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正義か悪じゃ語れないっ!?  作者: 豚座34
■第三話「トランジスタ・ジャスティス・ガール」
11/22

-1-

 火事と喧嘩は江戸の華、という言葉がある。江戸っ子の活きの良さを表す言葉として度々見かける。

 格好つけているようだが、実際は娯楽の少なかった当時、火事と喧嘩が一大イベントあったというだけだろう。

 派手好きで見栄っ張りで自分勝手で、後先顧みない。彼らの気質は、今なお受け継がれている。



 警察と自治会と悪の秘密結社が催す地域の交通安全教室。近所に住む子どもたちがわんさか押し寄せるイベント。

 和気あいあいとしたムードで進行していく――


「……だから、こっちは遊びでやってるわけじゃないって、何回言ったら理解できるわけ? 正義の味方気取りの金満野郎どもは脳味噌まで札束で出来てるんじゃないの? アンタらどうせお金にしか興味ないんでしょ。そんなに稼ぎたいなら、ボランティア同然とか言って警察が押し付けてくるような、しょっぱいイベントにくるんじゃーないわよ。しっしっ、スカイタウンの方にでも行って、金持ち観光客相手に媚でも売ってなさい拝金主義者ども」


「わかんねーのはそっちだろ? あんたらみたいなみみっちい小悪党共は情操教育上よろしくないんだよ。こっちこそ、遊びじゃないんだよ。仲の良いポリスがどうしてもって言うから来てんだよ。金に代えられない見返りとかがあるんだよ。正直、餓鬼どももだって“本物”のヒーローのほうが嬉しいだろうさ。それに比べて何だオマエは。小学校の校庭に、コンパニオンのネーチャンとお座敷芸人を呼んだ覚えはないぞ。その場に相応しい衣装ってものがあるだろ。そういうのはな、足立区辺りの鄙びたスナックで、元専務みたいな面したスケベ爺の前でやってこい。今の三倍は給料もらえるぞアバズレ女」


 ――はずだった。

 つい三十分前までは週末の午前中、朗らかな陽気のもと皆笑顔であったのだが、あっという間に終末。一触即発ムードである。


「……総統、子どもたちが見てます」

「マモル君はちょっと黙ってて」

「うっす」


 少し大きな声で諌めてみるも、非正規雇用の右腕なんてこんなものである。ひと睨みされただけで『うっす』とか言っちゃうのだ。



『でも、覚えておいてマモル君。上に立つ人物が間違った道を進もうとしている時、それを止めるのが部下の仕事だよ。特に君は、出流原キリカの右腕なんだから』



 いや、キリカさん止まらないじゃん。給料的にも身分的にも、非正規雇用には難しい業務内容である。


 小学校の校庭に作られた即席イベント会場にて睨みを効かせあっているのは、我らが悪の秘密結社の総統出流原キリカ女史with愉快な仲間たち(日雇い雑魚戦闘員の皆さん)と、赤いヒーロースーツに身を包んだ正義の味方withその仲間の他四色である。


 テレビの向こう側の光景が、まったくオブラートに包まれない状態で吐き出されるとこうなるのだろうかと思う。いやいや、失火系の王国の実態はスラム街かっつーの。そんなわけあるか。


「こんな時にどうしてケンさんがいないんだ!」

「しょうがないですよ。ケンちゃんさんにはケンちゃんさんの戦いがあります。華金でしたからね、お店の方が超忙しかったみたいですし」


 こういう時の保護者であり抑止力である頼れる肝っ玉オカマは、今朝までお客さんたちとドンチャンしていてグロッキーなのである。

 

「ついさっきまで、キリカさんも楽しそうに『悪い子はいね~が~』とやっていたのに」

「なまはげか」


 俺の隣で語るのは警察のマスコットキャラのきぐるみを装備した安須野である。顔だけは外して脇に抱えている。


「なんか総統から変なオーラが見えるぞ。そりゃ、子どもも逃げ出すわな」

「はは、マモルさん。ていうか、そろそろ本気で止めてきてくださいよ」

「はは。俺がさっきあっけなく撃沈したのを見てなかったのか? 安須野、おまえが行って来い」

「無理です」

「だよなあ」


 少し離れた位置でメンチを切り合う正義と悪。採石場でのバトルシーンというよりヤクザ同士の抗争――いや、不良ヤンキーたちの抗争のほうがいいかな校庭だし。


 警察の交通安全課の人たちはワタワタと慌てている。慌ててどうするんだよ。仕事だよ。市民を守ろうよ。市民の税金で飯食ってんだろ? あの爆弾いつ爆発するかわからないよ?


