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re:born  作者: かなた
22/24

番外編2:優しい人

今回は冬服の青年のエピソードです!

道徳的と云うか人道的にアウトな

ネタが少々あるので

閲覧の際は注意してください!

男は1人だった。

白い街に転がる死体と

瓦礫の中、男は歩いていた。

男は兵士だった。

国を守る為に死ぬのなら

恐怖などない。そう思っていた。

だが、違った。

現に男は恐れている。

死を、敵を。

敵は飛行機を使って

爆撃を繰り返すのに対して

男たちは敵にただ突っ込むことしかできない。

勝敗は初めからついている様なものだ。

つい2日前にこの街も

爆撃を受け殆どの住人が死んだ。

此処より北の地域は制圧されたらしい。

()せ返るような暑さと

腐臭、硝煙の匂い、白壁に

こびりついた血海。

全てが男を不機嫌にした。


男はフェルメイトと云う。


『くそがっ!』

フェルメイトはドラム缶を

蹴りつける。

男はえらく不機嫌だった。

不条理。

わかっている、そんなこと。

俺の知った事ではない。

此処にいる奴等が野垂れ死のうが

どうなろうが俺には関係ないことだ。

だが、こいつらを、この街を、この現状を

見てると苛々(いらいら)してきやがる…!

俺はただ、家に帰って旨い酒が呑めて

女が抱けりゃそれでいいのによぉ…

男が再びドラム缶を蹴ろうとすると

ふと目の前の人影に気づく。

それは彼の半分もない小さな少女だった。

『……。』

少女は癇癪を起こした彼を

じっと見つめいた。

『なんだ…クソガキ…』

フェルメイトは不機嫌丸出しの口調で云う。

『あっ…あの……えっと…』

少女は力のない声でオドオドと答える。

『うるせぇな…シャキッと喋れや、(ころ)すぞ。』

彼は本気だった。

はっきり云って目の前の少女を

殺して、犯して、気がすむのなら

それでも良いと思えていた。


少女は、相も変わらずの力のない声で

『その…食べ物を…』

食糧の嘆願だった。

男は更に不機嫌になった。

彼は銃を少女に構えた。

殺す。それだけを考えて…

しかし、以外にも少女は物怖じなどせず、

寧ろそれに歩み寄って来るのだ。

途端に彼は恐怖した。

この少女は銃を恐れない。

俺は銃を恐れている。

この少女は死を恐れない。

俺は死を恐れている。

それだけだった。

だが、彼が少女を恐れるには

それでも十分過ぎる動因となった。

彼は腰の袋に入っていた

乾パンを取り出し彼女に投げつけた

そして彼女から逃げた。


戦時且つ、最前線に最も近い町なのだ。

治安もクソもあったものではない。

女郎や破落戸(ごろつき)に溢れた一種の

魔窟だ。

路地を除けばそら、先程の少女だ。

先程の乾パンを年配の男たちに

奪われ、(なぶ)られいる。


同情はするさ。

だが、それ以上でもそれ以下ない。

彼は現状に目を瞑り、我関せずを決め込んだ。


彼のような一介の兵士に宿などなく。

廃墟となった建物の中でボロボロの布に包まって眠りに着いていた。


夜が更け白壁が鉛のような鈍色に

塗り潰れる頃。


不意に彼の体躯(からだ)が妙な感覚を覚えた。


目を開くと、彼は絶句した。

なんと、辺り一面火の海なのだ。

どうやら夜間に空襲があったようだ。

外は悲鳴や叫び声で正に

阿鼻叫喚そのものである。


そして、当の俺も火の海の中逃げ場などない。


…あぁ…くそ…なんで、俺が…


男は自分の不運と不条理を呪う


…あぁくそ…あぁぁぁ…!


気がつくと男は駅に立っていた。

見たこともない様な形の駅。


男は思考を停止させたように

ポカンとしている。

そして数刹那の後、目の前に

人が立っている事に気づく。


女性のような顔立ちに

眼鏡を掛けている青年。

その青年はどこの国の軍服か

黒地の布に銀のボタンの上着と

それに統一されたズボンと云う

服装で立っていた。

(もっと)も某国の学生が冬場に着る制服だと云う事など彼には知る由もないのだが。


彼は膠着の後、彼は我に帰ったように叫び出す。


『おっ…お前は誰だ⁉︎此処の国のぐんだ⁉︎…⁉︎露助(ろすけ)だな…露助なんだな…⁉︎ぶち殺してやる…!』


男はガタガタと震えながら

銃を構える。

青年はただじっと彼を見つめている。その目には軽蔑や侮蔑を通り越して憐れみの感情さえ見えた。

彼が引き金に指をかける。

冷たい空に無数の銃声が響く。

とにかく、撃たなければならない。

彼は青年めがけて撃ち続けた。


『おい…三下(さんした)…いい加減にしろよ…』


青年の雰囲気が変わった。


『っ⁉︎』


フェルメイトは殺気を感じ銃を止める。

あれだけ至近距離で撃っておきながら青年には弾丸は一発も当たっていなかった。

青年が手のひら広げ、そっと閉じる。

するとフェルメイトの持っていた銃が音を立て崩れていった。


眼鏡の青年は口を開く。

『虫が好かん。見ず知らずの他人に逢って早々にこれか…』

青年は続けた。

『なんだろうな…この感覚は…好きでもない三文小説を無理矢理読まされてる気分だ。何故、お前などを此処に辿り着かせたのか、我ながら理解できん。俺には今此処で貴様を灰燼に変える力も権利もある。だが、そうしない。何故かわかるか?』

