11 猿山のリーダーは勇者一行のメンバー
16.05.14大幅に書き換えました。携帯小説の物語の中としての設定を追加しています。
「辛気臭ぇ顔、そんな顔されるとこっちまで暗くなるんだよ!なんとかしろよっ!」
先日、念願のスライムを【従魔】に出来たんだけど、正式な名前は幻影スライムというらしく、変身ではなく幻影を作り纏わせることが出来るよう。空気中に投影も可能らしい。ただレベルが低いので作り出した幻影は5秒ぐらいで消えてしまう。
関節も無くぷにぷにとした体なのに変身できないなんて詐欺だ!なんでもありなのがファンタジーなんじゃないの!?と心の中で叫んだのは彼らには内緒。
レベルが上がれば時間も増えそうなので、今後を期待しようと思う。
「聞いているのかよ、お前!毎回忠告してやっているんだから、返事ぐらいしたらどうなんだ!」
はぁ…ちょっと周りが五月蝿すぎて、この後の予定を組もうと思っているのに、集中できないわ。
幻影スライムの名前はスモークと言う名前を付け、彼にはもっとレベルを上げてもらって、せめて最低でも30分の持続時間をキープできるようになって欲しい。そのためには大森林でレベル上げ。そして畑の拡張もしたい。冬を安心して越せるような食料の開発に…やることが多すぎて何処から手を付けたらいいのか。
「無視するんじゃねぇよ!」
あ、また私の思考の邪魔をする大きな声。本当に毎回毎回鬱陶しい。
激怒に匹敵する声を出し表情も歪んでいるというのに、私に掴みかかってこないのは、この猿山のボスも黒髪黒目を忌み嫌って恐れているのだろう。だったら、声をかけずに井戸の周りでたむろっている大人たち同様に遠巻きでひそひそと陰口を叩いていたらいいのに。なんで態々(わざわざ)突っかかってくるんだろう。本当に子供って訳の分からないことをするわよね。
さっきから大声を出しているこいつは、この村のちびっ子を男女ともまとめているボスで名前をロイドという。リーダー格であるだけあって、体格は他の子供たちより大きく成長が早いようだ。男の子連中は体格と強さに憧れ、女の子達は見た目、つまり精悍で整っている容姿に惹かれてしたがっているみたい。確かに私よりたった一つ年上なのに、成長が早いのか頭一つ半ぐらいの身長で、子供から脱しそうな顔つきになってきている。瞳も髪も赤茶色で見た目も割と目立つし、リーダーにはうってつけだろう。
しかし、所詮は猿山…もとい、子供たちのボス。恐れられている私に意見や忠告を言える勇気を他の子供たちは「凄い!流石はロイド!」と持てはやされていても、私にすれば子供がわめき散らしているだけのこと。五月蝿いだけなのである。
一つだけ暴力に訴えかけないのは評価に値する。ただ単に『呪われる』と噂されている報復が怖いだけかもしれないが、体格を生かした支配はしていないようなので性格なのだろう。その点だけは認めている。
そしてロイドは何を隠そう、勇者一行のメンバーになるやつなのだ。
このロイドの姉が私・・・『ルーシア』が引き起こした事件で亡くなってしまい、『ルーシア』を憎むようになる。
だから、あんまり関わり合いたくないのに。
私に突っかかってさえ来なければ、いい奴だと思うんだけど。
「私の顔は生まれつきなの。辛気臭いと言われてもどうしようもないから」
「なっ!」
毎度毎度のことで無視すればよかったのだろうけど、余りにもしぶといから、つい、言い返してしまった。何時もと違う態度にロイドは言葉を一瞬失ったようだ。でも、「流石はロイド!」と賞されるだけあってそれで終わらなかった。
「お前!村の皆から嫌われているんだったら、笑顔の一つでも見せて愛想良くしろよ!」
その言葉にムカッと来たが、それ以上に周りの大人達が反応を示した。
「ちょ、ロイド言い過ぎよ」
「そうそう、誰もそこまで…ロイドの気のせいじゃない?」
「ねぇ」
井戸の周りに集まった女性陣があたふたと面白いぐらいに慌てだした。あれだけ影でこそこそと悪口を言っているのに、面と向かって事実を告げられると、対面からかそれとも『呪い』を恐れているのか否定する。
そりゃ、『呪い』を信じているのなら恐れるだろう。ところで『呪い』って何よ?【従魔の魔導士】には『呪い』なんてものはなかったのに、一体どこから出てきたのやら。
まぁ『ルーシア』には出来るみたいだけど。でも、この時点では出来ないよ?
