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18 フォレストタイガーと葛藤


 クロムとクロエと一緒に村に着いたときには、辺りはすっかりと暗くなっていた。一緒に帰宅すると何かと煩くあることないこと噂されるのは双方とも遠慮したいと言うことで、私は彼女たちよりも遅くに入ることにすると、クロムに伝え森の入り口で分かれた。

 クロムは年齢的に私が先に帰ったほうが良いと心配してくれたが、どのみち帰る場所は納屋であり教会に入ることはない。それに回復しているとはいえ、怪我をしているのは彼らだからと断りを入れる。


 でも、他にも理由があるんだよね。


 彼らの姿が見えなくなるまで見送った後、私はスライム達を身につけて再び森へと足を向ける。向かった先は、先ほど戦った場所、ウッドウルフの死体が転がっている場所だ。

 別に死体がみたいとか、そんな危険な思考からじゃないからね。


 双子が危険だと知ったときにポイントを設置していなかったことを後悔して、クロエを手当てした後、もし再び離れることがあるかもしれないとポイントを設置しておいた。ので、【転移】を何度か繰り返し、割と早くにその場所にたどり着く。


 暗くなると魔物が活性化する時間なのだが、そこはまだ荒らされていなかった。

 私が弓で射たウッドウルフから離れて二匹の切り込まれた血まみれのウッドウルフ。矢を抜いていいないから血は殆ど流れていないが、クロムがやっつけた二匹は血まみれで辺りを鉄の臭いが漂っていた。


 これは早く終わらせるべきだわ。いつ魔物がよってきても不思議じゃない。


 何故再び私がこの場所に来たかというと、ウッドウルフは番い、もしくは子供が幼いときは家族で行動するがそれ以外はほぼ単体で行動するのだ。

 それなのに、私たちを襲ってきたウッドウルフは雌だったと思う。あの時は早くこの場所から逃げないといけなかったから、キチンと確認したわけじゃなかった。んで、その確認をしに来たわけ。


 私が倒したウッドウルフはひっくり返っていたから倒した直後に雌だと分かっていたが、クロムが戦っている二匹の体も同じ体格だったからもしかして雌?という疑問を持った・・・というわけで、近寄るのも嫌なんだけど雌かどうかを確認するために二匹に近寄ってみる。


 まずは一匹・・・やはり雌だった。たとえ姉妹であっても成体なら別行動になるはずなのに、どういうこと?この森で異常が発生しているのなら水竜に伝えなきゃ。


 水竜、彼女はこの大森林の守り神であり、一体でこの地をまとめている。お陰で私が住む村も守られているのだから、少しでもお手伝いが出来ればと思って確認を取りに来たのだ。


 決して毛皮が欲しいとか、肉が欲しいとかそんな邪な気持ちは・・・まぁ、少しはあるんだけど。だって、毛皮だよ!冬を暖かく過ごせるかもしれないんだよ?そして肉があればエミーリオにご馳走できる!

 等と少しばかり考えていたけれど、実際は死体を目の当たりにしてとてもじゃないけど無理だと判断した。

 理由は簡単で、魚ぐらいは三枚に下ろしたことはあるものの、前世でも今世でも動物を解体したことがないから。

 それにまず、動物の死骸もそれほど見たことがないんだよ!前世はまあ普通に生活していれば出会うことなんてまれ。今世は畑が仕事だったから、厨房に立ったことはなく、解体する技術以前に試みる勇気を持ち合わせていないんだもの。前世では手術の映像ですら見れかったのだから!

 ちょっと贅沢が出来て環境が良くなるのだから、頑張れば・・・と思ったけれど、いざ目の前にすると萎えてしまった。

 ヘタレでごめんね、エミーリオォ~~~グロいのは無理~~~


 それでも、最後の一匹の確認だけします!

と、向かっていくと断続的に小さな音がする。何の音だろうと耳を澄ませると、どうやら進む先、もう一匹から聞こえてきているみたい。

もしかして生きているのかな?と思ったのだが、それはすぐに違うことが判明する。


「え?何?」


 横向けで倒れているウッドウルフの死体の影、お腹辺りにもそもそと動く物があった。ゆっくりと近づくと、そこには白い生き物がウッドウルフお腹を押しながら泣いているよう。

 どうやら、白い動物は子供で乳を求めているようだった。


「もしかしなくても、このウッドウルフの子供・・・?それにしては毛色が違うのだけど」


私が近寄っても逃げる様子もなく、子供というよりは赤ちゃんみたいなので危険もないだろうと抱き上げた。


「うわっ!可愛い!!ふわふわころころだわ!」


 生まれて間もない特有の柔らかな体毛に、ぬいぐるみのような愛くるしさに私は完全にやられました。

 余りの可愛さに頬ずりして、肉球パンチを食らっても、その動作がまたもや可愛くて撫で回していると、同族以外の人間に触れられ、いやいやと暴れていた白い毛並みの魔物だったけれど、慣れたのかそれとも私に敵対心がないことに気づいたのか、はたまた諦めたのか、腕の中でおとなしく私に撫でられるようになった。

 目を細めて気持ちよさそうにしている姿を見ると


「こりゃたまらない~~~!」


 危なく理性をなくすところだった。

赤ちゃんなのだから優しく扱わなければいけないんだけど、ぎゅうっと抱きしめたい!いや、それだけで足りず至る所に撫で回し、しまいには甘噛みしたくなる衝動に駆られた。

かわいらしい人間の赤ちゃんのふにふにのほっぺをパクッとしたくなりません?そんな感じの衝動です。皆さん分かりますよね?

