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*間抜けな殺人者

 ああ、そういえば確認する小さなドアがある場所もあったっけ? と記憶をたぐりよせる。

 しかし、施設によって造りも様々だ。ここがそうとは限らない。ひとまず人の気配を探っていくことにした。

「あっ……と」

 マシンガンの方は解決したと伝えておらんな、今更だがメールしておくか。

[行動早いよ!]

 返ってきたメールにクスッと笑う。ベリルは勘の鋭さもさることながら、その行動の速さにも定評がある。

 進んでいくと人の気配がして、人影の様子を身を潜めて窺う。

 どうやら何かに悪戦苦闘しているようだ。

「くそっ……どうやったら入れられるんだよ」

 声と体格からして20代後半の青年のようだが、しゃがみ込み工具箱と太いパイプを交互に見ながら舌打ち混じりにぶつくさとつぶやいている。

「……」

 ああ、やはり馬鹿だ。そんな事は侵入する前に事前に調べておくものだろう。持っているウイルスも生きているのか疑わしい……とベリルは頭を抱えた。

 声をかけて騒がれるのも面倒だと、すぐ近くまで歩みを進める。

 5mほど近寄れたが、これ以上は無理そうだ。持っていた銃やナイフは柳田に奪われてしまっているし。面倒だな……思いながら素早く駆け寄った。

「えっ!?」

 駆け寄ったベリルに気が付いて体を向けた男の腹に膝蹴りをかます。

「ギャ!?」

 叫び声を上げて男はつっぷした。

「ふむ」

 片膝をつき、男が持ってきていた容器を眺める。

「うう……」

 小さく呻き声を上げる男を一瞥し、5本ほどの試験管に入った色の付いた液体をわずかな明かりで確認するように見やったあとコンクリートの床に全て流した。

「はあぁ~」

 たった5本……ベリルは呆れて長い溜息を吐き出した。

 よほどの致死量で無い限りこれだけの数では腹をこわす程度にもならん。水に入れれば増殖するとでも思っているのだろうか。

 単純に見える細菌だとて、環境が整わなければすぐに死んでしまうというのに……なんだか腹が立ってきた。

「ミコは馬鹿か」

 やってる事はもっともらしいが中身が無茶苦茶だ。こんな奴に崇拝されてると思うと、何故かこっちまで恥ずかしくなってくる。

「ひとまず」

「ぐえっ」

 立ち上がり、男を踏みつけて警察に電話をかけた。

「不法侵入者だ。場所は……」

 携帯を仕舞い、隠し持っていた小さい結束バンドを取り出す。

 靴と靴下を脱がせ両足の親指同士、結束バンドでまとめる。同じように両手の親指同士も結束バンドでまとめた。

「あとは警察に話せ」

 にっこりと微笑み、慌てる男を放置して施設から出て行く。

 離れてしばらくすると、警察車両のサイレンの音が耳に届いた。ベリルはサイレンの音を聞きながらメールを打つ。

[水道施設の方も終った。お前たちは家に戻れ]

 送信ボタンを押したあと、向かう先は教団本部──放っておいてもいずれ警察が乗り込むだろう。しかし、会って言っておかないとならない事がある。

 タクシーで近くまで乗り付け、その建物を見上げた。

「……」

 支部よりは人の気配が多いように感じられる。教祖がいるためだろうか? ベリルはそのまま玄関に足を向けた。

「! 何かご用ですか?」

「教祖に会いたい」

 入り口にいた男2人がベリルを止めると、彼は無表情に応えた。

「明日にしていただけますか」

「今、願いたい」

「お帰り下さい」

 威圧感を与えるようにベリルに言い放ったが、彼はギロリと睨み付け男たちを叩き伏せた。

「そこで寝ていろ」

 いかにもな内装にベリルは半ば呆れてゆっくりと奥に進む。

「なんだきさまは!」

「黙れ」

「……っ」

 侵入者と聞きつけて止めに来る者もいたが、彼の気迫に負けて進路を譲っていく。飛びかかってくる人間には容赦なく攻撃をしかけてたどり着いた部屋は、特別な空間なのだろうか内装がやや豪勢だ。

 その床に、赤い布に包まれた人物が転がっていた。もがいている周りにはベリルの写真が乱雑に散らばっている。

「……」

 状況から察するにこいつがミコ様か? ナユタたちにでもやられたのだろう。

 教祖のこの状況にも気付かない他の連中にも呆れる。ベリルは小さく溜息を吐き出すと、ひとまず自分の写真を拾い集めた。

 祭壇にあるライターを手に取り、写真を香炉に投げ入れて火を付ける。じんわりと燃え初め、勢いを増していく炎を見つめた。

「く、くそ……ナユタめ」

 男がようやく赤い布をはぎ取り、悔しげに発する。

「!」

 目の前に人の気配がして、ゆっくりとその姿を下から舐めていく。

「!? お……おおお! まさか!?」

 おおよそ整っているとは言い難い顔をベリルに向けて、歓喜にうちふるえた。

「ベリル様!」

「誰がだ……」

 眉間にしわを寄せた。その男は高価な着物を着てそれらしい格好はしているが、顔立ちはどう見てもおっさんの域を出ない。

「祈りが通じたのだ! おおっ! なんと神々しい」

「誰が神々しいって……?」

 ベリルは呆れて顔を手で覆った。

「あ、あなたのために人類を一掃します。どうか私をあなたの下僕に!」

「一掃……?」

 その言葉に目を細め、ひざまずく男を冷たく見下ろした。

「誰がそんな事を望んだ」

「は……?」

「私はこの世に絶望もしていなければ人を憎んでもいない」

「そっ、そんな……」

 ベリルの怒りを含んだ声に、ミコはガクガクと体を震わせる。

「おっ、お願いです。私にも不死を……あなたの力を!」

 狂ったような笑みを見せてベリルにしがみつくミコに、顔を近づけ口の端をつり上げた。

「そんなモノを私が与えられるとでも? 不死など人には必要ない」

「そんなことを言わずに! 私に不死をっ」

「無理だと言っているだろう」

 そんな力などある訳が無い……溜息混じりに発したベリルを、男は呆然と見つめる。

「あなたのために貢ぎ物も用意してあります!」

「貢ぎ物……?」

 反応したベリルに、ミコは嬉しそうな声を上げる。

「そうです! 美しい貢ぎ物を……」

 その言葉でナユタを思い出す、そんな目的で彼女はさらわれた訳か。

「生憎そういうものにも興味がなくてね」

「まさかそんな……じゃあ、私は一体何をしていたんだ……」

 目を据わらせて応えたベリルを、呆然と見上げつぶやいた。

 ようやく自分のしてきた事が解ったかと腕を組んで見つめたベリルだが、宙に目を向けていたミコの目がふいに彼を捉える。

「……不死なんていりません。お願いです! あなたの下僕にっ」

「何を言っている……」

 思ってもみなかった言葉が返ってきて唖然とした。

「お願いです! あなたのお側にいさせてください」

 今更、自分が築き上げてきた感情を否定できず、ミコはベリルにすがりついた。

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