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*さすがのドッキリ

 そんな風に言われている事を知ってか知らずか、ベリル本人は昔と変わらずに呑気に生きている。

 もとより、彼はまだ耐えられるかどうかの意識になるまでの年月は生きちゃいない。とはいえ、歳もとらず傭兵として戦い続けているというのは、やはりとんでもない事なのかもしれない。

 もし誰かが不死になったとする。その人間が終らない命に歓喜するのは一時的なもので、先の事を考えれば永遠に続く道に呆然と立ちつくすしかないだろう。

 人は「死」という安らぎが先にあってこそ、目標が定められる。終らない永劫の時間に「生き甲斐」を見つけるというのもおかしな話だ。

 限りがあるからこそ、永遠を信じられるのかもしれない。

「はあ……」

 ベリルは変に疲れたのか、溜息混じりの大きなあくびをしながら商店街を歩く。

 時は夕刻──あかね色の空が街を幻想的に映し出す。歩き続けて空き地が多く見受けられるようになった頃、相手が仕掛けてきた。

「お?」

 5人の男がベリルの前と後ろに挟み込むように立ちはだかり、彼にとっては少し嬉しい展開になる。

「何を調べている?」

 1人の男が警戒しながら問いかけた。

「さあてね」

 とぼけた声に男たちはカチンときたようだが、手を出す事に躊躇している。

 外国の人間にしては174cmと小柄なベリルよりもやや高い身長だが、彼の雰囲気に5人は圧倒されていた。

「来ないのかね?」

 不敵な笑みが浮かぶ。

「くそっ、やれ!」

 業を煮やした1人がそう叫び、男たちは一斉にベリルに飛びかかった。

 しかし、同時に飛びかかったように見えて実際は少しずつのラグがある。ベリルは一番先に自分に触れるであろう男に体勢を低くして近寄り、エメラルドの瞳を輝かせた。

「ぐえっ!?」

 殴りかかろうとしたその腕を掴み、受け身のとれない体勢で地面に叩きつける。

「!?」

 ドシン! と、ひとしきり地面に背中を打ち付けて息も出来ずにもだえている男を見て、他の4人はピタリを動きを止めた。

 瞬間──ベリルは、その中の1人に足払いをかました。倒れ込んだ男とは入れ替わりに立ち上がり、その腹にかかと落とし!

「ぎゃっ!?」

 えもいわれぬ苦しみの声が空に響いた。

「うっ、うわぁ!」

「ひぃっ」

 残りの男3人は仲間を残して一目散に逃げていった。

「あ」

 やはりあっけない。もう少し楽しませてくれてもいいだろうに……あまりの手応えの無さにベリルは肩を落とした。

「うっ!?」

 ベリルが振り返ると、まだ地面にはいつくばっていた男が体全体で後ずさりした。

「聞きたい事は解るよな」

 しゃがみ込み、視線を合わせて意地悪く問いかける。

「ナユタという……」

「拳銃!」

 言い終わらないうちに男は声を荒げて発した。

「ミコ様が大量の拳銃で何かしようとしているんです……っ止めてください!」

「どういう事だね」

 眉をひそめて小太りの男を見つめる。

「じっ、実は……」

 少し落ち着きを取り戻した男は、まだままならない呼吸で語り始めた。

「ミコ様が近頃おかしいんです。俺、最近ついていけなくて……今日も、あんたを痛めつけて来いって言われて。ここに来る前に、凄い数の拳銃を見つけたんだよ」

「おっ俺も……見た」

 男の話に目を細め怪訝な表情を浮かべていると、倒れていたもう1人の男も応えた。

「置かれている場所は解るか」

 すがるような眼差しを向けられ、小さく溜息を吐き出して立ち上がる。

「ここから遠くないよ!」

「教団の支部にあるんだ」

 男たちは口を揃えて嬉しそうに発した。

 それから、彼らの知っている事をひと通り聞いて解放する。

「銃ねぇ……」

 走り去る後ろ姿を見つめながら苦笑いを浮かべて思案した。

 聞いた場所は確かに遠くはない。しかし、いささか彼らの口調は芝居めいていたが気のせいかもしれない。

 自分たちを叩き伏せた相手に恐怖心を抱き、そういう口調になったのかもしれない。

「行ってみるか」

 ここで考えても仕方がない、ベリルは暗くなった道を駅からさらに遠ざかっていった。進むにつれて街灯が数を減らし、猫の鳴き声が夜に神妙な雰囲気を添える。

「うーむ……」

 おもむろに立ち止まり少し思案した。

 夜の闇にまぎれて行動するのは慣れているが、どうもこれでは物足りない。相手がやけにシロウト丸出しで折角、日本くんだりまで足を運んだというのにこれでは……

 助けを求めてきた相手を真剣に助けるつもりではいるが、それ以外では楽しみたいものだ。

 ベリルの悪い癖が顔を出す──彼は、相手を翻弄し困らせる事を楽しむという悪いクセがあった。

 それで何度、彼に泣かされた仲間がいる事やら……である。

「早く終らせるのも良いか」

 しれっと言い放ち、また歩き出し歩きながらメールを打つ。

[銃は私がなんとかしてみよう。そっちはどうなっている?]

 しばらくしても返事がない、少々心配だがどうしようもない。

 こちらに注意を引きつけるというテも有りだな、と暗闇に光る窓の建物を立ち止まって見上げた。

「まだ早いかな」

 腕時計に目を移すと、時刻は7時少し前といった処だ。

「どこかで時間を潰して……」

 周りを見回すものの、住宅街に時間を潰すものなどあるはずもなく、小さく溜息を漏らすとあてもなく歩き始めた。

 しばらく歩いたとき、携帯が震えた。彼は基本的、常にマナーモードだ。

[その名前本名?]

「?」

[本名だが、それがどうした]

  変な事を訊くと思ったが、素直に返すとメールはすぐに返ってきた。

[フルネームは?]

「??」

 おかしな事を訊く子だ。

[ベリル・レジデントだ]

 自分の名前を打つのは妙な感覚である。疑問に思いながらも送信ボタンをタップした。それからしばらくメールは無かったが、どうして名前を聞いたのか解らない。

 ──しばらく歩いて真っ暗な河川敷にたどり着いた。

 腰を落とし、流れる水の音に目を閉じる。幅およそ20mの川は、緩やかに流れる水音を響かせ心を落ち着かせる。

 しかし暇だ、駅に戻って時間を潰すか? 静けさが嫌いという訳ではないが、いかんせん暇だ。

「!」

 その時、再びメールの振動。

[あなたは普通の、人間ではないの?]

「!」

 ぎくりとした。

 何故、知っている……?

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