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幼き日々の物語  作者: R
1/1

3年前の物語 Ⅰ

「……?」

 僕の言葉の言葉に返事は無かった。

「よかった……」

 髪を軽く撫でて、僕は体の力を抜いた

 今の僕の体は上下左右へ小刻みに揺らされている。

 大きな揺れがある時にはかならずガタンという音が鳴り、その揺れの一つ一つが僕の気分を悪くしていった。

 ……要するに僕は乗り物、それも揺れの激しい海上高速列車に乗っていた。

「理愛……大丈夫ですか?」

「たぶん、大丈夫じゃない……」

 小さい机に向かい合わせに座っていた佐奈は盤上の「弓兵」の駒を手に取ってくるくると回しながら言った。

「まぁ、理愛は昔から酔っても酷くなることは無いタイプですが、辛かったら寝ても良いんですよ」

「いや、大丈夫。続けよう」

 頭は軽く痛むが、吐き気はない。

 佐奈は軽く頷くと「弓兵」の駒を僕の「槍兵」の側面に回し、十枚の槍兵コインの内3枚を取った。

「はい、槍3枚剥がしました」

「盾を重ねるよ」

「盾を1枚貰います」

「さらに盾を重ねる」

「……」

 佐奈は動かす駒に困り、指を回しながら考え込んだ。

「もうすぐ20秒だよ?」

「うぅ……」

 佐奈は呻きながら奥の槍兵を自分の「指揮官」に近づけた。

「はい、佐奈ご自慢の弓兵を盾兵で攻撃します」

「……」

 無言で奥の盾兵でさらに指揮官を固めた。

「はい、これで弓兵は壊滅です」

「えげつない……駒を犠牲に考えます」

「はい、いくらでもどうぞ」

 佐奈は盤上から手を引いて頭を抱えた。

 佐奈は呻いているが僕は忘れずにわざと大きな音を立てながら二十秒ごとに駒を一枚剥がした。

 そして、僕が5枚目の駒に手を伸ばしたとき、アナウンスが流れた。

「あ、着いたね」

「はい、長かったですね」

 僕は机の上の駒をボードにしまった。

 揺れる席を立つと軽い立ち眩みが起こった、しばらく頭を抑えてからジャンプして荷物を取ると、下から声が聞こえた。

「あとですね……」

「なに?」

 佐奈が頬を膨らませながら言った。

「ゲームは引き分けですから……」

 無論、それに対する答えはもう決まっている。

「うん、いいよ」



「でも理愛、よく此処のチケットなんて手に入りましたね」

「店に寄ったら丁度二組売れ残っていたんだ、キャンセルかな?」

 実は十軒以上回って見つけたのは秘密だ。

「でしょうね、それを含めてもありがとうございます……私が行きたがってたの、知ってたんですね」

「そりゃまぁ、あんなに分かりやすくしてたからね」

 あんな顔されたら探し回らないことなんて出来るわけがない。隣町まで出かけるのは大変だったが、頑張った甲斐はあったようだ。

 三分ほど歩けばその大きな入り口ゲートが見えた。

「ようこそ、お二人だけでよろしいですか?」

「はい、子供二人です」

 僕の声に頷いた職員はカードとそれを首から提下げるためのケースを二つ出した。

「それでは落とさないように注意して楽しんできてくださいね!」

「はい、ありがとうございます!」

 佐奈が声を弾ませながら受け取って、片方を僕に渡した。

 歩きながらカードをケースに入れて、紐を伸ばして首にかけた。

「あ、ピンクって事はやっぱり女子用だ」

「むしろ男子用を渡されたら眼科を呼ぶ必要がありますよ、一人称と下がズボンなこと意外手がかりが無いんですから」

 ……仕方ない、仕方ないんだ。たとえ女の子と思われようと似合わない服で外に出るのだけは我慢ならなかったんだ。

 顔を上げれば、僕等の目の前にあるのは円形の台に乗った大きな窓付きの球体や空中にしかれた列車の線路のようなもの、分かりやすく言うと僕等は遊園地に来ていた。本来此処は修学旅行の最終日の自由行動場所だったのだが、とある事情で取り消しになってしまったのだ。

 佐奈は酷く落ち込んでいたし、僕も楽しみにしていたので個人的に来ることにしたのだ。

「理愛!最初にあれ乗りましょう、あれ!」

 佐奈はジェットコースターを指差して言った。

「え……あれ?」

 正直に言うとすごく怖い、背筋が凍った。

「何ですか?もしかして怖いんですか?」

 佐奈が挑発するように言った。

「うん、怖い。すごく怖いから別のにしよう」

「いやです、私はアレに乗りたいんです」

 佐奈は歩いていこうとする僕の袖をつかみながら言った。

「……」

「……」

 ここはもう、公平に決めるしかないだろう。

「「せーの!!」」

 声を出した後僕は両手の手のひらを重ねて「盾兵」の形を作り、佐奈は両手の指を真っ直ぐに伸ばして「槍兵」を作った。

「負けた……」

「さ、行きましょう理愛。きっと楽しいですから」

「絶対後悔する!絶対後悔するからね!!」

 僕の叫びは虚空へと消え、僕のカードは職員に渡されることとなった。

 手早く機械に通してカードを読み込ませると、こちらの気も知らずに微笑みながら乗り物の席へと案内された。

 僕等の席は後ろから3番目で、後ろの席はすぐにカップルと一人の人泣き言を言うまもなく埋まった。

「楽しみですね、理愛!」

「僕は全然楽しみじゃない……って上がってる!もう上がってるよ!」

 すでに下からはカタカタという音が聞こえてきた。

「そりゃ上がりますよ、上がらな……」

 そのとき、僕等は最高高度に到達した。空しか見えていなかった視線には地面や建物が見えるようになる。

 そして、あれほど興奮していた佐奈が「停止した」。これは昔からの佐奈の習性で、ものすごい怖い目に会ったときに起きるものだ。

 佐奈は高所恐怖症というわけではないので、高いところに上がった程度ではこうはならない。ではなぜ止まったのだろうか、それは勿論……

「怖い怖い怖い!下ろしてぇぇ!!!」

 ……コースターが降下を始めたからだ。

「落ちる落ちる落ちる!死んじゃう!助けてぇぇぇ!!!」

 佐奈は止まる、私は絶叫して安全装置にしがみつく。

 コースターは下までたどり着いたが、その勢いは無論衰えることなく次の上昇を始めた。

「馬鹿馬鹿馬鹿ぁ、佐奈の馬鹿ぁぁぁ!!!!!私は嫌って言ったのにぃ!」

 そのときの私は生暖かい瞳で見られていたかもしれないが、そのときはそれどころではなかった。

 だって、もう一度下りたと思ったら目の前には巨大な「輪っか」が見えたから。

「やだ……」

 体が反転した

「やだ…………」

 回転を伴って落ちる

「やだ………………」

 そして次はこのコースター一番の目玉、最高速度&最高距離&最高角度のラストスパートだった。

「もうやだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 コースターは加速して、私の叫びは空中に取り残された……

 この物語はレアリタット―帰還―の短編で、過去編となっています。詳しいキャラ紹介は本編へ

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