それにしてもロイドは鬱陶しいこの上ない。彼が言ったことは既に私が実践したっていうのに。
『今日は天気がいいですね』『開拓は何処まで進んでいるのですか?』『シーナちゃんお誕生日迎えて2歳になったんですね。おめでとうございます』等など、記憶を取り戻した10歳の時に少しでも周りの環境を良くしようと、井戸の周りに集まってきていた主婦さんたちに愛想良く笑顔つきで話しかけた。でも無視してきたのは彼女達だ。
聞こえなかった振りするぐらいなら『呪われる』ことはないだろうとずっと私の存在を無視してきて、今更ロイドの言うように愛想を振りまき、私から声をかけられても困ると言うもの。今度からは聞こえなかったとは通じないのだから『呪われる』と考えたのかもしれない。
彼女達はロイドを止めようとしているが、素直な子供は質が悪かった。
「何言ってんだよ、おばさんたち。大人は皆、こいつが役に立たない邪魔者だと言っているじゃないか。表情が暗くて気持ち悪いって。笑顔すら見せないって!だから――」
「ロイド、私は早く水を汲んで畑仕事したんだけど、邪魔しないでくれる?」
村人からの嫌われようと総無視は結構なストレスになるからと改善しようとあれこれと手を打ったこともあった。なんとか仲良くなることは出来ないだろうかと。村人だけでなく孤児の子達にも。だけど、黒髪黒目の嫌われようは半端なものではなく、誰一人として私自身を見てくれる人がいなくて、諦めてしまっているのだ。それを今更こいつは何言っているのやら。
ロイドの暴走を私が口を挟んで止めたことによって、大人たちはホッとしているようだけど、貴方達を庇ったわけじゃないからね。まず、庇うわけ無いでしょう。どうでもいいだけよ。
現に庇うような言葉を発していないことに気づいた大人たちは「あんな言い方ないんじゃない?」とまたヒソヒソと陰口を言い出した。
だから、聞こえてるって。
「お前な!折角俺が忠告してやっているのに、なんなんだよ!」
何が忠告なんだか。引っ掻き回しているだけじゃない。それに私の傷を抉りに来た、の間違いなんじゃないの?いくら事実でも面と向かって言われて何が嬉しいのやら。
「畑仕事があるから」
これ以上相手してられなくて、さっさと井戸から水を汲み教会の裏の畑へと向かった。
ロイドはなにやら叫んでいるようだったけど、追いかけてくることは無く、ようやく落ち着ける場所にたどり着いて、大きな溜息を吐き座り込む。
「あれは一種の正義感なのかな?それでも、はた迷惑よ。だけど、まぁ……」
影で言われるよりも気分は悪くない。陰湿感が無いからかな?私自身の傷を抉るようなことをされたけれど、女性陣のうろたえ方は見物だったので、少しばかり溜飲を下げることが出来たみたい。
それから三日とあけずに井戸の前に立って五月蝿かったロイドは五日ぐらいになり、あまりわめくことは無くなった。大人たちに何かを言われたようだ。
ただ、いつも何か言いたそうな視線を感じるようになる。それはそれで鬱陶しいのだけど、引っ掻き回されることを考えるとマシ。たまに視線が合うこともあるけど、こっちが無視することにした。
「さて、ロイドのせいでちょっと気分が降下してしまったから、テンションを上げる為に新しいことをしましょうか」
さっさと、でも丁寧に教会裏の畑に水をやり、雑草を取り払って仕事を終わらせた私は、スライム達に癒しを求めて合いに行った。
教会裏の林から入って子供の足で45分ぐらいのところに秘密の基地がある。途中からは【転移】を使うから10分もかからずにスライム達に迎えられた。
『『『『『(お帰りなさい)』』』』』
ぴょんぴょん跳ねながらよってくる姿は、なんて愛らしいんでしょう!
