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14 突然の訪問者です


 スライム達と大森林から秘密の基地に帰ってきた。

 彼らの住処である洞穴横に私の作業場を作ってあり、入り口は小さいけれど、奥に入ると2畳ぐらい広さがあり、小さいながらも机と椅子も置いてある。棚には春夏秋冬の作物の種、そして森から採取したありとあらゆる種も置いてある。

 椅子も棚ももちろん【錬成】で作った石製である。


「さて、何から作ってみようかなぁ。う~ん、まずは、春と秋に収穫できるハクルからやってみよう!」


 ハクルとは玉葱に似たもので、地球産よりも小さく食べられる部分が少ない。味も切れば涙が出るのも変わらない。

 ハクルと夏に収穫できるツブモロを手に持って、綺麗に耕されている畑に1メートル範囲に種をまいていく。範囲があるのは私の魔法が届く距離が今はまだここまでだからである。その内、もっと広くなるのかな?と期待していたり。


「【育成】レベル5だと、だいたい50倍速で成長する…【育成】をかけていけば、ハクルは3日ぐらいで収穫できるんだけど・・・」


 ちゃんと測定していないけど、私の場合もっと早くに成長しているかもしれない。だって大森林で見つけたベリリが1日もかからずに成長したんだもの。

 ベリリが本来、どれ程の期間で実を付けるのかは分かっていないからなんとも言えないけど、本に書いてあったのは【育成】レベル5で約50倍速となっていた。個人差もあるらしい。


 ということで、私が使う【育成】のスピードを知りたくなり実験しようと思う。他にも冬のこの季節に夏物を育ててどう変化するかとか。色々・・・


 ということで、取り出したのがハクル。ハクルは秋に種をうえ、春に収穫できるようになる。大体150日ぐらいで収穫となる。成長の遅いハクルを3日で収穫できれば十分なのだが、出来ればもっと速く、数分で収穫できるぐらいに成長して欲しい。


 この世界で【光魔法】を持つ人は少なく、さらに【育成】はもっとマイナーだ。

まずはレベル1では発芽しか出来ない。レベル2で要約5倍速になる程度。それでも早いのだが、魔力をMPを50使ってしまう。一般の人のMPが平均で50程、【育成】が使用できるとわかっても、一度で枯渇してしまう為に熟練度レベルは中々上がらない。

 下位の魔法師になるとMPは250~400が平均だが、殆どが貴族に雇われるか冒険者となる為、攻撃魔法か回復魔法に力を入れるので【育成】に目を向けないのだ。

 【育成】がレベル5に達しているのはこの世界でも稀で、多く見積もっても十数人ぐらいだろう。僅かでも研究している人がいるのなら、民に需要があると広まっていてもおかしくはないのだが、いかんせん地味魔法なため、研究していると知られると他の魔法師に馬鹿にされるらしく殆どの人は口を閉じて趣味にしているぐらいだ。


 魔物や戦争の多いこの世界では攻撃魔法、回復魔法に重きを置き、【育成】は片手間で熟練度を上げていっている人が殆どのなので、使える人は上位か高位の魔法師ばかり。そして魔法師の位が高くなればなるほどプライドから口を噤んでしまう。

 村人からも稀に【育成】で作物を育てている人も現れてはいるが、【育成】とは知らずに、緑の手として尊敬されている。MPも少ないのでレベル5に達することは少ない。


 よって、ルーシアのように真剣に【育成】に取り組んでいる人は希少と言える。


「【育成】は他の魔法と違って、一度魔法を掛けると持続時間っていうのがあるみたいだから、一つは本に書かれている通りにやってみて、ちょっと離れたところで連続して2回ほどかけてみよう。持続時間がプラスになるか、他に変化するか楽しみだわ。・・・ただ種の選択は間違ったみたいね」


 収穫が早くて3日後なんて、私が試したいことが直ぐに分からないじゃない。馬鹿だね私。ツブモロも100日ぐらいかかるし。


「60日ぐらいで収穫できるターレスだと1日ちょっとで成長しそうだから、それで実験してみましょうか。スライム達、ターレスの種がどれか分かる?持ってきて欲しいんだけど」

『きゅ!』


 グレイが返事をして先頭切る。その後に、他のスライム達も着いていった。別にグレイだけでもよかったんだけど、本当に仲がいいわね~。

 じゃ、その間に、ハクルとツブモロに【育成】をかけよっと。


 この日はスライム達が持ってきてターレスも同じように種をまき【育成】をかけ、明日私が来るまで水遣りをお願いして納屋に戻ることにした。




 次の日秘密の畑の作物がどうなっているのか、教会の裏の畑仕事をパパッと終わらせていそいそと出かけた。


 そこまでは今までの日常とさして変わらなかったのだが、驚くことに秘密の畑には、エミーリオが立っていたのだ。


「エ、エミーリオ!?どうしてここに……何故…?」


 この秘密の畑は外からでは大岩に囲まれていて、入り口を見つけるのは困難だ。岩が重なり合っているから見えにくくなっている。それなのに、エミーリオが畑の前に呆然と立っていたことに驚きすぎて、つい、声をかけてしまった。