彼は男の目を哀愁の眼で見つめる。

『この()の為だ。』

青年は後ろに目を向けると

青年の背後に萎びてボロボロの服を着た少女が立っていた。


先程まではいなかった。

恐らく、たった今この場に

辿り着いたようだった。


少女もまた、男と同様今の状況を理解できていないようだ。

『お兄ちゃん…誰…?』

少女は目をぱちくりさせて青年に問う。

すると青年は笑いながら答えた。

『お兄さんはね、君の為の神様だよ〜君はいい子だったから神様(ぼく)から君にプレゼントがあるんだ〜。』

青年は先程の男とのやりとりとは打って変わってとても穏やかな口調で話す。


『ぷれぜんと…ってなに…?』


青年は男の方を見ると、つられて少女も男を見つめる。

すると少女は気づいたように目を輝かせて男に駆け寄った。

男にはその少女が誰なのか数秒に刻を要したが、すぐに気づいた。

あの少女(ガキ)だ。

自分に食べ物を嘆願してきた少女だ。


少女は目を輝かせながら男に飛びつく。

『おじさん!あの時はありがとう!』


男は理解できなかった。

男は怖かっただけなのだ。

その少女が、ただ怖かったのだ。

それなのに何故少女が

自分に感謝するのか、

男はわからなかった。


『お前の(さが)だ。口出しはしない。

彼女と共に行くなら次にくる列車に乗れ。乗らないのなら…』

青年は黙視。

途端、男の顔面に拳を殴りつけた。


…刹那男の中、頭の中に数え切れないほどの映像(ビジョン)が流れ出した。それは、彼がこれまで経験してきた人生そのものだった。

産まれた日。

旧友たちとの日々。

友の死。

恋人の死。

堕落した日々。

そして、(おの)が死。

反吐が出るほどむさ苦しい人生。

だが、上映はそれはだけでは無かった。

画面の向こうには

黒い塊がポツリと転がっている。

その塊の周りを数人の

兵士が取り囲んでいた。


なんだこれは…


しばらくして、衛兵らしき人物が現れ何かをチェックすると、その場を去り、その塊は放置された。


考えてみると衛兵が確認するものなど決まっている。

被害者だ。つまり、”それ”は被害者なのだろう。そして恐らく”それ”は俺。

俺は自分の遺骸を見ているのだ。


その時点で、男は自分が死んだと云う事をごく自然に受け入れていた。


すると別の映像が割り込んできた。

赤褐色に茹だった肌。

ボロボロに砕けた服。

あの少女だ。

彼女の体躯は以前よりも

酷く衰弱しており、路上に伏している。

彼女の華奢な体が僅かに前後している。

まだ生きている。

彼女は廃頽した目でこちらを

そっと見つめる。


…違う。俺のせいじゃない。

あの時、俺が助けようと助けなかろうと、結果は同じだったはずだ。

俺のせいじゃない。


向こうからこちらは見えてはいまい。

しかし彼女はこちらを見つめている。

まるで助けを求めているように。


すると、一匹の野犬が現れた。

男は察した

必然的で偶然的で悲壮的な事象だ。

酷く痩せこけた”それ”は

少女の腕に噛り付いた。

少女が顔を歪める。

しかし衰弱しきった彼女は

声も出せず、その場に

留まることしかできない。

苦痛に涙を浮かべる少女は

以前、こちらを見つめている。


やめてくれ。

やめてくれよ。

俺が悪いのか…?

俺がお前を助けていれば

こんなことにならなかったのか?

頼む、そんな目で見ないでくれ。

俺はお前の頼みを聞けない。


男の情念を知らず。

野犬は少女の体を(むさぼ)る。

…ゴキン…

虫酸が走るほどひどく清々しい音と共に

少女は事切れた。


はっと我に帰ると

男の目の前には青年が立っており

青年に殴られたのだと理解する。


『っえぇ…なにしやがる!』

男は青年に殴りかかろうとするが青年は彼の眼前に指差し訪ねた。


『もう一度質問だ。

彼女と共に行くなら次にくる列車に乗れ。

乗らないのなら……』

青年は口を噤み繰り出す。

『また戻るか…?あの日に。』

男は返事をすることができなかった。


暫く経つと列車が着き、

少女は目を輝かて飛び乗った。

そして男は…。












『クサいことしなぁ…』

冬服の青年は駅でため息をつく。


『釈然としない…』

あの男は彼方(あちら)へ連れて行くべきだったのか…

『はぁ…』

再び深いため息をつく。


『珍しいじゃんよ、アンタがため息なんて。』


青年は聞き慣れた声に振り返る

赤黒いマントを羽織った長身の男と

メイド服姿でボブカットの少女

がそこには立っていた。


『ネロの件でレオナルド卿が貴方と話したいそうです。』


少女が澄ました口調で話す。

『そうだな…できればフランツやアルベール…あとエドワーズも呼んでもらえると助かるな。』

青年が少女に伝えると

『はい。』

とだけ述べ、

霧のように消えてしまった。


『せっかちな女だ…』

マントの男は少女をたしなめる

『まぁ、そう云うな。ミナはちゃんと

職務をこなしてるんだからさ。』

青年は男をなだめるように答える。

『さぁ、行こうかジッキンゲン。

レオナルドがお待ちかねだ。』






朝が来ない。

そんな事象はありえない。

だから待つだけだ。

いつ来るかも知れない明日の朝。



ご閲覧ありがとうございました!

あと数話ありますので

よかったら最後までお付き合いください!

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