お帰りなさいって言われたのは何年ぶりだか。言葉がはっきりと分かるのはグレイだけなんだけど、多分皆も同じことを言っていると思う。こうやって迎えられたのは、前世でも両親が早くになくしているからかれこれ・・・・・・やめとこう。これ以上テンションを下げたくないし、素直にスライム達の可愛らしさを堪能しよう。
「今日はこの場所に畑と貴方達の家を造りに来たの」
『(僕達の家?)』
「そうよ。この場所の大岩はかなり頑丈だから穴を開けても大丈夫だと思うの。そこに貴方達が入れば空からの魔物や雨風をしのげるでしょ?簡単なものしか作れないけど、今はそれで我慢してね」
『(本来なら木や葉の影で過ごすのですから十分すぎる家ですよ)』
「じゃ、早速作りましょう」
肩から掛けているリュックから、木の板に書いた錬成陣を出し適当な場所の岩に立てかける。そこに魔力を流せば、あっという間に固い岩の下の方、半径20cmぐらいが砂に変わり崩れていく。奥行きは50cmぐらいだろうか。砂を掘り出し、同じ肯定を繰り返せばスライム達の家が出来上がりである。
「入って真ん中が皆が集まる場所で、そこから枝分かれしている道からはそれぞれの部屋になるからね」
『(はい、有難うございます!)』
スライム達は自分たちの家が出来たことに喜び、小さな洞穴に入っては出て、入っては出てと遊んでいる。それを優しく見つめつつ、「さて」と畑作りをしましょうかと私は動き出した。
岩に囲まれたこの場所は、適度に落ち葉も土もあるのだが、落ち葉の下を除くと、やはりごろごろと石が沢山埋まっている。
「これを撤去するのが本来面倒なんだよね」
でも、私には【錬成】がある。大きな石は邪魔なので一つ一つ先ほどの錬成陣で砂に変えていき、隅に運ぶ。その後は違う錬成陣を出し、地面に置くと魔力を流し込んだ。
そこにはふかふかの土が出来上がった。土と落ち葉と石が細切れになりミックスされた土。水はけのことも考えて、石と砂は少しだけ残している。
農業のことは分からないから砂は必要ないのかもしれないけど、周りが岩だらけということを考えると、もしかするとこの下も岩で覆われているかもしれないから、水はけを良くするために念のため。でも【育成】で育てるから、水はけのことは考えなくてもいいのかもしれないけどね。
大雨が降ってこの場所が水溜りにならないように、近々水路みたいなものを作ろう。でなきゃ、スライム達が逃げられなくなるし。
「それにしても【錬成】は便利ね。どうしてこの国は【闇魔法】である【錬成】を使わないのかしら?」
大方の理由は【闇魔法】全てを禁忌としているからだろうけど、そんなことをしていると他国との差を広げるだけだと思う。
この国の周りは【従魔の闇魔導士】を恐れている可能性があるけど、もっと遠くの被害がなかった国はそれほどではないだろう。だったら、
「成人を迎えたら他国に行こう。付いてきてくれる?」
『(もちろんです!)』
いつの間にか脇に控えていたグレイに相談すると、快い返事がもらえた。
あえて黒髪黒目の姿を嫌う国にいる必要はないわよね。他に国はどうなっているかはっきりとは分からないけど、【闇魔法】全てを禁忌扱いしているのはこの国だけみたいだし、もしかしたら受け入れてくれるところもあるかもしれない。ここで出来る死亡フラグを回避した後、そこでゆっくりと『普通』な暮らしを満喫するのよ!
後はそうね、育ててくれたランス神父にお礼をしておかなきゃね。
何がいいかしら?やっぱりお金かな?うわぁ、どうしよう。目標が一杯出来てしまって手がたりないじゃない!
だけど、まぁ、だらだら過す事を考えると目標があったほうがいいわよね。うん。骨が折れる危険極まりないのが混じっているけど、ね。
「じゃあ、目先のことから手を付けて行きますか!」
【錬成】を繰り返し、畑を作ることにした。
この村の壊滅を回避する未来のために―――