*エピローグ
「ただいまぁ~……」
ナユタは力なく自宅の扉を開くと、目の前に母が立っていて少し驚いた。
「おかえりなさい」
「う、うん……」
怒っている訳でもなさそうな表情に、戸惑いながら靴を脱いでリビングに向かう。
「で、どうだったの?」
「えっ!?」
何を訊くんだこの母は!? 突然の問いかけに、思わず声が裏返ってしまった。
「高級ホテルだったんでしょう? いいわねぇ~」
「え? ああ、うん」
なんで知ってるの……!? って思ったけど違うな、アユタが適当に付けた理由が偶然ピッタリだったんだ。
「お料理とかよばれたんでしょう?」
「うん、美味しかったよ」
「やっぱりベッドは高級羽毛?」
「フカフカだった」
「お母さんも一度、泊まってみたいわぁ……」
と溜息を吐いてキッチンに向かう背中に、ナユタはホッと胸をなで下ろす。
弟はどんな伝え方をしたんだ? って初めはびっくりしたけど、上手く騙してくれて助かった。
「ところでナユタ」
「なに?」
飲み物を取ろうと冷蔵庫の扉に手をかける。
「ベリルさんとはどうだったの?」
「!?」
炭酸飲料のペットボトルに口を付けていたナユタは、軽く吹き出した。
「……え」
少ししか含んでいなかったため大事には至らなかったが、手の甲で口を拭いながら母を見やる。
すると、母の表情は今までにない真剣なものだった。
「あなたはもう大人だから、ぐだぐだ言わないけど。後悔するようなことだけはしちゃだめよ」
「……うん」
力なく応えた娘に少しだけ睨みを利かせたあと、いつもの明るい母に戻り嬉しそうに発した。
「それでねぇ~、ベリルさんまた来るかしら?」
「え?」
たぶん、もう来ないよ……と口の中でつぶやくと、母が続けて付け加える。
「これ、お返ししなきゃ」
「!?」
パタパタとリビングのクローゼットから取り出したものに、ナユタは声を上げそうになった。
広げられてはいないが、手の上に折りたたまれたものが何なのかはすぐに解った。
「お母さんが預かっておこうかしら」
とちらりと娘を一瞥する。
「……あたしが! あたしが、預かっとく」
半ば奪うようにして手の上の下着を掴んだ。
「……」
なんで女2人が男性の下着を奪い合わなくちゃなんないのよ! 手の中の布を見つめ、急ぐように自分の部屋に駆け上がる。
ドアを閉めると、タンスの引き出しに押し込めようとしてパタ……と手を止めた。
「ベリルの……。ハッ!? あたしってば、なに考えてるのよ!」
ギュッと押し込むように仕舞い、引き出しを閉じる。
「あ、そか……これを口実にまた会えるかも?」
携帯を手にして思案した。
メールにするべきか、電話をかけるべきか──
「!」
滞在しているホテルに戻ったベリルは、バックポケットから振動している携帯を取り出す。
<下着、預かってるよ>
「……」
その文字に眉をひそめた。
END
*最後までお付き合いくださり、ありがとうございます。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
なお「野いちご」では、冬芽さまとのコラボ作品です。
是非、ナユタ視点の冬芽さまの作品もご覧下さい。
http://no-ichigo.jp/read/book/book_id/377029
※作中に登場する那由多、阿由多、母、ミコ、柳田の5人は冬芽さまのキャラクターです。これらのキャラクターは冬芽さまの著作権下にあります。





