死体との生活
そこは見知らぬ部屋だった。
どうやらアパートの一室らしい。私は床で寝ていたのだ。
日がさんさんと射し込んでいていて…時刻は正午を少し回ったくらいか。
自分が今、どこにいるのか分からないくらい飲んだのは、初めてだ。
昨日の事を思い出してみる。
とにかく飲みたい気分だったのだ。会社でのストレスと言ってしまったら簡単だが、新たに任された部下の、あまりの能力の無さに、どうしていいか分からなかったのだ。会社でストレスを貯めに貯め…。私は帰宅途中の乗り換え駅でふらりと電車を降り、適当な飲み屋に立ち寄った。まずはビール。つまみは適当に頼み、日本酒へと移って行った。酒が五臓六腑を満たし、精気が戻って来る気がした。ようしどこまでも飲んでやるか。私は杯を重ねた。そして…現在に至る。
やれやれ、やっちまった。
見知らぬ部屋で目覚めるとはどういう事だ…。
そうして部屋を見渡すと、もう1人、床に、女が寝ている事に気が付いた。
これは漫画や小説によくある…、酔って見知らぬ女性と一夜を共にしたというやつか…。せめてベッドで事を起こしたかった…。
こんな事が自分に起きるとは。
自分も、女も服はちゃんと着ている。
では、何もなかったのか…?
「あの… 大丈夫ですか?」
ともかく、寝込んでいるらしい女に声をかけた。
もう昼すぎだ。昨夜から寝ているとしたら、そろそろ起きてもいい頃あいだろう。
それに、そもそもこの部屋の家主と考えるのが普通だ。何があったにせよ、きちんと挨拶をしなくては。
「あの…すみません。私、ここで寝てしまっていたようで…」
再度声をかけてみた。
しかし、女はピクリともしない。
「あの…、もしもし?」
私は急激に嫌な予感がしてきて、あせって声をかけた。
「すみません、起きて下さい」
肩を揺すってみた。
だらり…と女の体がこちらを向いた。
女の胸には、深々と包丁が突き刺さっていた。
「うわーーーっ!」
私は思わず大声を上げた。
そして、出口に向かって走る。
ガチャガチャと鍵を開けようとするが、手が震えていう事を聞かない。
「鍵…早く、開け。早く、開け…」
私は必死でつぶやきながら手を動かそうとして…、気が付いた。
ここは鍵のかかった密室だったのだ。