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15 気さくな水竜さん


 畑での実験は大成功で、夏の食物も【育成】で育てれば冬でも育つことが分かった。そしてエミーリオのお陰でレベル5の能力も色々とわかって、大いに助かっている。

 一度【育成】の魔法をかければ50倍速で成長するが、私のかけた魔法はやはりそれよりも威力があり、ツブモロであっても1日ちょっとで出来上がる。ハクルにいたっては3日かかるところが2日で出来上がることが分かった。

 そして二度魔法をかけるともっと早く成長する。持続的に魔法をかけ続けると、 もっと早くに成長し、あり得ないスピードで作物が育ってしまったのだ。

 ハクルでも3時間ちょっと。倍速に直すと1000倍のスピード。

 マジであり得ない・・・こっちが引いてしまうほどの成長スピードである。

 世間一般では魔力が持たずにそこまでの成長は望めないのだけど、私には魔力チートがある。そして回復も早いみたいなので、3時間ぐらいはかけ続けることが出来た。

 ただかけ続けている間は暇なんだけどね。


 色々実験して、これらのことが分かったので、今では1日で成長するように微調整している。


 実は何度か魔力の枯渇にあい、その都度微妙だけど魔力量があがっている。一体何処まで上がるのやら・・・この年で、低レベルでMPが1000を超えているって、流石は魔力チートと言うべきか。レベルが上がったらどうなることやら・・・と少し怖い気もする。


 しかし、ここまでの魔力チートであっても、まだ足りない。3時間ちょっとでハクルの収穫が出来たけど、それは一つの苗だけなのだ。広範囲でかけ続けることが出来ない。メリットがあればデメリットもあるらしい。

 1日で収穫できるように微調整しているけれど、一度にかけられる魔法の範囲も狭く、【育成】のレベルも上げておきたい。


 エミーリオのお陰で、売り物の目処が付いたし、スモークのレベルを上げて幻影時間を延ばせば、他の街で商品を売ることが出来る!半分はエミーリオのプリンの為に始めた畑なのに、エミーリオに手伝ってもらってしまったのは申し訳ない。でも、これでようやくプリンをご馳走できるのかと思うと、テンションは上がるというもの。


「まずは、君たちのレベルを10ぐらいに上げましょうか」

『きゅう!』


 そうそう、大森林に来ていることは、まだエミーリオには内緒にしている。午前中は遊びを交えた訓練、鬼ごっこと畑を手伝ってもらっているけれど、午後はエミーリオにも仕事があるから私は自由になるのだ。

 ここ最近は畑にかかりっきりだったので、大森林には来ていなかったのだけど、 時期的にそろそろなんだよね。

 何がそろそろなのかというと、イベント前の出来事が・・・である。

 思い出す限りの出来事を書き留めて、時間軸に直していった覚え書き帳というのを作った。

 次の出来事が冬の真っ盛りの時期で、場所はこの大森林なのだ。

 そういうことで、畑のめどが付いた5日ほど前から時間があれば偵察をしていたのだけど、今日からはお昼から全ての時間を使って出来事の回避に当てようと思う。



 冬の大森林はなんだか生気がなく不気味、殆どの葉は落ちてしまい木が丸見えになり、鳥のさえずりも生き物の気配も少ない。雪は積もっていないものの、冬眠を殆どしない魔物たちは餌が少なくなり気が立っていることだろう。

 見通しが良くなっているから、今まで以上に気をつけないといけないわね。


 スライム達に注意をしたのだが、彼らには必要なかったようだ。


『(獲物発見、50メートル先にゴブリンが3匹。さらに後方に同じく3匹)』

『『『『きゅうう!(了解)』』』』


 グレイが【ソナー】で魔物に見つかる前に察知して、他のスライム達が奇襲をする。狩もお手の物で連係の息もぴったり、難なくゴブリン6匹を退治してしまった。


 その後も、ゴブリン等下等な魔物を何度かやっつけて、スライム達のレベルが10に上がる。


 こんな短時間でゴブリンに遭遇することは今までではありえない遭遇率だけど、森の浅瀬にまでゴブリンが着ているのはやはり冬で食べるものがなかったからだろう。

 そういえば、教会の孤児たちもギルドに加盟して冒険者になっている人が数人いるが、冬が急がしというのを聞いたことがある。


 なるほど、だからあの二人は連日森へと向かうのね。


 冒険者達は飢えから魔物がそのまま村に入ってこないように狩をしているのか。


 そうか、そうか、冬の大森林は危険だけど、レベルを上げるには良い時期なんだ。じゃ、この後は巡回しつつ私のレベル上げに徹しよう!スライム達がいれば、協力してくれるだろうし、なにより安心してレベルを上げることが出来る。


