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09 まずはエミーリオから回避しましょう

16.05.14書き直しました。大きな設定を追加しましたので微妙に話の意味合いが変わってきています。申し訳ありません。



 物語の記憶を取り戻し、自分自身が世界の脅威になることが分かったところで、すぐに行動を移すことが出来ないので、まずはエミーリオのためにナイフを作ることにした。

 川やそこら辺の石から【錬成】で【分離】を使い、鉄を集めた。何十回と繰り返し、純度を上げてようやく子供の手のひらサイズの真っ直ぐなナイフが出来上がった。10㎝ぐらいのナイフでも鉄製だ。この世界の平民ではなかなか手に入らない代物。

 武器としては玩具程度で、これが役に立つかどうか分からないけど、お守りぐらいにはなるだろう。


 エミーリオは来年、奴隷として売られてしまう。そしてその先に待っているのは、奴隷商の男達によって虐待・・・言葉に出すのも嫌なので・・・され、数日間監禁されるという運命が待っているのだ。その後は隙を見て逃げ出し、近くにいた兵士に助けを求めて、持っていたペンダントから身元が割れる。という未来がある。

 その奴隷商にエミーリオの存在を伝えたのが『ルーシア』となっている。


 誰が可愛いエミーリオを奴隷商に売ったりするか!!と怒鳴りつけたい気持ちだけど、物語ではそうなっているのだから、ここで叫んでも意味が無い。

 兎に角、回避できる術を探した結果、身を守るためのナイフとなったのだ。

 当たり前だけど、私が奴隷商にエミーリオを売ったりしないよ!そもそも、忌み嫌われている私がどうやって奴隷商と接触できるのやら。物語でもそこの部分は書かれていなかった。

でも、目を付けられるのは何処にでもあり得るし、身元が割れたその先は、エミーリオにとって幸福となる身分を手に入れることが出来るのだから、この村を出るのは賛成である。

 ただ途中経過が悪すぎるのだ。それを回避できれば、本当にエミーリオは幸せになれるだろう。


 今日はエミーリオが泊まりに来るから、出来上がったナイフを渡すつもりである。そして私のお城に泊まりに来てくれる初めてのお客様なのでおもてなしを考えている。(初めても何もエミーリオ以外が泊まりに来ることはないだろうけど)



 大森林で狩をして肉を手に入れ、砂糖に変わる植物を探し砂糖を精製、質のいい粘土を手にして快適なお城・・・があれば最高のおもてなしとなるのだろうけど、現実はそう簡単にはいかない。


そういうわけで、兎に角近くの小川から手に入れた、多少粘着力があるだけの質が悪い粘土から壁を修復することにしました。【錬成】フル活用です。


 その途中でおかしなことに気づいた。


「……はい??何これ?ありえないんじゃない?」


出来上がった水気を含んだ粘土に、使えるかどうか念のために【サーチ】をかけたんだけど…出てきた表示が見たことも無いものだった。


【魔除粘土(弱)…聖水を含んだ粘土で、虫除け、魔除の効果がある。ただし粘土の質が悪い為効果は弱】


「………」


普通に今まで通り【錬成】して作っただけなのに、とんでもないものが出てきたみたい。まず、聖水は何処から来たの!?

ふと、川から汲んで来た桶に入っている水を見る。


「…そういえば、雑菌とか入っていたら嫌だし、カビられても困るからと【錬成】で不純物を取り除いたんだけど、もしかして!?」


桶に入っている水に【サーチ】を唱えると


【聖水…清らかな聖なる水。微魔力を含んでいる】


………………


「………うん、ここは教会なんだし、そういうこともあるよね!」


と、とんでもない物を錬成してしまったことを見事にスルーすることにした。

でも、聖水って買うと高いんだよね。パン一つが100コル。日本円でいうと100円。そんでもって聖水が100ミリリットルで1万コルというのを聞いたことがある。もし、これを売れば3リットル位あるから、30万コルかぁ。ただの川の水が30万……恐ろしい世界だ。

