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*プレッシャー無し

 私のことを彼女が知ったのだろうか。私が神とは、ふざけた事だ。その教祖は私を神として一体、何をするつもりだったのだ。

 ナユタのメールと柳田の言葉から推測するならば『大量殺戮』だが、何故そうなる……ベリルは考えあぐねていた。

 ああ、でも……と思い返す。

 柳田という男の言葉では、私の事を吹き込んだのは奴でペスト菌をネットで買おうとしていたミコと呼ばれる教祖はどうやら馬鹿のようだから……ナユタはある程度、安心と思って良いという事か。

 そういう結論となり、なんとなくホッとする。

「!」

 そのとき、パンツのバックポケットの携帯が震えた。仕方ないなと小さく溜息を吐き、手錠をさらりと解錠して携帯に手をかける。

「およ……?」

 メールを読んで猿ぐつわを外した。

[水道施設が危ないかもしれない]

 別の問題が浮上したらしい、次から次へとよくもまあ起こしてくれるものだ。このまま柳田が向かう先に乗り込もうとしていたベリルは、少し思案した。

「!」

 すると、またメールが届く。

[あと、マシンガンを持った怪しい連中が、街を血の海にするつもりらしいのだけど、その前に捕まえられるかな?]

「ありゃ、こいつはまずいな」

 柳田ばかりに気を取られている場合では無いらしい。

 ベリルは暗闇の中、足のロープを解くとどこをどうやったのかトランクを開いた。

「なんだ!?」

 柳田は突然、鳴り響いたピーピーという警告音にバックミラーを見やるとトランクが開いているのが映って声を上げた。

「速いな。60kmくらいか」

 呑気に発して、飛び降りる姿勢を取る。おっと、その前にメール送信……

[水道施設の方は心配ないかもしれん。日本の浄水機能は素晴らしい。しかし浄水後の水に入れるなら少々心配だ。とりあえずマシンガンの方が今の処は危険なようだからそちらに向かおう]

 確認して送信ボタンをタップした。

 携帯を仕舞い、速度と位置を確認し唇をペロリとひと舐めすると脇の草むらに飛び込んだ。

「……っあいたたた」

 勢いよく転がって止まったあと、しばらく沈黙しゆっくりと起き上がる。草むらで良かったと溜息一つ、いくら死なないといっても痛いものは痛い。

 道路の方に目を向けると、柳田が車を止めて辺りを窺っていた。その様子を捉え、暗闇に紛れてその場をあとにする。

 ベリルは歩きながら思案した。

 どこでそれを使うのか見当がつかない。彼女と話し合えば何か掴めるかもしれんな……携帯を取り出す。

[わかった]

 というメールを読み[その場所だが、どこか見当はついているか?]返信する。

「……」

 送信して辺りを見回した。都心にそれほど離れていない場所らしい。いや、都心を横断する道だったのか?

 周りには街灯が無いため、道路の灯りだけが頼りだ。

 この時間に人を大量に殺害できる場所……殺害自体が目的ではないのかもしれない。注意を向けるだけが目的なら、人の多い場所という事になる。

「渋谷か、新宿……?」

 視線を宙に留め思案する。

「よし、新宿」

 適当に決めて歩みを進めた。ここで考えていても仕方がない、ひとまず行き先を決める。

 そしてふと気付いた。メールの内容が若干、以前と異なるように感じた。そういえば弟の件もあったなと思い出す。

「ナユタは1人ではないのか」

[1人ではないのか?]

[弟と一緒]

 返事はすぐに返ってきた。微笑んで安堵する、2人一緒にいるのなら安心だ。

「さて……」

 安心した処で道路に目を向ける。

 タクシーでもつかまえるか? 道路に出るのは柳田に見つかりかねないので危険といえば危険なのだが……とうの柳田は、かなり遠くの方で脇の草むらを必死に探している。

 ベリルを知っているなら、迂闊うかつに暗闇の中に足を踏み入れる事はしないだろう。それほどにベリルという人物は危険きわまりないのである。

 ピッキングは得意、格闘術にも近代兵器にも長けていておまけに料理もプロ並みだ。という余計な事はさておき、暗闇の中で彼と闘おうと思うバカはいないという事だ。

 慎重に足を進め柳田の視界から外れた頃、道路脇に立ってタクシーを探した。丁度タクシーが通りがかり、開いたドアに滑り込む。

「新宿にやってくれ」

「駅でいいですか?」

 それに応えてタクシーは動き出す。

[ひとまず新宿に向かう]

 落ち着くとメールを送信した。

[行動早!]

