13 閑話 子供特権『我侭』は黒い?(エミーリオ視点)
16.05.14書き直しました。
最近ルー姉ちゃんの様子がおかしいんだよね。ええと、元から他の人と比べておかしいけど。そいういうのも含めておかしい。というよりは怪しいかな?
今までなら畑で石を並べたり、木の棒で地面に落書きしたり、畑仕事が終わってもその場で遊んでいる様子が、廊下の窓から見えていたのに、いつからだろう?多分、納屋に引越しした辺りから、畑にいる時間が少なくなってきているような気がする。
ルー姉ちゃんは一体何処に行っているのだろう?
僕の名前はエミーリオ。僕は小さい頃に教会に捨てられたらしいのだけど、小さすぎてその時の記憶は無い。気が付いたら教会にいて、ルー姉ちゃんが常に一緒にいてくれていた。
転んだら泣き、誰かに無視されたら泣き、寂しいといって泣き…いつもいつも泣いてばかりだった僕は手のかかる幼児だったみたいで、教会の孤児たちから爪弾きにされていたらしい。そこで一つ上のルー姉ちゃんが世話係に指名されたみたい。
僕が泣き止むまで、手を繋いでくれたり、根拠よく頭を撫でてくれていたらしい。
今までの経緯を教えてくれたのは四つ上のクロムなんだけど、このクロムって子、未だに性格がよく分からなかったりするんだ。近くに寄ってきたかと思えば、素っ気なかったり、こうしてお姉ちゃんのことを教えてくれたり、僕の面倒を見てくれたのかと思えば、自分でやれと言ったり、雲を掴むような人とはこの人のことかもしれない。
でも、ルー姉ちゃんのことを教えてくれたのはお礼を言った。
他にも、ルー姉ちゃんの容姿、黒髪黒目はこの国では禁忌で村の外にでれば殺されることや、黙っているけど村の人たちも嫌っていることも教えてくれた。
小さいときの僕の世話をしてくれていたのは覚えていない。記憶にあるのはいつも一緒だったと言うことと、口数が少なく性格が暗いというとこ。
でもここ最近はちょっと変わってきている。なんて言うんだろう?動く人形だったのが、いろんな表情を見せてくれて、人間らしくなってきた?というのかな?
特に僕と一緒にいるときはよく微笑んでくれるんだ!
嫌われているという黒目だけは見えないようにしたいのか、前髪が長く、他の人達には表情は分かりにくいだろうけど、僕の前では瞳も見せてくれるし、笑ってくれる。
そんなお姉ちゃんは、実はすっごく可愛い!皆が深遠の闇に捕らわれそうだと恐れる黒目は、穏やかで包んでくれる夜の安らぎがあり、とても綺麗なんだよ。黒髪は一切のまじりっけがなくて、綺麗に梳かした後なんて太陽に光を浴びて艶やかに光の輪を作っている。
性格も面倒見がいいし、嘘をつくことも誤魔化すことも出来ないお人よしなのに、村の人たちは何処を見ているのやら。孤児で一緒のサムやツェネ達の方が悪いことをしているというのにね。
お姉ちゃんが一生懸命作った野菜が最近、収穫量を増やしているから少しぐらい売ってもばれないからと、マルセルとカリナに隠れて村で売り、靴や団子を買ったりしているのを僕は知っている。そんな人達と比べたら、お姉ちゃんは何倍、ううん、何百倍良い人!
それを僕だけが知っている!と特別感を持っていたんだけど、どうやら他の人もお姉ちゃんの良いところに気が付いたみたい。
それに気が付いた僕は、いつも一緒にいるお姉ちゃんが取られるんじゃないかと、恐れているんだ。そして―――その気持ちはもやもやして気持ち悪く、その人と話をしているのをたまたま見てしまって、もやもやが一気に増えた。
お姉ちゃんは僕のものなのに!
