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05 自分の部屋を作ろうと思います。

16.05.14書き直しました。大きな設定を追加していますが7話までは殆ど変わっていません。



 さて、部屋は追い出されたものの、神父様から追い出されたわけじゃないから、ここにいてもいいわけで、あの子たちが嫌がる畑仕事はまだ私の仕事。雨風をしのげるこの場所は最適なんだけど、村人も利用する書庫で住む訳には行かないし、荷物も置いておくわけにはいかない。


「ともかく、荷物を持って畑仕事に行こう」


 朝食は…一応、食べた。が、体調は少々悪い。もちろん理由は固い床で寝たからである。体中が痛くて、良く眠れなかった為に、エミーリオに「どうしたの?」と心配顔で可愛く覗き込んできたお陰で気分だけは癒されている。

心配されるってくすぐったいね。


 教会の裏にある畑が私の仕事場。その脇の草むらにカゴを下にして布団も積んでおく。これで汚れないだろう。それどころか今日は天気もいいから、薄っぺらい布団でも少しでもふかふかになるかもしれない。


 先ずは仕事を優先しようと、小屋に…というかいらないものばかり詰め込んでいるのだから納屋に近いのかな?納屋に桶と柄杓を取りに行く。そこで傍と気づいた。


「この納屋って要らないものばかりで、私しか使ってないよね…?だったらここで寝泊りしても大丈夫なんじゃない?」


 畑仕事を嫌っている子は先ずこない。なにより私がいるから近寄ることもしない。来るのはエミーリオとたまにランス神父が様子を見にくるくらいだし、だったらいいよね?


 収納されているのは畑で使う器具や肥料。後は机や割れたつぼに紐、カゴ、何に使うのか分からない棒切れや、ぼろぼろの布や何故あるのか分からない魔物の皮などなど。

 この村ではごみを収集に来てくれるわけでもないので、自分たちで処分しなきゃならない。まとめて処分するつもりで、ここに放り込んで積もってしまったものばかりといった具合。本当にどうでもいいものしか入っていない。

 畑仕事の水遣りを終えてから、一応、ランス神父に許可を得て、納屋の掃除に取り掛かった。

 重かったので机はそのままで、いらない物と使える物と区別しながら外に出し、出し終わったら棚や天井、壁から床まで綺麗に埃を取り、拭き掃除。

 納屋の中は机と棚だけとなり、所狭しと詰められていたいらない物をのければ、かなり広い。四畳はあるんじゃないだろうか?でも長い間補修もされておらず、板を組み合わせただけの簡単なつくりの納屋のあちこちには隙間がある。小さな窓が意味を成さないぐらいに、光で充満していた。


「これから夏になるから良いとして、冬になったら、これは凍死しちゃうわね」


 骨組みはしっかりしている。余計な手を加えても、つぶれることはなさそうだけど、釘…なんて高価なものは手に入らない。この骨組みも木を凸凹に切り、組み合わせて作られているのだから。どうしても必要な時は、木で出来た杭でつなぎ合わせている。あるもので工夫して作っているんだから、人の技術って本当に凄いよね。だったら私も考え巡らせば何とかなるのでは?と、外にある要らないものを選別する。


 壷は底が割れたものや、真っ二つになったり、損傷の激しいものが十数個に、竹みたいなので編まれたカゴが十個近く、跡は数えるのが億劫なくらい。あ、後、処分されずに残ってしまった藁もある。他にも土鍋の補修に使うつもりだったのだろう古くなった粘土や魔物の皮で作った一昔前のレインコートなど。


「壷…つぼかぁ。元は土だよね。焼いてあるから、それなりの強固だし水を弾くから屋根に使える?」


 壺は屋根、竹もどきのカゴばらし、丸くなったのを伸ばし編み直せば使えるだろう。粘土も素材と素材を接着するのに使える。うん、これだけ材料があれば何とかなるだろう。

 釘はなくても私には【錬成】という強い味方が付いているので、雨風をしのげるものを作れるはず!

 ということで、早速納屋の修理に取りかかることにした。


 まずは屋根から。粘土と割れた壺、土鍋で屋根を覆う。粘土は少ないので水と藁でかさ増しして、適度な大きさに割った壺と土鍋を納屋の骨組みに沿って並べていくが、全体を覆うぐらいの分量がなく、そこで役に立つのが魔物の皮で作られたレインコート。このレインコートはもちろん水をはじくし風もしのげる。もとは何の魔物か知らないけど、結構丈夫。

 それを一面にひいて、壺の欠片で固定し屋根の出来上がりである。


 どこに【錬成】が役に立っているのよ?と思われるだろうが、接着剤代わりの粘土に【錬成】を使っている。

 古い粘土だから、粘着力が無く堅くなった土となっていたのを、不純物を無くした水と混ぜて純度を上げていたのだ。でも、まぁ普通に水に浸していればその内使えるようになっていたかもしれないけどね。


次は外側の壁だ。【錬成】をメイン多用すると強度が上がり安心して住めるのだけど、見栄えが良くなりすぎる。だけど孤児や村人の目に止まり、自分たちよりも環境が良くなったと知ると虐めがグレードアップする可能性がある。なによりばれた時の言い訳が出来ないので、【錬成】はほどほどに。


 私は出来る限り平和で平凡にこの世界を満喫したいだけなのだから、喧嘩や争いごとを避けたい。日本にいたときからそうなのに、なんでかなぁ、さらに酷くなって、この国では一番忌み嫌われる存在に…。神様は何故、この世界に私を転生させたのだろう?転生させる力があるのなら、厄介な存在であった私の魂を消滅させるぐらい出来のだろうに。


