤ!レイリー!ティセラ!」



二人より大きい少年達が駆けてくる。

必死の形相だった。



「逃げるぞ!」



普段意地悪やいたずらをしかけてはアーリヤを泣かす事も多い少年達だったが、しっかりと二人とちびっこの手をつなぎ、あるいは抱き上げ駆け出した。

丘の後ろには山がある。

そこに逃げようと思ったのだ。



「うわあっ」



途中アーリヤは転んだ。



「バカアーリヤ!」



手を引いていた少年は悪態をつきながらもアーリヤを抱き上げ、また駆ける。


その時、アーリヤは見た。

あの立ち上がったよく分からないモノが、こちらに手を伸ばすのを。

黒い手にのまれた後の記憶はない。









次に目覚めたときは、白いテントの中だった。

アーリヤは瞬きをする。

見知らぬ天井に戸惑う。

とたんに音が聞こえるようになった。


怒号と、呻き声、矢継ぎ早に飛び交う指示とそれを受ける声。


知らない声と気配にアーリヤは怖くなり起き上がろうとした。

しかし体は思うように動かず両足を振り上げる事しかできなかった。

ぽすん、と小さな音をたて足が沈む。


その瞬間、辺りは水を打ったようになる。

ただ、誰かの呻き声だけは聞こえていた。



「ああ!目覚めた!ひとり還ってきた!!

早く伝令を!」



涙の滲んだ声で誰かが叫ぶととたんに騒がしくなった。

思うようにならない体でアーリヤはぼんやりするしかできなかった。
















ちょっと昔、魔王の住まう魔国に隣接する小さな村がありました。他の場所より魔力の高い子どもが産まれやすいというだけの小さな村が。


実はその村には人の知らない秘密がありました。

昔、遥か昔、その時の魔王を倒そうと作り出された怪物が暴走して人の国を魔国を壊して回ってしまい、魔王は怪物を倒して封印したのです。

怪物は山となり、なにも知らない人は村を作りました。

魔国の人々と友好を築くようになっていきました。


そして時代は流れ、平和な時代に。


平和は退屈ももたらしました。

ある時、実力はそこそこでプライドだけは山のように高い魔人が封印された怪物の話がのった書物を見つけました。


その男はなにも考えず、ただみてみたいと思いました。


そして、その怪物を倒したら次代の魔王は俺だと意気込んで封印を解いてしまったのです。


どうなるかよく考えもせずに。



こうして、山となった怪物に姿を現せと命じた為に、山のモノはすべて滑り落ち麓の小さな平和な村を飲み込んでしまいました。

生き残ったのはたった九人の子どもと一人の老人だけでした。







こうして、アーリヤとレイリーの故郷は跡形もなく滅び、孤児になった。

怪物にのみ込まれ、魔素に侵蝕(しんしょく)された生き残りの子ども達は元々魔力の高かった者は底なしといえるほど高く、ほとんど持たなかった者は人の身には余る程の高さへと変わってしまっていた。


アーリヤは全く魔力の無い子どもだった。

そこに無理やり巨大な魔力がもたらされたのだ。

幼い子どもの体と精神は蝕まれかけた。

眠ると悪夢見続け苦しめられたアーリヤはひとりでは寝られなくなったのだった。













アーリヤがなかなか眠れない理由でした。



暗い話ですね、はい。

先に人物設定ができて話が産まれたので、エピソードとしては外せない話でした。





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