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昔からこの土地には、高いものがつきものだった。馬鹿と煙ほど高いところが好きという言葉があるが、あれは本当だ。火事と喧嘩と高いところが大好きなのだ。
この地に住む人たちは高所に憧れた。
ある時は五重に聳える仏塔で、ある時は赤煉瓦のモダンな塔。偽富士山まで作ろうとしたこともあった。そんな憧れは極まって、世界一高い電波塔を建てるに至った。
バカも夢を見て、夢に憧れて、夢に焦がれて天に登る。
全く、バカもおだてりゃ世界一だ。
***
スカイタワーが見下ろすスカイタウン広場。昼夜を問わず、団体旅行者やら家族連れやらカップルやら、一人ぼっちで併設されている水族館に足を運ぶ無職やらで溢れかえっている。
しかし、今は虫も眠れば草木も眠る時間。到底、一般の方々は起きているはずもなく―――、
「くたばれおらああああああああ!! 必殺のカナタキーック!!」
「イー!」
どかーんと爆発が起きても気に留める人はいない。
ふっ飛ばされる黒タイツ雑魚戦闘員の方々に敬礼である。
いつもなら出るはずの日給も、今回は仕事でもなんでもないからカットなのだ。こんな横暴、キリカさんの人望あってのことだと信じたい。
先程も言ったが、虫も眠れば草木も眠る時間である。中には気持ちよく寝ていた人や、今日の出来事を肴に一杯二杯とやっていた人もいるだろう。
「マモルさん、空なんて見上げてどうしたんです? 女の人たちが自分を取り合って争うなんて男の夢なんじゃないですか?」
「そうだな! 嬉し涙が零れないように必死だよまったく!」
『私のために争わないでー』と間に入って円満解決するならどんなにいいことだろうか!
どかーん。どっかーん。
「イー!!」
第一ラウンド終了。
彼らは雑魚敵の面目躍如と言わんばかりに、ヒーローの手を全く煩わせることなく舞台から降りた。
全身セイバースーツの幼馴染が黒タイツスーツをぶん回す光景。これを悪夢と言わずしてなんと言う。
カナタは準備運動でしたと言わんばかりの涼しげな顔で腕を組みながらこちらを睨んでいる。あーあー見えない見えない。身の丈ほどの大剣をブンブン振り回している幼馴染なんて。
「いやー彼女強いですね。ミサキ的にも辛く厳しい戦いが予想されますよ」
「……そうか」
「気のない返事ですね」
「……そうだな」
「まったく……マモルさんはとんだバナナ野郎です」
「えっ、なにそれ言い間違えたの? それともバナナは皮被ってるわけだし、当たらずとも遠からずな表現を狙っているの?」
マモル気になっちゃう。
「はい?」
「……忘れて」
きょとんとかやめろよ。
安須野は立ち上がって体を解した。黄色を基調とした技術課制作の戦闘員スーツに身を包んでいる。機械的なデザインが随所に見られるけれども、意外と伸縮性があるようだった。鏡面加工された篭手と首に巻かれた赤いスカーフが印象的である。あまり悪役っぽくはない格好である。
「ミサキ的に、マモルさんはそんなに嫌いじゃないです。優柔不断な男は反吐が出るくらいに嫌いですけど。わかります?」
「……おまえ、やっぱり俺のこと嫌いなんだろ?」
そこまで言って、安須野の言っていることを理解した。
「安須野家の家訓みたいなものですよ」
「耳が痛い家訓だ」
「マモルさん、―――――――――」
「ん?」
安須野はまっすぐカナタのほうを見ていた。
「いえ、何でもないです」
「そうか」
俺の返事を聞くと安須野は駆け出して行った。
まったく、耳が痛いですよ本当に。
***
親玉が真っ先に出てくることはない。なぜなら、ボスが倒されてしまえば、そこで物語は終了してしまうからだ。戦いというのには、手順というものが存在する。
この決闘は三ラウンド制だった。ヒーロー側から言えば雑魚キャラと戦い、次に幹部クラスが待ち構えており、最後に大ボスとの決戦がある。この三連戦を完勝しなければならない。
一見、ヒーロー側が不利のようであるけれど、複数を相手取るのはは最初だけで、第二、第三ラウンドでは悪役側は一人でヒーローたちを相手にしなければならないのだ。ヒーロー側は基本的に戦隊ヒーローよろしく複数であり、ルール上でバランスは取れている。
全力で行く。準備は大丈夫か。キリカさんが聞いたのは、こういうことだった。
『私たちの間じゃ、結構常識なのよ。西部劇の打ち合いみたいなものよね』と、道中キリカさんはそんな話をしていた。
「ま、今回はカナタ一人だけなんだけど」
こちらは愉快な黒タイツスーツの人たち、安須野、キリカさん、比呂川マモル(十六歳、今は誰よりも悲劇のヒロインかもしれない)というメンバー。
ケンさんはお店があるから来ていない。というより、こうゆう荒事には本来出てこないらしい。
『ほら、アタシって闘うとかそういうタイプじゃないでしょ? か弱い乙女だし~』と体をクネクネしていたケンさん。
昨日のお休みを潰してしまったこともあって無理強いはできない。
そんなこんなで、俺たちは不安を感じつつもヒーローたちを待ち構えるために一足先に現地入りしていた。
そこにカナタは一人でやってきた。ちょっぴり涙目で。しかも自転車で。
そんな彼女の第一声は『これくらいハンデよ! ハンデ! マモルのバカなにこっち見てんだ! 見るな失明しろ!!』だった。こっちは何も言ってないのに、まず言い訳から始まった。
ぽつぽつ語られる事情をまとめると、
――急だけど、悪の秘密結社Kの連中とやり合うことになった。
――うっす。ところでそれって仕事っすか?
――そういうわけじゃない。
――じゃあ、ギャランティーは?
――出ない。
――パスで。俺たちも慈善事業やってるわけじゃないっすわ。
ということらしい。昼間の五色は誰一人招集に応じなかったという。聞いている途中で俺も泣きそうになった。カナタの友達いないスキルは三千世界に轟くレベル。
この『人材派遣会社HEROES』はヒーローらしからぬやつらの集まりであった。そもそも、人材派遣とかいう文字も胡散臭い。いったいどういう経緯で、カナタはこんな会社に所属しているのだろうか。
そういうわけで、開始当初はカナタが圧倒的に不利だなと思っていたのだ。