 サンバカ商店街組合の面々は、慣れたものなのか早々に退避済み――と八百屋のオッサンと目が合った。俺はオッサンに向けて手招きをした。

 事情を話してもらいたい。今回の依頼はオッサンが持ってきたものなのだ。

 にへらにへらとオッサンが小走りでやってくる。


「で、オッサン。これはどういうことだ?」

「いやあ、なんていうの? 連絡が不行き届きだったというか……ほら、オッサンたちも実は知らされてなかったというか……バッティングしちゃったというか……つまり、秘書がエッチなのがイケないと思いますぅ、はい」

「マモルさん、八百屋のおじさんがなんだか国会議員みたいなしゃべり方してます。二世議員って感じです。賄賂ジャブジャブって感じです」

「よく見とけ安須野。これが大人ってやつだ。反面教師にしような」


 八百屋のおっさんはうぐぅと息を詰まらせる。


「む……だから、つまりカクカクシカジカシコシコクチュクチュペロペロゴックンチョなわけなんだ」


 どういうわけなんだよ。


「ふむふむ、なるほどなるほど」

「わかるのか安須野」

「いえ、さっぱりです!」


 無駄に得意げな顔がムカつく。


「簡単に言うと、自治会的にはキリカちゃんのところにお願いして、警察的にはあちらさんに依頼したってところだ。本来どっちか片方だったはずなんだけどな。あちらさん遅刻してきただろ? 俺も来るまで何も知らなかったんだわ」


 まったく、困った困ったと笑う。


「でも、キリカさんも遅刻してきたぐらいであんなに怒らなくてもいいんじゃないですか? マモルさんはそこんとこどう思います?」

「確かにな」


 安須野の言うとおりではある。この騒動は総統がいきなり向こうへ突っかかっていったのがきっかけで、彼らが遅刻をしたという以外の理由は何もなかったはずなのだ。

 これじゃあ、まるで何か因縁があるみたいだ。いや、正義と悪ならあってもおかしくないんだけど。犬猿の仲というのがぴったりと当てはまる。


「おまえは何か知らないのか? とりあえず俺よりは長くいるんだろ?」

「いや、実はミサキもキリカさんに拾ってもらってそんなに経ってないんですよ。ケンちゃんさんとか技術課の先輩とかなら何か知ってると思うんですけど」


 事務所にめちゃくちゃ馴染んでいたからその答えは意外だった。でもこの場合は仕方ないか。


「とりあえず、考えてもどうしようもなさそうだな」

「そうですね。マモルさんじゃ考えてもどうしようもないです!」

「せめて自分も含めろよ……」


 それただの悪口だよ? おまえもしかして俺のことが嫌いなの?

 安須野は思ったことが脳味噌からダイレクト過ぎる。


「よしじゃないけど、よし! 安須野はケンさん呼んでこい。もう二日酔いですとか言ってる場合じゃない。引きずってでも連れて来い。自転車置き場に俺の自転車があるから使え」

「合点承知の助です!」


 片手で鍵を受け取りそのまま敬礼ポーズ。安須野バイタリティなら本当に引きずってきてくれるはずだ。


「あとオッサン。オッサンは警察の人に話つけて、向こうの人たちを止めてくれ。総統は俺が何とかするから」

「えー、オッサンはおっぱいのほうがいいなあ」

「オッサン」

「うっす」


 ちょっと睨んだらオッサンも敬礼ポーズを取った。

 そりゃあ、俺だっておっぱいのが良い――からではなく、オッサンが警察のほうに行くほうが話がつけやすいと思ったからなのだ。そこのところを勘違いされては困る。

 


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