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正義か悪じゃ語れないっ!?  作者: 豚座34
■第三話「トランジスタ・ジャスティス・ガール」
14/22

-4-

 ところがどっこいまだ終わらない。

 あれから大変だったが、何があったか詳しく語りたくない。


 交通安全教室は午後の部もしっかりと終えて、ようやく事務所へと戻ってきた。

 黒タイツ雑魚戦闘員の皆さんは現地集合現地解散で、ゾロゾロと帰っていった。

 とっぷり日が暮れて、もうほとんど夜と言ってよかった。蛍光灯の明かりが部屋の中を照らす。チカチカと、隅の蛍光灯が切れかかっているのが目についた。明日にでも交換しよう。

 やっと落ち着ける場所に帰ってきて、頭がぼうっとする。一日の疲労感か。気を抜けば寝てしまいそうだった。


「マモルちゃん、お疲れ様」

「お疲れ様ですケンさん。引っ張りだしてすみませんでした」

 水臭いわ、と身体をクネクネ。二日酔いも大丈夫なようだ。

「あ、お茶でも淹れてきますね」

 ふっとソファから立ち上がろうとする。

「あら、私が淹れてくるわよ」

 ケンさんが俺を制止した。


「いえ、そんな悪いですよ」

「ほら、あっちはシャワー室が近いじゃない? またキリカから言われるわよ」

「次はキリカを止めるのを手伝わないから」とケンさんは笑った。


 女性陣は絶賛シャワータイムだ。交代なんてまどろっこしいと二人でシャワー室へと消えていった。羨ましい。俺も連れて行って欲しかった。そんなこと言える立場じゃないけど。


「……じゃあ、お願いします」


 お茶を汲みに行きたかった。

 なぜなら――ただいま絶賛正座反省中だからである。


 皆さんは算盤責めという言葉をご存知だろうか。山あり谷ありの板の上で正座させられ、その上に石を積まれるアレである。石抱きとも言う。

 現在、俺にはその刑が執行されている。


「はいはい。ほら、そのままで。すぐ持ってきてあげるから」

 ケンさんはお顔にやにや、お手手ひらひらさせて給湯室の方へと歩いて行った。


 あくまでもラッキースケベを装ったし、世間への配慮も怠らなかったし、キリカさんへ極上のサービスを提供できたと自負しているし、なにより邪な気持ちより事態の収集をアピールしていたのだが聞き入れられなかった。

 事の次第を聞いた安須野ミサキ女史は、ゴミ溜め見るような目で俺を見ていた。あの目は今受けている拷問よりキツかった。

 どうしてたって、こういう時に男は圧倒的に不利だ。哀しい。


「しかし、それにしてもすごかった」


 思い返すのは、あのことばかりである。あのこと以外は思い出したくないのある。いろいろ犠牲にしたけど、一生の宝物ができちゃったな。

あんま想像すると三本目の足が石にあたって痛いんだけどな!


「――比呂川君?」

「はいっ!」

 しゅばっとその場で背筋を伸ばす。ニヤけきった顔を改める。


 振り返ると臙脂色のジャージを身に着けたキリカさんが立っていた。肩にタオルかけている。上のジャージは羽織っているだけで、中に着ている白地のTシャツが見えた。『世界制服』と筆文字のようなフォントでプリントされている。誤字なのか、それともあのいつも着ている軍服みたいなものを世界の標準服にしようと思っているのか。謎である。


 キリカさんは少し湿った髪を指でいじっている。シャワーから上がったばかりなのか頬が少し上気していた。声をかけたはいいが、その次に何を言うか決めていなかったらしく、気まずそうに視線をあちらこちらさせている。


 それにしても、『比呂川君』か。一週間で築いた信頼関係は粉微塵のようである。まだ話しかけてもらえるだけましか。

 こういう時は謝り倒すのが吉である。父は母にいつもそうしている。


「「ごめんなさいっ!」」

 と、俺たちは同時に謝ることになった。

 キリカさんは後ろで手を組んで恥ずかしそうにする。


「私も頭に血が上ってたし……また粗相しちゃったし……ああ! もう! 面倒くさい! ていうかマモル君もね、ほかの女の人にああいうことしちゃだめだからね! これであいこ!」