 おっと、神様の意図なんて考えている暇はなかった。早く、壁を作ってしまわないと。


 屋根に使った粘土の量を減らし、水を多めにして、その中に布を浸して壁に貼り付けるだけのすっごく簡単なもの。乾く前に棚の一部を壊した板を貼り付けていく。濡れた布は割と何処でもくっ付くのだ。そして乾けば接着剤でも使用しているのか?と疑問に思うぐらい、くっ付いている。それが水でなく粘土を薄めたものだったら尚更いいのでは?とやってみたんだけど、乾いてみないことには分からない。


 数時間後、乾いた布がバリッバリに固まり、ある程度の風よけになるだろうという結果になった。流石にこれだけだと、雨が降れば布は水を含んでしまい離れてしまうので、その外側に木の棒を組み合わせ、その木に藁をかけて雨除けをしておいた。湿気でも同じだろうから、もちろん万全ではない。

 だけど、私は畑仕事以外にすることが今のところないのだから、壊れるたびに補修すれば良い。


布は少なく壁一面に使ったら無くなってしまったので、残りの壁は竹カゴもどきをばらして【錬成】で真っ直ぐにしてそれらを壁に沿って編み直し、その辺りに生えている蔦で留める。後は竹もどき編み目の間に草を差し込んで覆うだけ。


なんとも言えないぐらいに怪しい納屋が出来上がった。


「魔物のレインコートがもっとあればよかったんだけど、無い物は仕方ないよね。後は扉だけど……今日はここまでかぁ」


 11歳の子供一人なのだから、1日で全部出来るはずもなく、既に夕方になっていた。続きは明日と言うことで。


 布団を中に入れる前に、飛び散った粘土の欠片や水滴を掃除してから布団を中にいれ、私は夕食を頂に教会へ向かう。



「ルー姉ちゃん、畑にいなかったけど何処にいたの?」


 いつものように私を待っていたエミーリオは、メインの料理を逃してしまっていて、おひたしとパンの切れ端、薄いスープを一緒に食べている。


「エミーリオは先に食べていていいんだよ」

「嫌、ルー姉ちゃんと食べるの!」

「それは嬉しいけど、大きくなれないよ」

「うっ…大きくなってルー姉ちゃんを守りたいけど……でも、一緒に食べたい!」


 なんていい子なの!エミーリオォ~~、可愛いこと言ってくれる~~!!と、悶えている場合じゃなく、美少年に育つかもしれない要素をふんだんに持っているのに、がりがりで成長できなかったらもったいない。これは早く私がお金を稼いで、エミーリオにいいものを食べさせてあげなくてはいけないな。

 12歳になると冒険者に登録できるから、採取などをして小銭を稼ごうか。と、真剣に考えていると、袖をクイッと引かれた。


「で、何処にいたの?廊下の窓から、見えなかったんだけど」


 裏手に続く廊下には小さい窓が付いていて、そこから畑は見えるが、納屋は見えない位置にある。エミーリオはその窓の近くの部屋で、カゴを作っているのだ。

 休憩がてら、窓に来ては手を振っている姿を1日に何度か見ている。時間もほぼ一緒の日課だったんだけど、そっか、今日は納屋の修復に夢中で窓を見ることすら忘れていたわ。


「ごめんね。納屋の整理をしていて、忘れていたわ。心配かけた?」

「あたりまえだよ。だって、お姉ちゃんはっ……」

「はい、はい。大丈夫だから。落ち着いてね」


 エミーリオは私が虐められているのを知っている。というか、同室のサムやアーレン、そしてカリナの取り巻きであるツェネとロミに私の悪口を聞かされて、近寄ると不幸になるとか、魔物が襲ってくるとか、色々吹き込まれているのだ。


 エミーリオがこの教会に捨てられたのは、小さな幼児の時。不安と心細さから殆ど泣いていて、手に負えないからと私が世話がかりに選ばれ、ずっと放置していたのが、知恵が付き始めた頃から自分たちの味方を増やそうと…いや、違うかな。私を一人になるように、エミーリオを引き抜きにかかっているよう。その一つが、私の悪口。


 でも、初めエミーリオはそれに対して泣きながら反論していたようだけど、最近は無視を決め込んでいるらしい。反論すると私が「洗脳したんだろ」「エミーリオを魔物に変えるつもりか!」と訳の分からない言いがかりをつけてくるのを見てしまい、それから大人しく無視することにしたみたい。

 だから、私が他の子たちに虐められているのも段々と分かってきて、色々と心配をかけてしまっている。なんて情けないお姉ちゃんなんでしょ。そしてなんていい子なんでしょう、エミーリオ!


「えっとね、エミーリオも知っている通り、あの子たちと私が接触すると争いが起こってしまうの。だからね、私は接触を控えようと思ってね、部屋を出ることにしたの」

「え!それじゃ、教会から出るの!?嫌だよ!」

「違う違う、納屋の掃除をしたのは、そこで寝泊りできるように整えているのよ。綺麗になったらエミーリオも招待するね。見に来てくれる?」

「もちろんだよ!でも、すっごくボロボロだけど大丈夫なの?虫とか蛇とか入ってきそうだけど…」

「う……」


 心配させないように、話したんだけど、エミーリオのほうが現実を見ていた。自分だけの部屋が出来る喜びばかりで、あの場所が安全とはいえないことを失念していたようだ。

 虫はまだ我慢できるけど、蛇は嫌だな~


 テーブルの端っこでこっそりと二人で話していたんだけど、片づけをしながら、ツェネとロミが睨みつけるように、私たちを見ていたのは気づいていなかった。




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