06 ようやく冒険、大森林で出会った生き物は
16.05.14書き直しました。大きな設定を追加してますが7話までは殆ど変わっていません。
快適とはいえない床で、掛け布団一枚を被って睡眠をした翌日に、重い体を引きずりながら、扉に手を付けた。扉には僅かに残っていたレインコートの切れ端を使用。これで、外は整ったわけなんだけど、中は手づかず。
誰に見られるか分からない外はこんなもので良いとして、中はちょっと魔法を使って奮発するつもりでいる。でも、材料がないので裏の林から取ってくるしかない。
先ずは粘着質のある土と動物の皮があれば助かるなぁ。粘土は【錬成】があるからなんとかなるだろうけど、動物の皮は・・・子供の私だと簡単に手に入るものじゃないよね。買えないし、動物を仕留める手立てもない。
「ぼちぼちやるしかないかな」
まずは色々鍛錬して狩に出るしかない。1日、2日ではどうこうできることではないので、それらは後回しにして今できること、敷布団の製作に取り掛かった。とはいえ、割と簡単である。そこら辺に生えている草や葉っぱを取ってきて【錬成】で水分を取り除き、繊維とその他とに分けて、布で包めば出来上がり。ほら簡単でしょ?
この世界の貧民は藁が入っているのだから、こんなもんでしょ。
繊維をそのまま使ってしまったから、ちょっとごわごわだけど、床で寝るよりはましだわ。
次作るときは繊維を叩いて柔らかくしてからにしようっと。
「布団もその内、羽毛とかにしたいな」
出来上がった私の城を、孤児院の子達が「変な馬小屋」「馬小屋のほうが立派でしょ。あれはどちらかと言うと見世物小屋?」「不気味~」とか言って笑いあっていた。
けど気にしない。確かに屋根の色は魔物のレインコートを使っているから白黒、茶色の三色だし、それを固定している壷の欠片の形もまちまち。壁側面は藁で覆われているからふさふさ?というかバランスが悪くて不恰好だよ。笑われるのを分かっててやっているのだから、まったく気にならない。これで、イジメがエスカレートしないのなら、もうけもんよ!
などと、考えていたけど、イジメがそう簡単に終わらなかったようである。だけど私のあずかり知らぬ間に終わっていたようだけど。
その三日後に、サムとアーレンが、私が林に行っている間に蜘蛛やらトカゲをもって納屋に入ったらしく、その際に割れた窓から侵入したと思われる蛇と遭遇し、一騒動があったらしい。それからというもの、孤児院の子供たちは更に納屋に近づかなくなった。
多分、ツェネとロミあたりが指示を出していたんだろうと予測される。
蛇が大の苦手としているから、「よかった、私がいるときじゃなくて」と、心底ホッとした。イジメを感謝する日が来るなんてね。
その後、もちろん窓を修理したよ。
※※※※※
納屋に対してのイジメが無くなったから、大森林へと私の意識は向かう。
大森林にはもちろん魔物が生息しているし、それだけでなく魔力を持たない動物も子供の私にとっては脅威になる。唯一の生き残る方法として【転移】があるのだけど、出来るからといって即大森林へと向かうなんて無謀なことはしないよ。
【転移】がどれ程の能力なのかを検証してある。
自分の体以外も【転移】出来るのか、木や岩の障害物が目の前にあった場合は?見えなくても大丈夫なのかと、色々実験をした結果、身につけている物や手に持てる範囲なら他の物質も転移出来る。目の前の障害物に関しては、イメージさえきちんと出来ていれば障害物は関係なく、視界で認識できる範囲ならイメージが固まっていなくても【転移】で飛べるみたい。
魔力切れを何度も繰り返すまで【転移】の練習をしたので、レベルは4になり一度の魔法で500メートル飛べるようになった。それだけでなく、ポイントを設置できるようになり、100メートル以内なら、【サーチ】と連動して瞬時に飛べる優れた足となった。
【サーチ】のポイントの検索範囲は100メートルなので500メートルを飛ぶ場合はイメージの固定が必要となる。その内【サーチ】の範囲が広がればもっと便利になるだろう。
ということで、【サーチ】の熟練度を上げつつ、この先を見据えて【育成】の能力も上げておきたい。
そして獲物を獲る為に弓の練習を始めた。
畑仕事をしながら、鍛錬を繰り返しているうちに、夏は過ぎ、秋が訪れようとしていた。日本でいえば10月末ごろだろうか、そろそろ冬に向けて準備しないと、あの納屋で冬は越せないだろう。
安心して冬を越す為に、新たな掛け布団と壁の補修の材料を求める為に、森へ赴く決断をした。
…んだけど、大森林に行くと決めてから、どんなに日にちを要しているのよ!暢気すぎるのも大概にしろーーっ!って自分に言いたい。未だにエミーリオを私の城に招待できていないし(だって内壁が途中だし)プリンだって決めた時から一歩も進んでいない。
ある程度、魔物との遭遇で危険になったときの逃げ道は確保できたことだし、この際一辺に解決しようではないか!と意気込んでいる。
目標は壁の修理の為の良質粘土と砂糖の原料になりそうな草木の発見、そして資金集めのための狩。
ちょっと欲張りすぎかな…?