 スライム達に協力をお願いする前に、彼らのステータスと能力を確認したところ、平均してHP45、MPはばらつきがあるものの65だった。やはりチートスライムであっても弱小の部類の所為か伸びは余り良くない。とはいえ、他の魔物が同じなのか知らないし、私と比べてなので比較するのもどうかと思う。


 そして、能力はグレイの【ソナー】は120メートルまで伸び、シルバーはHPを3割の回復、インディゴは150センチの物を作れるようになり、パープルは10キロまで操作可能で、仲間の重さを3分の一に減らせる。注目のスモークは30分間幻影を出せるようになった。聞くところによると、大きなものじゃなく、部分的…例えば私の瞳のみを変えるぐらいなら1時間はもつそうな。


 これらの能力だけでも驚くことばかりなのだが、もっと驚くことが、彼らの体が自由自在変幻出来るようになった。それもなんと、質量まで半分に出来るらしい。なんと凄い!


 今までは私の後ろをぴょこぴょこ付いてきていたのが、私の腕や足にくっ付いての移動が可能となった。ただ重さが変わらないので、彼らを纏って歩くとなると総重量が子供の私では無理。ここで出番になるがパープルだ。3分の1に体重が減った彼らだったら何とかなる。

 これで彼らをつれて別の村や町に訪れても、黒髪黒目を隠しながら商品を売りに行くことが出来るようになった。


 なんと素晴らしいスライム達でしょう!!この子達に出会わなかったら、いつまでたってもこの村を出ることも出来ず、プリンすら夢のまた夢になるところだったわ。


「君達は本当に素敵なお友達だよ」

『『『『『(そう言ってもらえて嬉しいです!)』』』』』


 何て可愛いスライム達なんでしょう。感極まってぎゅうっと抱きつきたいのを押さえ、暫くその場でスライム達と戯れていたら、急に空が暗くなった。


「ん?…あっ……」


 まだまだ日が沈むのが早いのに、暗くなった理由は直ぐに分かった。


「こんにちわ~」

『お前達であったか』

「?」


 視野に入れるのは困難なほどの大きな巨体。だけど、初めて遭遇した時よりも、遮る木々の葉が少なくなった為に、ある程度丸見えとなったその体は、やはり大きなもの。間近まで降下しているから鱗の一つ一つまではっきりと見え、どんなつくりなのか知れないけれど、青くキラキラ輝いていた。


 何度見ても綺麗だわ~水龍さん。


 そう、この大森林の主で守り神である水龍である。彼女…性別は女性とのこと…とは、あれからちょくちょく見かけるようになり、襲ってくることもこちらを気にすることもなく、ただ通り過ぎるだけだったので、思わず、小さい頃ならだれでもやったことがあるであろう、遥か上空の飛行機に向かってバイバイするのをやってしまったのである。そこから興味を持たれ、話しかけられるようになった。


 正面きって『お前は誰だ?』と問われた時は、本気でお漏らししそうになったわ。


 だけど見た目は巨大で口がワニのように大きく厳ついのだけど、とっても気が優しい水龍さんだとわかって、私からも話しかけるようになったのである。

 水龍からすれば下等な生き物である人間であっても、ちゃんと受け答えをしてくれる知的な魔物なのだ。

 それからグレイも近くにいても『危険な魔物』と警戒するがなくなった。殆どが素通りすることが多く教えてくれなくなって、こうしてたまに突然現れて驚くことがしばしばある。


 空を飛んでいるのに音がまったくしないのは、やっぱり竜のように羽がないからなのかな?飛ぶというより泳いでいるって感じだし、空気中の水分を使って進んでいるのかなぁ?あの巨体を僅かな水分を操って持ち上げるとなると、どう考えても水分が足りないと思うんだけど、ここはもう流石にファンタジー!ってことなのだろう。


『……シア…これ、ルーシア、聞いておるのか?』

「へ?あ…ごめんなさい、ボーっとしていました」

『…まったくそなたは、肝が据わっているというか、抜けているというのか。スライム達の気苦労が知れるというもの』

『『『『『(ご主人様ですから!)』』』』』


 話しかけられているのにボーっとしていたのは悪いと思うけど、それほどスライム達には迷惑かけていないと思うんだけど。スライム達の返事も返事だわ。それ答えになっているの?