 気づかれないうちに立ち去ってしまえばよかったものの…後の祭りである。


「ルー姉ちゃん、この畑はルー姉ちゃんが管理しているの?」

「え?…え~と、その~…」


 なんと答えたらよいのやら、肯定してしまえば目の前のありえない光景が私の力によるものだとばれてしまうし、否定すれば、どうして此処に来たのかと問われてしまう。


「大丈夫だよ。僕、ルー姉ちゃんが【育成】の魔法が使えるの知っているから」

「え?ええ~~っ!!?嘘!」

「嘘じゃないよ。僕は休憩時間になれば、窓から手を振っているよね?その時に気づいたんだ。何日も後から植えた作物が同時期に収穫できるようになるのはおかしいよね?だから、分かったんだ」

「…そっか」


 エミーリオは私と一緒に本を読むのが好きだった。その時に魔法のあれこれも読んでいて【育成】のことを知っていてもおかしくはない。

 でも、迂闊だったなあ。この分だと…


「皆は気づいていないから大丈夫。僕はお姉ちゃんの口から教えてくれるのを待っていたんだけどね」

「うっ…ごめん。言えなかったの。ただでさえ、黒髪黒目は忌み嫌われているのに、魔法の才能があるのがばれたら村を追い出されるだけでなく、処刑されるかもしれないから……ごめんね」

「いいよ。分かっているから。で、このありえない光景はやっぱりお姉ちゃんの能力?」


 ここでも肯定してもいいのか悩んでしまう。

 ありえない光景って、【育成】で育てた夏の作物が私の予想より大きくなっていて、収穫間近のたわわに実がなっているだけでなく、それらの作物に一生懸命水をあげているスライム達の姿があるからだ。


 【育成】は光魔法だから人々の印象はかなりよい。エミーリオだから肯定したんだけど、【従魔】は闇魔法だ。エミーリオですら私をおそれるかもしれないと思うと、素直に肯定できなかった。


「このスライムもお姉ちゃんの仕業なんだね。大丈夫。こっちも誰にも言わないから」

「……本当、に?その・・・気持ち悪くない?・・・嫌いになったり・・・憎んだり・・・しないの?」

「どうして僕がルー姉ちゃんを嫌ったり、憎んだりするんだよ。あり得ないよ!」


 恐る恐る顔をうかがうと、嫌悪も恐れの欠片もなく何時もと変わらずのエミーリオがいた。そのことにホッと安堵していたら、


「僕もこの畑の手伝いをさせて」

「……はいぃ?…手伝いって…」


 手伝いって、エミーリオが言った通りこの場所はありえない光景をしている。スライム達がいるんだよ?もしこの光景を村人に見られでもしたら、エミーリオまで【闇魔法】を会得していると思われるだろう。そんな危険なことはエミーリオにさせられない。


「でも、…」

「お姉ちゃん」


 エミーリオに迷惑を掛けられない。と言おうとしたんだけど、止められる。 


「このスライムは人を襲ったりする?お姉ちゃんと一緒にいるんだったらそれは絶対無いと僕は信じているよ。その点だけでも伝説上の【闇魔法】とは違う。それに他の人達に絶対に見つからないようにするから、もし見つかったとしても僕はお姉ちゃんの味方だよ?一緒にこの村から出てもいいし。というよりそれが一番いいのかも…」


 最後のほうは声が小さくなって聞き取れなかったけど、エミーリオは私を信じてくれている。スライムが私に懐く姿を見ても偏見で見ることは無かった。それだけでも心の底から嬉しくて、思わず頷いてしまっていた。


 【育成】にしろ【従魔】にしろ、一人で秘密を抱えているというのは結構辛かったようで、エミーリオの言葉で大半の重荷が軽くなったよう。


 それにしてもエミーリオに助けられる日が来るとは、子供の成長恐るべし!


 この後、エミーリオは作物の記録をとることになり、私が使う【育成】の能力も数値で分かりやすくなった。


 他の人の【育成】はどうだか分からないが、私が使う【育成】は作物に二度魔法を掛けると、レベル5の熟練度であっても倍速が跳ね上がるというもので、時間がかなり短縮されるようだ。

 そして作物は土の成分を栄養としているというよりも、私の魔力を栄養としているみたいだということも数値で分かったのだ。

 流石異世界のファンタジー!地球の育ち方と違うなぁ。


 他にもエミーリオがアイデアを出し、非常食も幾つか出来上がる。

 私一人だと、ここまで出来なかったと思う。もしかしなくてもエミーリオは天才?まじで、そうかも!だって、私の【育成】の魔法を見よう見まねで使えるようになったんだから。凄いよね!


 【光魔法】に目覚めたエミーリオとお祝いということで四季折々の食物でパーティをしたのだった。


 エミーリオに見つかったときは気が動転して、気づかなかったけど、物語で『ルーシア』が魔物と一緒にいるのを目撃したことがあると、青年となり勇者と出会った『エミーリオ』が語っていた。

 もしかして、これがそうだったのでは!?

 うわっ!!これはやばいんじゃないの!?未来回避しているつもりが物語に沿って進んでいるじゃない。

 どうしよう?見つかってしまったのはどうやっても無かったことには出来ないし・・・これから先失敗しないようにしなきゃ!

 兎に角、思い出せる限り時間軸で書き出さなきゃ、また失敗するわ。


 その日は早速家に帰って、紙と鉛筆を【錬成】して思いつく限りを書き留めてこれからの対策に頭を悩ませた。



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