そんな私の魔法のレベルは。
光魔法…【育成】Lv.2→Lv.5
闇魔法…【錬成】Lv.2→Lv.3 【従魔】Lv.1
無魔法…【サーチ】Lv.3→Lv.6 【転移】Lv.2→Lv.4
弓…Lv.2
かなり熟練度を上げた成果を見ることが出来る。
短期間ではありえない成長をしていると思わない?それだけ頑張ったんだからね。多分、私にあった属性だったから成長が早かったと言うのもあるけど。だって、試しに【火魔法】の初歩【イグニート】(点火)や【水魔法】の初歩【ウォーター】はいくら練習しても身についていないんだもの。
属性の表示が無いから私に他の魔法が使えるかどうか分からないんだけどね。それは来年になったら教会で調べることが出来るらしいけど。私を含め早い人は10歳で魔法を使える。
大森林に行くのだから【攻撃魔法】が有った方が便利だし、生きる確率も高くなるし、獲物を仕留めやすいのに。合間、合間に練習しても顕現する様子が見られない。つまり私に属性が無いのかもしれない。
魔法に関してもう一つ分かったことがある。私が使える魔法の【光】【闇】【無】は、メインの攻撃重視の正魔法ではなく、補助魔法ばかりということ。
今のところイジメや迫害まがいなことをされていても、攻撃してやろうなどという危険思考を持っていないし、魔物に襲われてもないから特に必要と感じず、意欲の違いから練習しても成長しないのかもしれない。そう結論することにした。
「でも、森に入るのだから少しでも身を守る魔法も欲しいんだよね」
攻撃魔法が身につかないのだから、比較的習得しやすそうな弓の練習をし、Lv.2まで上がった。とはいえ、弓自体は素人の手作りの上、ようやく的に当たるようになったぐらい。
「こんなもんで、獲物を獲られるのかしら?だけど、剣なんて扱えないし買えない。ま、駄目なら逃げて帰ってきましょうか」
万全とはいえないまでも準備は整ったので、森に入ることにする。それも誰も知られずにこっそりと教会の裏の林から【転移】を使いあの大岩を越える。
大岩の下に降りた第一の感想は。
「なんていうのか、密度が違うって感じだわ」
裏の林は木が細くまばらに対し、森は木々の間につる性の草に雑草も大きい。人を拒んでいる風だ。
「何が飛び出ても不思議じゃないわね。この辺りはまだ森の入り口だから魔物はスライムや小さな魔物ばかりのはず。大丈夫、落ち着いて対処すれば私でもスライムぐらいはやっつけられる!」
大きく深呼吸をして、一つ目のポイントを設置する場所を探しに向かう。
「獲物も大事だけど、逃げ道はもっと大事ってね」
昨日一日雨だったために、土がむき出しのところはぬかるんで歩きにくい。だから草の上を歩く。足元に注意をしながら、周りへの警戒は怠らないように慎重に。
って、聞くとかっこいいけど、実際はびくびくしながら一歩一歩を踏み出している。
だって、魔物だよ。魔物!日本ではお目にかかったことがないし、まず動物すら檻の中でしか知らない。そりゃ愛玩動物は大好きで犬とか猫は平気だったけど、そんな可愛いものが自然豊かな森の中で遭遇するはずもないもの。怖くて仕方ない。
びくびくしながらも一つ目二つ目のポイントを設置した。ポイントの設置は、自分の魔力を注いだものを置くか埋めるか魔方陣として刻み込むとか色々あるのだけど、私は種にした。
一番いいのは魔核、もしくは宝石なのだけど、そんな貴重なものが手に入るはずもなく、そして岩や木に魔法陣を刻んでいる間に魔物に囲まれたら恐ろしい。だから魔物が嫌いだという木から種を貰い、そこに私の魔力を注いだ。正確には【育成】で苗まで成長させているだけなんだけど、それでもポイントの役目を果たすらしい。白い幹に赤い葉を付けるから目視で確認しやすいしね。