周りの大人は『孤児なんですってね、可哀想に。でも、このご時世なんだもの貴方のような人は大勢いるわ。頑張ってね』と哀れんでくれるが、手を貸してはくれない。それは、この村が貧しいからというのも知っているよ。
孤児からは『泣いてばかりじゃ何も出来ないだろう!自分の出来ることからやるんだよ!』と常に言われ続け、僕は10歳にしては精神的に他の子供たちよりも成長していると思う。感情も抑えられるようになったのも、村の子供たちよりも早いはずだ。
そんな僕なのに、あの時のもやもやは何なのか分からない。自分の中で爆発的に湧き上がったソレをなんというのか、まだ分からないけど、お姉ちゃんはあいつにだけは取られたくないと思った。
だって、あいつ馬鹿なんだもん。
あいつは、この村の子供たちをまとめているリーダーみたいで、もちろん、孤児の子供たちの一部もまとめている。だから、サム辺りからルー姉ちゃんの作物をちょろまかしているのを知ったのだろう。
『俺にもよこせ』と言いたかったのか、それとも『サム達が売りに出しているぞ』と忠告したかったのか今では分からないけど、ルー姉ちゃんに接近しようとしていた。
でも、丁度僕とルー姉ちゃんと話している時に、教会の裏手に来たみたいで、壁に隠れて様子を伺っているのを……僕は見てしまった。そう、ルー姉ちゃんが可愛く微笑んでいるのを目の当たりにして、固まってしまったロイドの姿を。
その後ぐらいかな?ロイドが井戸に来るようになったのは。
『陰気臭いから笑え!』と命令されるのよ。とルー姉ちゃんから聞いたことがある。多分、自分に向かって微笑んで欲しいのだろう。でも、やり方が間違っていると言える。命令されて笑えるわけが無い。そして、自分に興味を持ってもらいたいからといって、貶すのはどうかと思う。優しくされればルー姉ちゃんも、初めはぎこちなくても、段々と気を許していくはずなのに。あいつ、ロイドは馬鹿だから気づいていない。
だからつい、言ってしまった。
「ロイド君、ルー姉ちゃんに付きまとわないでくれる?君の言葉でルー姉ちゃんが傷つくんだからね!この間なんて、一人で泣いていたんだから、君のせいだよ!
「なっ!俺はほん――」
「俺は――何?ただ本当のことを言っただけ?馬鹿じゃない?」
「馬鹿って……」
「何が本当なのか知らないくせに、噂に惑わされている大人の言うことばかり聞いていて本当のルー姉ちゃんを見ようともしないし知らないじゃない!だから馬鹿なんだよ。だからもう近づかないでね!」
言葉を発することを許さずに、畳み掛けて項垂らすことに成功して、スッとしたんだけど、その後もロイドは井戸に来ていたみたい。だからこっそりと見に行ったら…僕は後悔してしまった。
彼は、僕が言った通りにルー姉ちゃんに話しかけることはなくなったようだけど、顔つきが急に大人になったみたいだった。落ち着いたというのだろうか?その顔を見た瞬間、僕は何故か失敗したと感じた。
ロイドは僕の二つうえで12歳。中身は幼稚だったけど、体格はしっかりしていて顔は整っているから女子からは憧れの対象となっている。
もし、ロイドが態度を改め、ルー姉ちゃんに優しく接するようになったら…僕のルー姉ちゃんはロイドに取られてしまう。それだけは嫌だ。
ルー姉ちゃんはしっかりしているようで何処か抜けていて、人が良い。伝説は当てにならないと皆が知ったらルー姉ちゃんは人気者になるだろう。
僕だけのルー姉ちゃんなのに。
そんなもやもやとした気持ちを引きずったまま、何度かルー姉ちゃんの家に泊まったある日。僕の感情が何なのか漠然と分かるようになった。
僕はルー姉ちゃんを家族としてみていないことに―――。
初めは家族としての気持ちじゃないことにショックだったけど、気づいたらストンと納得もいっていた。
教会に来てからずっとルー姉ちゃんに守ってもらっていたんだから、今度からは僕がルー姉ちゃんを守る番!ロイドからも村の人からも僕が守るんだ!
