異世界への旅立ち
振り返ってみても、なぜあんな行動をとったのかわからない。別に普段から正義感にあふれていたわけでもない。どちらかといえば、ドライな性格で自分がよければ良いという考えの持ち主であった。しかし、勝手に体が動いてしまったのだ。
あまりにも典型的すぎる事故であった。道路に転がるサッカーボール。それを拾おうと道路に出る子供。これから起こる悲劇を象徴するように煌々と光る赤信号。そして、子供にせまるトラック。そんな、交通事故の鉄板とも言える光景が隆の目の前に広がっていた。そして、気が付くと隆は道路に飛び出し、その子供を突き飛ばしていた。トラックが迫ってきているのがハッキリと見えた。不意に、死ぬ直前には時間が遅く流れるように感じるとテレビでやっていたことを思い出した。まさかと思っていたが、どうやら本当だったようだ。不思議と恐怖はなかった。20年と短い人生であったが、毎日を楽しく生きてきた自信はある。後悔はない。そう思い、隆は目を閉じた、、、。
(そういえば、一度くらい彼女を作りたかったな)
目を開けると無機質な天井が視界に入ってきた。
(ここは天国か?)
視界がハッキリとしてきたので、隆は体を起こし辺りを見渡した。どうやら小さな部屋の中にいるようだ。なんだかSFに出てきそうな自動ドアとおぼしきものが一つ、そして隆が寝ていたと思われるベットが一つ。それだけの閑散とした部屋で、壁一面が真っ白でつるつるしていた。天国というのは随分とつまらないところだな、などどと考えているとガガッとスピーカーの音がした。
「やあ、目が覚めたかい?」
スピーカーから男の声がした。とても優しい感じの声だったので、いよいよここは天国だなと隆は思った。
「ここは死後の世界かなにかですか?」
そう隆が尋ねると、スピーカーごしに男の笑い声が聞こえてきた。とても上品な笑い方だ。
「いやいや、君はちゃんと生きているよ。ここは天国ではない。ここは、シエント国の国立研究所レサチオン。君は、昨日の夜、この研究室の敷地内で倒れているところを警備ロボに発見されたのだよ。」
(シエ、、、なんだそりゃ。てか、警備ロボ!?)
かつがれている。隆は真っ先にイタズラの可能性を考えた。しかし、イタズラにしては手が混みすぎているような気がする。どこかのテレビ番組の企画であろうか。隆はとりあえず男にさぐりを入れていみることにした。
「すみません、今日は何年の何日ですか?」
しかし、男は隆の考えを見抜いているようであった。
「私が君をかついでいるのではと考えているのかね?まあ、気持ちはわかる。なんといったって、君は異世界に来てしまったのだからね。」