 相手も割と呑気な返しを……このせいで緊張感が無いのかもしれないと薄笑いを浮かべた。

「西口とか東口とか、指定はあります?」

「とりあえず東口」

 違和感のまるで無い日本語で応える。それに加えて、土地勘のある物言いにタクシーの運転手は少し安心したような表情を浮かべた。


 JR新宿駅──東口に到着し釣り銭をチップ代わりにタクシーを降りる。

「ふむ……」

 知らない街ではないが、たった1人を捜すのは少々、広いなと溜息交じりに考えておもむろに歩き出す。

「!」

 アルタ前にさしかかり、ベリルはふと1人の男に目が留まった。

 あれは……? 男の持っている、幅70cm程度のジュラルミンケースに目を細める。

 彼女はおそらくサブマシンガンの事を言ったのだろう、ベリルはそう推測していた。マシンガンを隠して持ち込むのは少々、難しいからだ。

 1mを越える全長を、銃器に慣れていない者が扱うのは困難である。

 何せ『ミコさま』の信者だし……訓練を積んだ者とは思えない。あの大きさならばサブマシンガンが入る。

「さしあたり、UZIウージーかな」

 拳銃弾を使うイスラエル製のサブマシンガンはシロウトでも比較的、扱いやすい。

 眺めていると、男は何やらキョロキョロと迷った様子で少し不安気味にうろついていた。偶然というべきか、男が迷っているおかげで出会えたといった処か……『武器を持っている』という特有の感情を表している顔つきに、ベリルは確信する。

 緊張で喉を枯らしているようだ、やたら肩で唾液を飲み込む動作をしている。ベリルは音もなく男の背後に忍び寄った。

「もしもし」

「! はっ、はい!?」

 飛び跳ねんばかりに驚いて振り返ると、見目麗しい金髪の外国人がいて男はドキリとした。

「あ、あの……?」

 怪訝な表情で見つめる男にニコリと微笑んだあと、目をぎらつかせる。

「そんなモノを使う場所ではない」

「!?」

「大人しく帰るが良い」

「……っ」

 どうして気付かれたのか解らなくて戸惑いと恐怖にオロオロしたが、意を決して腰の後ろに手を回した。

 刹那──

「わっ!? なに!?」

「えっ!?」

 ドシン! という凄い音を聞いた人々がそちらに視線を向けると、男が呻きながら地面に倒れ込んでいた。

「……っう」

 立ち上がろうとして痛みに声をあげた男の脇からサバイバルナイフが、カラン……と音を立てて転がった。

「うわっ!? 何こいつ!?」

「通り魔!?」

 一斉に注目を浴び、警察に電話する者や交番に走っていく者が入り乱れる。大騒ぎになった周囲に、男は軽いパニックを起こして強ばったままだ。

「大人しくしろ」

「うう……」

 痛みで動けない男は、駆けつけた警官にあっさりと捕まってしまった。

「えっ!? お前なに持ってるんだ!」

 警官は、投げ飛ばされた衝撃で開きかけているジュラルミンケースを開いて声をあげ、男に手錠をかけた。

 ベリルは、すごすごと連行される男を人混みの中で見つめる。むやみに表の世界とは関わりたくない。

 自分の容姿が多少、目立つ事くらいは自覚していた。仲間からしきりに言われ続けて認めた、という方が正しい。

「さて」

 ひと仕事終えて溜息を吐く。

 次は水道施設の方か……場所を頭の中で確認しながら足を向けた。タクシーをつかまえて、しばらく走らせる。

 そうして降りた場所は街頭も薄暗く、住宅街から離れた場所にある水道施設。

「ほう……太陽光パネルか」

 黒い高い鉄格子が長く続く敷地を平行して歩き、中を確認した。

 綺麗に並べられた黒い板が街頭の明かりを微かに照り返している。太陽光エネルギーで電力をある程度、供給しているようだ。

 そして建物の周りをぐるりと一周した。

「……」

 確認し終えたベリルは、ふとしゃがみ込む。

 誰かが侵入した形跡がある、ここで当たりか? 他よりもやや低めの鉄格子を見上げ、道路の端いっぱいまで遠ざかる。

 ふっ……と息を吐き鉄格子に向かって走り、すぐ手前でジャンプして鉄格子を掴み持ってきた勢いを利用し体を持ち上げ華麗に侵入成功した。

 姿勢を低くして気配を探る。

 ウイルスを送り込むとすれば浄水を終えた水道管に直接、送り込む他は無い。パイプに小さい穴でも開けるつもりなのだろうか?

 考えもって音を立てずに歩みを進めた。

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