もしこれを私が売りに行けば村人達からは絶対に妖しいものだと思われるし、神父様にあげてもいいけど何処から手に入れた?ということになるから、どちらにせよ、これがお金になることはない。


すっごく贅沢だけど、当初の予定通り壁の材料にしましょう。

サクサク終わらせて、次は布団を作らなきゃいけないからね。


四方向の壁に塗るには足りないが薄く塗って風だけはしのげる様にした。保温強化はまた今度。布団も実は【錬成】を使えば簡単。材料集めのほうが大変だった。前回の敷布団同様にエミーリオの掛け布団を作った。一応、繊維を叩いて柔らかくしておいた。


「ただ、色がねぇ。白になって欲しいんだけど」


出来上がった布団は70cm×100cmぐらい。半日もかからずに作ったから材料は少なく、薄っぺら。色が…木や雑草の繊維だから、クリーム色といえば綺麗だけど、まばらに濃い色や薄い色が出来ているんだよね。なんだか何かのシミみたい。作り直す時間が惜しいから、この課題はこれもまた今度ということで、次いこう!


「後はおもてなしだよね」


冬に向けての干し柿もどきは各家庭でも作っている保存食であって、教会でも作られている。が、勝手にもってきたら駄目だし、干し野菜もこれからの冬の為に備蓄しておかなければならない。もちろんくれないだろう。


だがしかし!!私の場合は【育成】がある。

この【育成】って本当に【サーチ】と並ぶぐらい便利!数人ぐらいなら食糧難にならないぐらいに生産できる。ただ難点なのは無理やり育てるから、次の種が貧弱になって、芽すら出てこなくなるけど、そこは【錬成】があるから、品質を上げることが出来る。


「もしかしなくても、この村から出ても私って生きていけるのかもしれない?」


いやいやいや、魔物がいるんだから、安易な考えは危険を呼ぶ、駄目、駄目!それに癒しであるエミーリオを残していけない。せめてエミーリオがひとり立ちするまでは一緒にいてやりたいし、プリンという約束が残っている。


「私のお城に招待する時にプリンが出来ていたら一番良かったんだけどな。無いものはしょうがない、大森林で取ってきたベリリでおもてなしにしよう」


野菜を【育成】で育てて料理してもよかったんだけど、勝手に使ったと思われるのも嫌だしね。それにこのベリリ、試しに口にしたけど、とても美味しかったのだ。ちょっとすっぱいけど。ベリー系って感じかな。

これを干しておけば、非常食にもなりそうだし、お茶にもなるかも。とあちらこちらへと思考が移動している間に、夕方になりエミーリオがきてしまった。

ついでに【錬成】【育成】を使いまくったから、流石の魔力チートであっても枯渇寸前でした。


「ルー姉ちゃん、また夕食に来ないで、ちゃんと食べないと駄目だよ」

「あ、エミーリオ、もうそんな時間になったの?」


エミーリオのノックの音すら気づかずに、狭い納屋の中でバタバタしていた。一番見られたくない【錬成】で使う錬成陣は真っ先に隠してある。何故バタバタしていたかというと、いつでも修理できるようにと桶とか粘土の塊や藁クズを納屋の中に放置してあったのを一纏めにしていたから。まさか、此処まで散らかっていたとは思わなかったの。エミーリオが来るからと、改めて見たら…女子ではあるまじき乱雑さに自分自身が吃驚である。


今までは寝られればよかったから…なんて言い訳かな?


「ごめんね。二人寝られるようにって片付けていたの」

「別にあのままでもよかったのに。なんだか秘密基地みたいで面白かったから」

「……」


それはやっぱり乱雑すぎたってことだよね?


