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某日、行方不明者約一名  作者: 稲荷寿司
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ここではない何処かから

 昔あるCMが、地上波で放送されていた。

 倫理や道徳等を訴える為の公共の広告機構のCMであり、今でも頭の中に残っている。最近はテレビというものをあまり見ていないせいなのかもしれないが、昔見たそのCMがこびりついたようにと記憶に残っているのだ

 高校の屋上、一人の女子高生の隣には積み重なれた本が無数に置かれている。青空はよく晴れており雲がまばらで、洗濯物が乾きそうな良い天気であった

 少女は本を読んでいた。最初は灰被り姫、白雪姫の童話である。

 『シンデレラ!このウルノロ!』『私の部屋もピカピカにするんだよ!』『洗濯も忘れるんじゃないよ!』

 有名な話の冒頭だ。継母と二人の血の繋がらない姉が、シンデレラに意地悪を言いながらこき使う、可愛そうなシンデレラを登場している。

 汚く粗末な服で床を磨くシンデレラに、さげすみの目と笑いを持って奴隷のように扱いをシンデレラは受けていた。

 「可愛そうなシンデレラは、汚い格好のまま家の中でズーッと働き続けなければいけませんでした」

 女子高生は、そんなストーリーの冒頭を読み始めていた。しかし何を思ったのか、バタンと本を閉じ投槍に呟いた。

 「終り」

 閉じた本を脇に置いて別の本を取り出し読み始める。

 悪い魔女に王子様が挑みかかるが、魔女の魔法により王子様は蛙に変えられてしまった。

 『悪い魔女め!覚悟!』

 『生意気な!こうしてくれるわ!』

 義憤に猛り王子様は剣を抜いたが、悪い魔女の邪悪な魔法により蛙にされる王子様。物語はこの後、王子様はキスにより人間に戻るストーリーが続いている筈だ。

 「王子様は、それから何百年もの間蛙のままでした。終り」

 だが少女は、やはり中途半端にストーリーを終わらせてしまいパタンと小説を閉じてしまう。まるで、不運がこの王子やシンデレラの人生の全てだと言いたげに晴れぬ表情で本を脇に置いた。

 「白くて美しいアヒルの群れの中で、その雛鳥だけ汚い灰色でした。醜い醜いアヒルの子。終り」

 「終り」「終り!」「終り!!」

 少女は次から次へと小説を閉じていく。冒頭の不幸な出来事ばかりを読み力強く本を閉じて重ねていった。

 全ての本を読み終わり、少女は金網の向こう側に立つ。私の人生も終わりとでも言いたげにうつむきながら、飛び降りようとしていた。

 「最後がどうなるか知ってるでしょ!」「ボクは魔法が解けるんだよ!」「アタシは王子様と結婚するのに!」「「「お話はこれからなのに!」」」

 アヒル、蛙、シンデレラが自殺を止めるようにそれぞれ声をかけ、テロップが出てCMは終了する。

 テロップの内容は『人生で素敵なことは、だいたい最後におこる』だ。

 そうならば、そうであるならば、それが正しいのなら。人生の素敵な事を迎える前に、いなくなってしまった人はどうなるのであろうか?

 人生の一番最後を見ることなく消えてしまった人に対しては、このシンデレラとアヒルと王子はなんて声をかけるのだろう?

 まあなんだかんだ考えても、このCMは青少年の自殺防止用の広告である為そこまで聞かれる事はないし、内容自体にイチャモンをつけようとも思わない。自殺防止を推奨し語りかける事は素晴らしいことだとは思う。

 こんなことを考えていたせいか、夢想し妄想していたせいか、俺という存在はどうにも社会的…というより会社的には受け入れられなくなってしまったようだ。明日にはこの貸家の荷物も纏まり東京を出る事になる。

 さて、予め語っておきたい事がある。この話は作り話だ、フィクションだ、妄想だ、そんな事言われなくても承知しているという類の法螺話だ。

 そう宣言して、始めようと思う。ひと夏、俺が体験した奇妙な物語を。

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