延長!
まだ踞って呻く白衣の男を置き去りにして、レイリーと魔王は懲罰室に押し込められている暴走者の元へと向かった。
封印やら何やら施され簀巻きになって転がっている人物の頭を魔王が掴み、陣を暴走させたときの記憶を抽出し、ホログラム化してレイリーに見せた。
ほぼ詠唱無しで高度な魔術が展開される。
さらりとやってのけているが、一歩間違えば廃人にするほど精神を侵すものであったりする。
国によっては禁呪だったはずだ。
「良いのか、他国でこんなことして。」
「不可視と幻術を張って、なおかつ俺の張った結界内でやってるから問題はないだろう。
元々ある監視の魔術には俺達の質問に怯えながらペラペラ喋る姿が映っていることだろうさ。」
「才能の無駄遣いもいいとこだな。
私も化け物級だ、人外だとは言われるが足元にも及ばない。」
つまらなそうに言うレイリーに、魔王は楽し気に笑った。
「腐っても【魔王】だからなぁ。
俺に及んだら次代の魔王はお前に決まりだぜ、レイリー。
まぁ全力で挑めば俺のヘソぐらいまでは届くと思うぞ。」
「胸には届かんか。」
「そうだなぁ、俺が病気で死にそうでアイツを人質に取っていれば相討ち位にはなるんじゃないか?
後、それ外せば実力四割の俺といい勝負だ。」
レイリーの左手を魔王が見る。
手袋に覆われた手の甲には強すぎる魔力を押さえる刻印が刻まれていた。
それを施したのは、目の前にいる魔王。
魔道研究塔を卒業した時、いつでも解けるよう解除の術を教えられた。
だが、レイリーはあえて解かなかったのだった。
「…めんどくさい事はしたくない。
このままでいい。十分対応できるしな。」
なんとなく左手を隠す。
強大な力を持ちすぎることは孤独をももたらす。
かなり独りでも平気なレイリーだが、かしましい三人暮らしも気に入っている。
今は平和な時代だ。
すぎたる力は排斥を生む。
人間にしては超強力、しかし魔族的に見るとそこそこ強いレベルに見える位が丁度良い。
「まぁ、どうしようと自由だ。
だが助けが必要ならいつでも頼るといい。それくらいしか贖罪はできないしな。」
「安寧に暮らせるよう、まともに国を運営してくれ。
もう帰る場所が無くならないように。
私が願うのはそれだけだ。」
レイリーは黙ると、ホログラムを見ながら魔術の解析を簡単にする。
そして珍しく頭を抱えた。
「…私は二・三日のつもりで来たんだが…なぁ…」
「少なく見積もっても二週はかかるだろ?
アーリヤ心配ならば連れてくるしかないんじゃないか。
あー、そういや夜と闇の神殿の秘蔵っ子とも一緒なんだっけ?それならまぁ安心じゃないか。」
魔王の言葉にレイリーは呻いた。
「ナギも神殿に結界の張り直しだか修正で召集された。
国を跨いでの修正になったりすれば私と同じくらい、もしくはそれ以上に拘束される率が高い…」
「あちゃー…
大丈夫なのか?アーリヤ。」
「数日なら平気なはずだ。
だがそれ以上はまだ厳しい。」
思わず頭を抱えるレイリーと魔王であった。