「えっと、この上に座ってね」


10cm四方の小さな畳を組み合わせ寝台にしている場所にエミーリオを案内する。


「不思議な物だね。草を編んだものみたいだけど、なんだか落ち着く」

「でしょ!作るのが大変だったもの」

「ルー姉ちゃんが作ったの!凄いね!!売り物になるんじゃない?」

「うっ…まだ皆には内緒ね。試作段階だから」


私の【錬成】の技術はまだまだで大きな物は作れない。畳にしても1畳ぐらいの大きさにしたかったんだけど、出来なくて小さな物をいくつか作り、くっ付けているだけ。元を知っている私としては恥ずかしいばかりである。


「エミーリオは御飯食べてきたの?」


どうやって作ったのか?を聞かれる前に、話題を変えることにした。


「ルー姉ちゃんが食べていないのに、食べないよ」

「こら!そんなことしてないで、食べなさい。私のことはいいから、ね」


これからも大森林に行って探索する予定でいるのだから、夕食に間に合わない可能性もある。その度にエミーリオが夕食を抜いていたらただでさえ、がりがりなのに病気になってしまう。


慕ってくれるのは嬉しいけど、何とかしないといけない。


「私は大丈夫よ。だって畑に行けばなんとかなるしね」


私が育てているけれど、畑は教会のもので勝手に食べることは許されていない。だからおもてなし用に野菜を使うのを止めた。

そしてエミーリオを安心させる為に嘘をつくことにしたんだけど。


ジーと私を見つめていたエミーリオは


「嘘だね」


一発で、それも瞬間に見抜いた。


「え?え?何で嘘だと思うの?一つぐらいちょろまかしても誰も気づかないよ!」


焦って出てきた言葉はなんともちんけで低レベルなものでした。だけど、これは本当。実際に種をちょろまかして【錬成】して質を上げ種をまいていたし、誰も気にしていないし気づいていない。


「お姉ちゃんとどれ程一緒にいたと思うの?ルー姉ちゃんの性格ぐらい分かっているつもりだよ。それに、収穫物が増えているのに誤魔化そうとしないで教会に渡しているじゃないか。他の子供たちが誤魔化して食べたり、それらを売って食べ物や装飾品など買ったりしているの知らないでしょ?」

「え?何それ?本当?」


此処で育って11年、新事実に吃驚だ。私が丹精込めて育てた野菜たちを、子供たちが売ったり自分たちで食べていたの!?私に回ってこなかったのはイジメの一環かな?


「やっぱり知らなかったんだね。そこまでされているのに、収穫物は増える一方だったから、なんとなく気づいていたけど」


私が収穫したものは台所に持っていくだけで、その後のことは知らない。初めの方ではエミーリオに売って貰っていたんだけど、毎回だと可哀想だからと、そのまま台所に持って行くことにした。後は誰かが余れば売ってくれるかな?って。でもそれがそんなことになっているなんて私には分からないこと。だって食事担当じゃないから。食べきれないものは売って、それらは全部教会に入っているもんだと思っていた。まさかその一部をちょろまかしていたなんて。


「だけど、まぁ、ひもじいよりいいんじゃない?」


怒る気なんてもとからない。だってねぇ、もともと貧しい村での生活向上を狙って種の品質を上げていたから、役に立っているのなら願ったり叶ったりよ。


「そんな暢気な…だから、僕は目が離せないんじゃない」

「ん?何?何か言った?」

「なんでもないよ。それよりも夕御飯今から食べに行く?殆ど残っていないと思うけど、他の子たちも勝手に食べているんだから、僕たちも好きにして良いと思うよ」

「そっか…だったら、遠慮せずにこれを出せるわね」


 おもてなしように【育成】で育てたベリリをエミーリオの前に置いた。熟しているけどそのままの実を20個ぐらい。

 野生のベリリは小指大の小さなものだったけど、目の前のベリリは【錬成】を繰り返して実を大きくし、すっぱさが控えめになったベリリ。そして葉っぱと小さな実はお茶として利用。