と、決断したというのに、肝心のルー姉ちゃんは朝も食事もこなくなることが多くなった。本来なら皆がそろうことがルールだけど、孤児の子達はルー姉ちゃんがいろうがいなかろうが気にしないどころか、むしろ喜んでいるぐらいだ。
本当にこいつらは!ルー姉ちゃんが作物を作ってくれているから、御飯にありつけるというのを分かっていない!僕達が作る篭なんて金額にしたら微々たる物で、冬なんて越せないんだから。かなりムカつくから言ってやろうかと思うけど、僕が言うと何故かルー姉ちゃんに被害が行くから我慢している。
そして教会の責任者であるランス神父はここ最近忙しいみたいで、朝食は一緒に取れていない。責任者がいないから、さらにルー姉ちゃんは放って置かれる。
それがいいのか悪いのか、ルー姉ちゃんが朝食に来なくなったのだ。来ても皆に虐められるだけだから、来ないほうがいいんだろうけど、ちゃんと食べているのかが僕は心配だ。
だから、こっそりとルー姉ちゃんが何処に行っているのかを後をつけていたのだけど、林に入って暫くするといつも見失う。本当に何処に行っているんだろう?
もしかして、ルー姉ちゃんが【光魔法】の【育成】を使えることに関係あるのだろうか?
ルー姉ちゃんが隠そうとしている【育成】は、僕は早くから知っていた。隠そうとしているからあえて言わなかったけど、僕だけには教えて欲しかったのに……
ちょっぴり哀しいけど、ルー姉ちゃんの環境を知っているから我慢している。
でもね、何処に行っているかぐらい知ってもいいよね?ということで、いつも見失うところで今度は待ち伏せしてみようと思うんだ。何も知らない振りして『何処行くの?僕も連れてって』と駄々をこねるつもり。最悪泣き落としも予定している。
僕はまだ10歳だからね。我侭は子供の特権だし~。
毎朝の日課のラジオたいそう?あれに何の意味があるのか分からないけど、その後におにごっこやかけっこしをして遊んでくれるのは嬉しい。ちょっと子供扱いだけど、それでも一緒にいる時間が増えるのは嬉しいことだ。
でもね、口癖のように「エミーリオは可愛いから、何かあったらあれを使うのよ」と言ってくるのは困っている。
僕に何かあるはずないじゃない。ずっとお姉ちゃんのそばにいるんだから。
でも、お姉ちゃんの目から見たら僕はそんなに頼りないのかな?
そう思って、皆やお姉ちゃんに隠れてこっそりとマルセルお兄ちゃんに教えて貰って剣術の練習をしている。
僕は筋が良いとのこと。特に動体視力というのがいいらしく、力では叶わないけどスピードはあるそうだ。
いつかお姉ちゃんに見てもらって褒めて貰おっと。そして僕がお姉ちゃんを守るんだ!
ロイドなんかに負けてたまるか!ってね。
ロイドとは2歳も離れているんだから、僕のほうが不利、手段を選んでいたらあっという間に距離を詰められてしまうし、なにより春になると3年に一度の魔力鑑定がひかえている。
10歳を越えた子供たちが魔力鑑定を行うのだ。そこで優秀な子供は学校に通うようになり、もっとよければ貴族に養子に貰われることもあるそうだ。
何がどう転ぶか分からないのが魔力鑑定。
万が一、ロイドが貴族の仲間入りをして、ルー姉ちゃんを浚っていくかもしれない。まぁ、これはルー姉ちゃんが黒髪黒目だからありえないけど。もし何らかの力を持っているとしたら、自信をつけ強気に出てくるかもしれないのだ。それまでに割って入られないように僕とルー姉ちゃんの絆を強固にしておかないと。
後、出来れば僕を兄弟としてではなく、一人の人としてみて欲しいので、これからは攻めるつもり。
まずはルー姉ちゃんとの時間確保!年下である僕が使える武器、『我侭』や『甘え』で確保してみせるよ♪
残念だったね、ロイド君、『甘え』が使えない年上で。