 あいこだあいこだと俺の目の前に拳を突きつける。


「はい。わかりました総統。あなたに誓って、もう二度とこんなことはしません」


 マモル、約束する。もうエロいことしない。

 父と母にも誓った。心の中の父と母は『マジか』と驚いていた。信用がないにも程がある。心の中の幼馴染にも誓った。反応がなかった。シカトぶっこかれた。

 俺とキリカさんはどちらからでもなく笑った。暖かい笑いだった。


「お茶がはいりました! ヤバいです! 私、ティーパックとか粉のお茶以外淹れたの初めてですよ! ていうか茶柱立ちまくりです。私茶柱を見たのも人生初です」


 ちょうどいいタイミングで安須野とケンさんが戻ってきた。安須野はお盆に人数分のお茶を載せている。

 ケンさんの方を見ると力強くウインクをされる。何でも知ってるのかこの人は。見計らったようなタイミングで入ってきたからな。もう少し早く入ってきてくれたら良かったけど、そこまで甘えてはいけないだろう。


「あ、机ちょっと片付けますね。マモルさん、このお盆預かっておいてください」

 安須野は俺の足の上に置かれた石の上にお盆を置いた。


「いいぞ。任せておけ安須野」

 俺は爽やかに受け答えする。


「なんだかマモルさん。以前より素敵に見えます。この役に立ってる感じが特に」

「あははー寄せやい、こいつめー惚れるなよ?」


 安須野はテキパキとテーブルの上を片付けていく。意外や意外、彼女はずいぶん手際が良かった。整理整頓が習慣で身についていることを思わせる動きだった。

 あっという間にテーブルの上は片付き、それぞれがソファに腰掛けていく。キリカさんは俺の前の席に座った。対角線に安須野がいる。ケンさんは隣だ。 

 ドスンと、安須野は石の上に俺の湯呑みを置いた。


「おいこれ茶柱というより茶葉じゃねえか。茶漉しはどうした茶漉しは。葉っぱがダバダバ入っちゃってるじゃねえか。あれ、しかも俺の湯呑みだけだよね、こんな風になってるの。ねえ、やっぱり嫌いなの俺のこと? あとですね。こんなこと言える立場じゃないとは思うんでですけどね。そろそろこの拷問なんとかしてもらえませんか。マジで足の感覚がないんですよ!」


「足の感覚がないなら大丈夫じゃない。痛くないんだから」

 先ほどの暖かさはどこへやら。キリカさんは俺の懇願を冷たくあしらった。

「マモルさん、選択肢ブッブーですね。延長ですよ延長」

 安須野は爆笑しながらバッテンマークを作る。


 それから徐ろに、ソファのそばに置いてあったカバンからスマートフォンを取り出して、写真を撮り始めた。煽りの天才かこいつ。


「マモルさんフェイスブックやってないんですか?」と安須野はピコピコとスマートフォンをいじりながら聞いてきた。

「やってねーよ……っていうか、それ俺のスマホじゃねーか!!」

「ちっ。じゃあ、メール一斉送信ですね。『最高のサタデーナイトフィーバーだぜ!』っと……わお、アドレス帳ペラペラ。マモルさん友達少ないんですね」

「鬼かオマエ」

 血も涙もない行為だった。


「反省しましたか、マモルさん」


 安須野はスマートフォンをプラプラさせながら、ジトッと俺の方を見た。鬼の奉行っぷりだった。ミサミサ裁きだった。おそらくキリカさんやケンさんから事情を聞いたのだろう。親しげに接してくれたミサミサはもういない。


「した。うんとした。これでもかってくらい反省した。」


 だから、許してください。

 安須野は泣きそうな俺の言葉に満足して「では、これはお返しします」とカバンにスマートフォンを戻した。

 鬼じゃなかった。良かった。


「あの……拷問の方は……」


 俺の言葉など聞こえなかったかのように、三人は一服一服とお茶を啜っている。上告は虚しく棄却される。

 塩対応ってやつだった。もうしばらくは罰を受けていなければならないようだ。


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