「これは何?見たこと無いけど、果物?」

そうよ、林の奥で見つけたの。美味しいわよ。そしてこっちがこの植物で作ったお茶ね」


本当は大森林で見つけたもので、それは言えないから嘘だけど、エミーリオはベリリに興味があるのか私の嘘には気づかなかった。

よかった。さっきは一発で見破られたから、ちょっと不安だったの。


「わぁ、本当に美味しい。それにお茶もなんだかスッとして病気でも吹っ飛びそうなほど元気になれる気がする。有難う、お姉ちゃん!」


病気でも吹っ飛ぶ…かぁ、マジでそうかもね。だってその水は聖水だもの。コップ一杯で2万コルぐらいかしら?元は川の水だけどね。

何はともあれ、喜んでくれたのなら、私も嬉しい。


こうしてエミーリオにおもてなしが出来たし、私が元気なところも見せられたし、林から食べ物を採取して夕御飯もいらないことをアピール出来た。

大森林に行って多少遅くなっても、エミーリオは気にせずに夕御飯を食べてくれるだろう。


納屋は一応解決ということで、明日からは大森林で狩が出来るようになるまで修練ね。


 エミーリオからの癒しを頂、ほくほくと幸せを感じながら就寝する事が出来た。――ら最高の1日で終れたのだけど、肝心なことが残っていたわ。


「エミーリオ、これを渡しておくわ」


 出来てすぐに机の引き出しに入れてあった小さなナイフを取り出して、エミーリオの手に乗せてあげる。


「これ・・・」


鉄製を目にすることがなくとも、小さくても刃物・・・つまり武器となる代物を手に乗せられて固まってしまうエミーリオ。


「エミーリオにあげる。いざという時に使ってね」


 そのままだと刃がむき出しになっているので、木で作った鞘にいれてあげる。

「肌身は出さずに持っていて欲しいから・・・そうねぇ、何処に隠そうかしら?・・・・・・あっ!ふふふ、良いこと思いついたわ」


 未だに固まっているエミーリオの後ろに回り込み、肩より長くなった金髪の髪で三つ編みを作り、その中にナイフを入れ込んだ。


 細身で厚さのないショボいナイフしか作れなかったけれど、これはこれで良かったかもしれないわね。上手い具合に隠れることが出来きたんだもの。


「あの・・・ルー姉ちゃん・・・?」

「何?」

「こんな高価な物もらえないし、それにいざという時ってどんな時?」


 コテンと首をかしげたエミーリオはやばいぐらいに可愛い。こりゃ野郎どもが襲うはずだわ。一概に奴隷商達が悪いとは言えないかもしれないわね。私であっても頬ずりしたい気持ちに駆られるもの。

 ・・・と、危ない!野郎どもの心情にシンクロしてどうする!エミーリオを守るんでしょう!


「いざという時はいろんな場合があるわよ。今のところは安全な村でもいつ魔物が入ってくるか分からないし、エミーリオは可愛いから不埒な輩が何かをするかもしれない。そんな時、自分の身を守るために使って欲しいの」

「ふ、ふ、不埒って、何言うんだよ!僕は男だよ!」

「この世の中にはいろんな人がいるからね。記憶の片隅にでも覚えておいた方が良いわよ」


 真っ赤になったと言うことは意味合いを分かっていると取って良いのかしら?10歳で知っているなんてオマセだね。

 だけど、話が早くて助かるわ。


「暫くは重く感じるけど、その内慣れてくるから。出来ればこれからずっと髪にナイフを隠していてね」


 エミーリオは編み込まれた髪とナイフが気になるようで、寝付くまで落ち着かなかった。

 何か言いたげだったのは、自分は男なのに三つ編みをしているのが気になるのかもしれない。

 でも、どうして高価なナイフを持っていたのかを気にかけるよりは助かるので、「似合っているよ」と本音とからかいを混ぜて意識をそちらに向け続けた。


 これでエミーリオの最悪を免れた――なんて思っていない。あんなショボいナイフでは不意を突くぐらいは出来ても倒すことは出来ないし、そもそも優しいエミーリオが人を殺すなんて出来ないだろう。だったら後は、逃げるために必要な体力とスピードを身につけて貰わないといけない。


 子供らしく駆けっこや鬼ごっこで体力とスピードをあげようかな?



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