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交点の烈~戦士の休息~  作者: 河野 る宇
◆第16章~その言葉は言わないで
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*弟の提案

 ナユタは初めて見る彼の表情に、なんだか不安になった。とても複雑な瞳で、どことなく視線は泳いでいる。

「1日だけってだめ?」

「本人よりも積極的だ」

「!」

 アユタってば……ナユタは顔が赤くなった。

 弟は縮こまっている姉を見て、ベリルをキリリと見上げる。

「ずっと携帯を替えないで、ずーっと待ってたんだ。そんなの見てたら、オレが何か言うしかないだろ」

 少し苦い顔でプイとそっぽを向いた。

「あ、あたしは……別にいい……から」

「! 姉ちゃん! ちゃんと言わないとだめだよ! また待つつもり? もう会えるかどうかわかんないんだよ」

「!?」

 その言葉にナユタは体を震わせて目を潤ませる。

「母さんたちにはオレから言っとくから」

 とアユタは姉の背中をグイと押してベリルの前に立たせた。

「それじゃよろしく!」

「えっ!? ちょっ……アユタっ?」

 全力疾走で去っていく弟の後ろ姿に驚いて求めるように手を伸ばすが、ものの数秒で少年は消えてしまった。

「……ごめんなさい」

 ベリルに向き直り、視線を合わせず発する。

「13時か」

「! あ、うん」

「腹は減ったか」

「え……」

 呆けているナユタに、あごで「ついてこい」と示す。どこに行くのかさっぱり解らないけれど、ナユタは素直に後ろをついていった。

 なんだか気まずくて戸惑いながら背中を追いかけていると、立ち止まってくれている。

 待たせちゃ悪いと足早に駆け寄り、次はどこに行くのかやや見上げていたとき、肩を抱かれて叫びそうになった。

 ベリルは走ってくるタクシーに軽く手を挙げ、止まった車に促される。

「インペリアルホテルに頼む」

 タクシードライバーはそれを聞いてドアを閉めた。

 インペリアルホテルって、確か高級ホテルじゃ……ナユタは呆然と彼の横顔を見つめる。


 数十分ほど走ったタクシーがおもむろに止まった場所は、ホテルのロータリーのようだ。車から降りたナユタは、その玄関を視界に捉えて立ちつくす。

「どうした」

「だ、だって……」

 なんだかあわあわしてしまう。ガラス越しに見えるエントランスがすでに凄いんだもの……と戸惑う彼女の背中に手を添えて中に促した。

「あ、あのっ。ドレスコードとかは」

「心配ない」

 し、心配ないって……なんで?

 訳の解らない彼女は、促されるままにレストランに向かう。お店は、ホテルからとは別にもう一つ入り口があるらしく、ホテル客以外でも利用しやすくしていますという計らいなんだろう。

「いらっしゃいませ」

「壁際で良い」

「かしこまりました」

「ほえっ!?」

 丁寧なウエイターが、これまた丁寧にラフな恰好をしている2人を案内する。まったくの違和感もなく自然に案内されて、ナユタは驚かずにはいられなかった。

 落ち着いた雰囲気に、高級品だと窺わせる装飾品の数々にナユタは目が回りそうだ。どの席も高級革のソファで、座ると沈み込んでスゴイ落ち着く。

 この雰囲気は落ち着かないけど──ナユタは目をキョロキョロとさせていた。

「好きなものを頼むと良い」

「す、好きなもの?」

 ウエイターからメニューを渡されて中身を見るが、書いてあるモノが高級でよく解らない。

「フォ、フォアグラ? キャビア?」

「ククッ……」

 右往左往しているナユタを見たベリルは、喉の奥から絞り出したように笑う。これ以上はさすがにかわいそうかなと、軽く手を挙げウエイターを呼んだ。

「ミックスサンドとコーヒーを2セット」

「かしこまりました」

 ウエイターがナユタの持っているメニューを受け取ろうと手を差し出され慌てて手渡し、呆然とベリルを見つめた。

「軽い食事も出来るようになっている」

「そ、そうなんだ」

 流れるクラシックは心地よく、向かいに腰掛けているベリルと店内の装飾とが見事にマッチしていてナユタから溜息が漏れた。

 しばらくして料理が運ばれてくる。

 ミックスサンドとグリーンサラダ、そしてブレンドコーヒーが絶妙な配置でテーブルに乗せられた。

 思っていたよりも豪華なサンドウィッチに、ナユタは顔がほころんだ。一つ、手にとって口に運ぶ。

 品の良い塩加減にコショウのピリリとした感覚が舌をほどよく刺激して、これを作った人にお礼を言いたくなるくらい美味しい。

「……」

 何を食べてもサマになってる……とベリルの方に時折、視線を向けながら平らげた。

 そうして満足した頃──

「!」

 目の前にティラミスが置かれ驚いてウエイターを見つめると、40代ほどの男性はニコリと微笑んで口を開く。

「ベリル様のお連れの方にサービスです」

「え……」

 ベリルに目を向けると、柔らかな笑顔でカップを掲げた。

「ありがとう」

 ウエイターにそう言ってティラミスを味わう。

「行きたい処があれば言うと良い」

「! 連れてってくれるの?」

 問いかけに彼は無言で頷いた。

 行きたいところって、どこだろう。どこがいいかな……ナユタは嬉しくて色んな場所を考える。

 しかし──

「いい……」

「! そうか」

「ベリルと2人でいたい」

 だって、もう色んなところには行ったもの……電車に乗って公園に行った。いくつも公園回ったもの。

「いいだろう」

 そう言って立ち上がり、ナユタについてくるようにあごで示した。

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