三つ四つとポイントを設置しても、生き物の気配すら感じずにいることに、周りを観察する余裕を持ち始めた。
村では咲かない花に、見たことがない葉っぱ、蔓にぶら下がる何かの実。それらを一つ一つに【サーチ】をかけて、役に立ちそうなものを背負ったリュックに入れていく。
「わぁ、小さくて可愛い赤い花だ!殺風景な部屋に飾ると可愛いかも」
【ネルル…毒花。花粉や実に毒をもつ】
「おおっと、これは近寄ると危ない奴だ」
【ベリリ…ネルルと似ているが実は食用。冬に実をつけ寒さに強く美味しい】
「なんと、冬に実をつけるなんて貴重なものだわ。貰っていこっと」
【育成】を使い成長を促して、種をもぎ取りリュックに入れる。
私の【サーチ】はレベルが上がって、知らないものでも教えてくれる優れものになった。Lv.2だと知らないものは【植物】ぐらいしか表示しなかったのに。格段に良くなっている。もしかしたら、これだけで生きていけるかもしれない。
重宝重宝!もっとレベルが上がれば何の毒だとか、何処に分布されているのかが分かりそうで、暇があれば使うようにしている。
それから2時間ほど歩いているが、まったく動物や魔物に遭遇することがないので、こうして探索しながら進んでいる。これはこれで有意義だ。生活に使えそうな植物に食用となるものまで見つかるのだから、動物を仕留めることが出来なくても良い収穫だと言える。
「もしかしたら、この辺りには何も住んでいないのかもしれない」
子供の足で、それも道草しながら2時間ぐらい歩いていても、大きな森のほんの入り口に過ぎない。
ランクの高い魔物は森の奥深くに縄張りを持っていて、滅多にそこから出ることもない。弱い魔物は強い魔物を避ける傾向があるから、必然的に森の浅いところは弱い魔物が生息するという環境が出来上がっている。ま、例外があるらしいけど。
「ここは自然の摂理どおりのはずだから、そろそろスライムやゴブリンあたりが出てもおかしくないんだけど。ん?」
ベリリの種をもう少し貰っていこうとして種にしていたら、隣のぬかるみからキラキラ光っているのが目に留まった。昨日一日雨だったから水溜りが太陽の光に反射しているのかと思っていら、どうやらあいつのようだ。
「こいつって何処にでもいるのね」
水を好み、体長30cmの透明の体を持ち、デロデロとした生き物。畑に良く現れて、丹精込めて育てた作物も食べてしまうという、私の天敵だ。
でも、すっごく弱くて、棒で掬って投げ捨てるとただの水となって土に吸い込まれていく。だから私でも駆除できているのだが、雨の翌日は何処から現れるのか、かなりの数が畑に群がっている。今日も除去してきている。
「アメーバーみたいなんだけど…そういや、畑を荒らすから【サーチ】も使わずに速攻で駆除してきたけど、これって何なんだろう?」
畑の敵であっても弱いから虫みたいなものかな?と興味を持っていなかった。でもこの森は魔物が住む危険地帯。こんなところで、弱小なコレが生きていけるなんて思えなくて、【サーチ】を使ってみようかという気になった。
心の中で、アレに標準を合わし【サーチ】を唱えると、信じられないものが表示された。
【アメーバー…水や魔素が宿った草や葉を好む。成長すれば魔物のスライムとなる】
「なんと!スライムの元だったの!?」
吃驚だわぁ。アメーバーを放り投げてやっつけていたから、私のレベルも緩やかだけど上がっていたんだ。うん、色々と吃驚の生き物だわ。
これを切欠に私の人生は大きく変わっていく―――