 ま、いいや。そんなことより態々水龍が私達に声をかけたほうが気になる。


「ところで、何のお話だったのでしょう?」

『うむ、そうであった』


 女性の龍なんだけど、喋り方は流石は王者という風格がある。敵意を見せたら容赦は無いとのことだけど、私達に対しては結構気さくだ。


『この辺りで一気に下級魔物が消失したのでな。何かあったのかと様子を見に来たのだ』


 それ、私達だ。というよりもスライム達なんだけど、それほど一気というわけじゃなかったような。と、首をかしげていると。


『(スライム23匹にゴブリン18匹ニードルラット3匹を2時間ほどで倒していますよ。ご主人様)』

「え?そんなに!?」


 合計44匹…確かに多いわ。


『スライムやゴブリンは繁殖能力が優れているゆえさしてその数程度なら支障はないが、中級魔物を討伐しすぎるとこの森のバランスを崩すことになる。心するよう』

「…はい」


 ちょっと調子に乗りすぎたかな?でもゴブリンならいいみたいだから、もう少しぐらい大丈夫よね?


『本当にわかっておるのやら…バランスが崩れると、そなたが住む村に魔物が襲うことになるということを忘れるのではないぞ』

「…あ」


 そうか、下級魔物は中級魔物の食料となるんだったわ。いくら下級とはいえ倒しすぎると中級魔物の食料が無くなり、森の浅瀬にまで来て村が襲われる可能性があるということだわ。

 2時間で44匹を倒す勢いだとバランスが崩れるから、水龍は様子を見に来たのね。


「気をつけます」

『分かればよろしい。ゴブリン程度なら間引かなければ、数が増えすぎるからの。毎日その数を倒されると厄介な為、注意をしたまでだ。ルーシアも生きていく為には必要なことと理解している。用はバランスさえ崩さなければよい』


 森の守護者である水龍は寛大だった。眷属ではないが種属では仲間のくくりになるはずの魔物を人間が狩っていることに、下手すると逆鱗に触れる恐れがある。生きる為の処置として許容してくれているのだから。

 高等魔物だから下級魔物に対して仲間意識が薄いのかもしれないが、バランスさえ崩さなければ、自由にして良いということだ。


「有難うございます。考えて行動します」


 水竜と分かられた後、その場で座り込む。


『(どうしたの?ご主人様?』

「ん?ちょっと休憩ね。君たちは散歩に行ってきても良いわよ」

『(じゃ、僕が残りますね)』


 グレイは警護してくれるつもりなのだろう、傍らに寄り添っているが、他のスライム達はめいめいに散歩に出かけた。


 その間に、ちょっと頭の中のデータと照らし合わせて整理する。


 さっきの水竜さん、とっても気さくで人間に害をなす様子は見られないんだけど・・・携帯小説のストーリーでは、人間に害をなすからと冒険者が来て討伐されてしまうようになっている。

 違う龍なのかと思って、水竜さんにそれとなく他にも龍がこの地で生息しているのかを聞いたんだけど、いないらしい。だったら、あの水竜さんしかいないよね?

 どういうことなんだろう?物語に語られていない裏話的な物があるのかな?

 件の水竜討伐には、後に勇者一行のメンバーになるロイドとクロムが参加することになっている。そこで自信を付けて更なる上を目標にって流れ。そのためのイベントであって、理由は何でもいいとか?

 だったら、どうしたらいいんだろう?ロイド達は勇者一行のメンバーに入ってもらって、魔王を討伐して貰わないといけないんだけど・・・でも、水竜さんは悪い龍ではないから倒さるなんて嫌だ。


 今度であったら水竜さんに「冒険者が討伐に来るかもしれない」と伝えるだけ伝えよう。

 水竜討伐のイベントは夏頃だったはず。まだ間に合う。


 一つ気にかかるのは、水竜さんの頭の上に乗っているミニ水竜だよね。水竜さんの子供さんなんだけど、話しかけても答えてくれない。それなのに、ジッと私のことは観察しているようなんだ。

 ミニ水竜ちゃん?の為にもお母さん水竜さんは生きて貰わないとね。


 考えをまとめるための休憩を終わりにして、その水竜さんと、明日は狩を休むことを条件に今日の狩りの許可を頂いたから、少しだけ自分のレベルを上げる為にゴブリンを2、3匹やっつけようと森を歩いていると、出あったのはゴブリンではなく、小さな悲鳴と遭遇した。


 いざ、真剣にレベル上げをしようとすると何かしら起きるのは何故かしら?まるで意図して私のレベル上げを邪魔しているかのようだわ。


 そんなことよりも、この危険な森で悲鳴とは、何かあったのかもしれない。手助けできるのならば手を貸してあげなければ、その人はたちまち魔物の餌食となってしまうから急ぎましょう。



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