1 ぷるぷる! スライム転生!?
目が覚めると、真っ白な世界から解放されていた。
見上げれば雲ひとつない青空が広がっている。
若草がそよそよと風に揺られ、僕の体にぺちぺちと当たる。
僕は、あの白い世界にいた頃から発狂する寸前だったから、落ち着いたら、ちょっとやそっとのことでは発狂しないだろうなんて甘い考えを持っていた。
けど、神林のあの言葉を思い出してくれ。
言ったよな。
これは壊滅的ですね。って。
確かに壊滅的だよ。
動こうとしたら、手足がないし。
手足を見ようとして俯こうとしたら、体が前に転がって起き上がれなくなった。
つまり、僕は球体の生物なんだろうね。
けど、それだけじゃあなんの発見にもならない。
結局、僕はなにに転生したんだろう。
とりあえず、近くにある草を食べてみる。
食べ方は分からないけど、体を寄せてから数秒後に味がした。きっと、触れることが食事の条件なのだろう。
そうして食事を続けて、満腹になってきた頃。
誰かが、こちらに歩いてきている音が聞こえた。
若草が踏まれる音は、どんどんこちらに近づく。
影が、どんどん濃くなる。
「あれ。若いスライムだ……」
可愛らしい少女の声。いつもなら耳がピクリと動くところだが、僕には耳もないらしい。
口もどこにあるか分からないし。なんなんだ、僕は。
「ここら辺では、スライムは出現しないはずなんだけど…」
僕の体がふわりと宙に浮いた。なんてことはない。この声の主が僕を抱き上げてくれたんだろう。
「小さいなぁ。出現したばかりだから、まだ30㎝しかないんだね」
声が近くなった。
大きな手が僕を撫でる。何に抱き上げられているのか確かめようとしたら、また前に転がりそうになった。
声の主は僕を180度回転させて、少し上を向かせた。
「目も普通のスライムと同じだね」
少女がポツンと呟きながら、僕を凝視する。
この少女が僕を抱き上げているのか。
それにしても、なんだ。
この子もまたアニメや漫画に出てきそうな姿をしている。
ショートカットの黒髪に、山羊の角。
色白の、今にも透けそうな肌。
黒曜石のような瞳、長い睫毛。
スッと通った鼻筋。
ぷっくりとした桃色の唇。
角さえなければ、完璧な美少女なのにな。
いや、服装も越すプレイヤーと間違われるほどのものではあるけど。
「君、ここで出現したんだよね?」
少女は可愛らしく首をかしげて、僕を見つめた。
「ぴ、ピキー!」
ん?
「ピキー! ピキー!」
「あ……。ごめん。私、スライム語は話せないんだよ」
いやいやいや。
ちょっと待ってくれ。
僕は人語で話したつもりなんだけど。
僕の話している言葉は人語には聞こえない。
ピキー! という高い声にしか聞こえない!
しかも、これがスライム語ってことは…。
僕は、スライムに転生したってこと……?