もちろん自重しましたよ。だって、この子お母さん?の血で所々赤く染まっているんだもの。血が付いていなかったら・・・いやいや、それは置いておいて、この血でハタと現実に戻されました。


この子の親を倒してしまったのは私たちだった。いくら可愛くてもこの子は魔物で、私はこの子の親の敵なんだわ。

貰って帰りたいところだけど、野生に戻すのが一番いい。戻せばいつしか人に牙を向けるかもしれない存在だけど、こんな赤ん坊を討伐しようなどと欠片も思わない。

ゴブリンやスライム、野生の動物であるウサギを獲物として殺す覚悟は出来できているのに矛盾していると言われるかもしれないが、根本は平和主義である一般の日本人なんだもの。非情になれません。それにまだアメーバーは倒しているけど、人型のゴブリンやウサギすら倒せていないんだよね。私・・・。

だからウッドウルフが初の狩りとなったのだ。それにしても、命の危険があったから出来たことであって、無抵抗な生き物を殺すのは抵抗がある。


この子を自然に帰すのはいいとしても、親を殺してしまったら無事に生き延びるのか心配になり、この子の状態だけでも知ろうと【サーチ】をかけた。

フォレストタイガー・・・アルビノ種

健康状態良好。異常なし。と出たはいいけど、フォレストタイガー?ウルフが親なら子供もウルフのはずなのに何故にタイガー?

疑問に思い、もう一度、二重に【サーチ】をかけるともっと詳しい説明が出てきた。


フォレストタイガー・・・成長次第で多種の属性扱うことが出来、四足の王となる。よって力の弱い幼児の間は下級魔物や動物からは崇められ、中級以上からは疎まれる存在。

アルビノ種・・・本来は緑茶の毛並みで金の瞳を持つが、アルビノ種は白の毛並みに朱の瞳を持つ。能力も本来のフォレストタイガーよりも上。


「・・・・・・・・・う~ん、これはこれは、またもや微妙な具合だわ」


 だけど、これで納得な部分もあった。種族が違うのにウッドウルフがフォレストタイガーを育てた理由がそうだ。

 親がどうなったかは別として、王となり得る存在だったから下級魔物であるウッドウルフが育てていたのだろう。


 健康状態も良好だし、下級魔物に出会ったら無事に育ててくれるだろう。それがもし中級以上なら・・・考えないでおこう。これも自然の摂理だし。


「じゃ、さよならだね。願わくば無事に育ってね。そして出来ることなら人間に牙を向けないで欲しいよ」


 育ててくれただろうウッドウルフからかなり離れた場所にフォレストタイガーをそっと地面に下ろす。

 今までは無事だったけど、あのままだとその内他の魔物がよってくるとも限らず、下級魔物が来るという保証もないので、一応村との距離も考えて安全であろう場所に白いモコモコのフォレストタイガーを放した。


 ・・・・・・というのに、何故かちょこちょこと可愛い足を必死に使って、私の後を付いてくる。

 これはもしかして・・・やってしまった?

 可愛いからといって思わず抱き上げて撫で回し可愛がりすぎたかもしれない。


 案の定、【サーチ】で見てみると『従魔で来ます』との文字が。


「あのね。私は一応君から見たら敵になる存在なの。そう簡単に懐かれても困るのよ~」


 赤ん坊だから敵味方の区別の付かないのだろう。ただ可愛がってくれて敵意がないだけで【従魔】可能と言われても、こっちは人間であり、国から嫌われている存在なの。まして【従魔】の力は禁忌どころの話じゃなくて、知られたら処刑だってあり得るんだから。

 弱いスライムならまだしも、四足の王になりうる魔物を従えていたら・・・と考えるとぞっとする。


 そう言っても魔物であるフォレストタイガーには伝わるものではなく、小首をかしげて『何?』って感じだ。それがまた可愛くて手がうずうずしてしまう。

 このままじゃ、ダメだと心を鬼にしてくるりときびすを返し、歩き出す。早足で歩いていると、後ろから枯れ草を踏むかさかさという音が慌ただしく付いてくる。後ろを振り向いたらダメだと思いつつも、こっそりと見るとおぼつかない足でぴょんこぴょんこと跳ねている姿が~~~っ


「ぅ~~~~~っ!!」


 悶えそうっ!


 それを繰り返すこと数回、理性を保つのが苦しくなって、【転移】で距離を取ることにした。

 ・・・ら、いきなり姿を消したので不安になったのだろう『みゅうみゅう』と母親を探す子猫の声が森をこだまする。


 これでいいの。これでいいのよ!と念じるも、耳が風の音や葉がこすれる音を拾わずに、子猫の声だけを大きく拾う。その切なげな声に。


「あぁぁ、もう!!」


 頭をかきむしり、そして【転移】。

 向かった先は。


「もう、私の負けよ!面倒を見てあげるから付いてらっしゃい!」


 フォレストタイガーの元だった。


 モコモコに元から勝てるわけがなかったんだけど、こっちも一応理由があるんだものね!と悪態をつくが、体と顔は全くの別反応。手はフォレストタイガーを撫でまくり、顔はにやけている。


 そうして新たにできたお友達【従魔】が増えたのだった。

 彼の名前は(男の子でした)『蘇芳』です。


 アルビノ種でホワイトタイガーだから白にちなんで名前をつけようとしたんだけど、『ハク』とか『シロ』しか出てこず、瞳の色がちょっと暗めの赤だったから、そこから名前をつけました。

 ネーミングセンスがない?それが何か?



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