フードコートの男
「どうした?また見えてるっていうのか?」
「ああ、またあそこに居るんだよ」
指を指して居ると言ってはみるものの、友達には理解されない。どういう訳か判らないけれど俺にしか見えない幽霊が居る。その幽霊は3週間ほど前から学校帰りに立ち寄る店のフードコートにいた。
たった一人でフードを被っていて、丁度その影で顔は確認出来ない。そしてずっと微動だにせず椅子に座ったままでいる。外が晴れているのに服は泥だらけで土気色をしていて、ずぶ濡れになっている。ただ俺が知っている幽霊と違う店をあげるなら足がある事だ。
また、誰かが幽霊の座っている場所に座ろうとすると、ふわっと煙のように消えてしまった。
3週間前からフードコートへ訪れる度に見えるその幽霊はずっと同じ服装、同じ状態のままだった。
今日もまたフードコートへと俺は友達と一緒にやってきた。やはり姿が見える。でも今日は両手で頭を押さえ、下を向いているというよりはうなだれているという状態になっていた。
「今日はどの店にする?」
「俺はドーナツでいいや」
ドーナツ屋へ並び、ドーナツとコーヒー2杯を頼んだ。
「コーヒー2つ頼んでどうすんだよ」
「ちょっとね」
注文した物が来ると、コーヒーを持って俺は幽霊の居る席へと向かった。何か一言言った方が良いかとも思ったけれど、何かあったら嫌だから黙って席にコーヒーを置いて小走りで離れた。
「あれって幽霊の席だろ?どうしたんだよ」
見えない人からはそれは不思議な行動だった。当然友達からも聞かれた。
「なんか今日の幽霊すっげぇ落ち込んでたからコーヒーあげたんだよ。テレビであるだろ?『あちらのお客様から』ってやつだよ。コーヒー飲むと何か元気とやる気出るじゃん」
「眠気は吹き飛ぶけどな。残りはお前だけだって」
いまいち人に理解されないけれど、あれで幽霊が成仏できるのならいいかなと俺は思った。
――2年が経ち、俺は今日大学の合格発表を見に行く日だった。昨日まで続いていた雨はまだ続いているが、丁度帰りには雨が止むらしい。行きは不安で、帰りは晴れ晴れそんな予感をさせる天気だ。
いつもの友達はもうすでに志望校に合格していて、4年間は安泰だ。でも俺は第一、第二と落ちて、最後の希望第三志望の大学が受かっていますようにと切に願っている状況だ。
晴れやかな日になるようにという事で気に入っている青いフード付きパーカーを着て大学へと向かう。
「0983、0983……」
合格発表の掲示板の前で喜びはしゃぐ高校生達。きっと4年間同じ学び舎で苦楽を共にする同士だろう。早くその仲間になりたいと番号を探す。しかしどこを探しても番号が無い。補欠合格も学部合格も全て見たけれどどこにもない。この時点で就職か浪人どちらかになる事が決定した。
天気予報も嘘っぱちだった。帰りには雨が止むって言ってたのにさらに雨脚が強くなっている。風も出てきた。
「あっ……」
突風で傘が飛び、その勢いで俺は地面に倒れこんだ。倒れた先には泥水たっぷりの水溜りが出来ていた。
言葉が出ない。泣きたいのに涙が出てこない。
気が付くと俺は3年間通いなれた店にやって来ていた。俺は少し気を落ち着かせようととりあえず中に入る事にした。
何を頼むでもなくまず最初に席に着く。放心状態だった。何が見えるという訳でも無いのにテーブルを見つめ続けていた。
これからどうするべきか。何も答えが見つからない。方向性さえ判らない。
考えれば考えるほどに落ち込んで、俺は頭を抱えた。
(もう駄目じゃないか……)
同じ言葉が頭を駆け巡る。
その時だ、俺の座るテーブルに音が聞こえ、良い匂いが鼻を刺激する。
顔を上げると、コーヒーが映り、その先に俺が通っている高校の制服を着た男が小走りに走る姿が見えた。
はっきりと顔を上げ、その先を見る。けれどその先に学生は居なかった。
(今のは?)
幻か、現実逃避だろうか。でもどれも違う。俺の目の前にはドーナツ屋のカップがある。デザインが変わる前のコーヒーカップだった。
一口飲んでみる。暗い気持ちがコーヒーの色で塗りつぶされたように思えた。続いて二口。暗い気持ちが流されていく感じがした。三口目、心がすっきりして、頑張ろうという気持ちが沸々と湧いて来る。
「負けられないぞ!!」
グイッと残りを飲み干すと、俺は家に向かって走りだした。
来年に向けての準備をするんだ。そう決めたら一分一秒が勿体無かった。腐っている場合でも無かった。
――それから一年後、俺は桜を咲かせた。
終わり
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