*熱が冷めたら
「今日こそは逃がさないぜ」
青年はそう言って、持ち手にあるスイッチをカチリとONにした。
「!? があっ」
「ベリル!?」
バチッ! という電気が弾けるような音がしてベリルが片膝をつく。
「電流……?」
駆け寄ったナユタが彼の体に触れたとき指が痺れて目を丸くした。
「お嬢ちゃん、そいつから離れな。気絶しちまうぞ」
勝ち誇ったように鼻を鳴らす男をナユタは、キッと睨み付けた。
「あなた! 名前はっ」
「え? 橘 章だけど」
いきなり訊ねられて思わず応える。
「なんでこんなことするの?」
「へ?」
章はナユタが何を怒っているのか解らないらしく、太めの眉をひそめた。
「っよせ……」
制止するベリルの声は、痺れのために震えている。
「ベリルは苦しんでるのに!」
「お嬢ちゃん、そいつは死なないんだ。人間じゃないんだよ」
「死なないから人間じゃないなんて誰が決めたの!?」
ナユタは訴えるように必死に声を絞り出した。
怯えながらも自分を守ろうとする彼女を見上げ、口の中で舌打ちしたあと目を細める。そして、右手の指をクイと動かした。すると、右腕に装着されていた物体から金属音と共にナイフがスライドする。
「うっ!?」
電気ムチがナイフで断ち切られ、章はよろめいた。
「なんだそりゃ?」
立ち上がったベリルの右腕にある物体に怪訝な表情を浮かべる。
「さてね」
ベリルは口の端を吊り上げ右腕を章に向けた。
「ちょっ……待て、なんだよそれ」
章の戸惑いをよそに、ベリルは右の二の腕に手を添える。
クイと銃の引鉄を引くように指を動かすと、曲がりくねった閃光が男に向かって走っていった。
「ギャッ!?」
閃光は一瞬で消え、章は地面につっぷした。
「すげー!」
少年は目を輝かせて右腕を見つめる。
「む、ショートした」
試作品を見やり、言葉を続けた。
「反動というよりもダメージがある。これでは使えん。他の機能も今の影響で作動しなくなっている」
報告するための言葉を淡々と発し、確認し終えて章を見やる。
「これ以上は容赦はしない」
無表情に応える瞳に、男は恐怖を覚えたのかブルッと身震いした。
「どうするね」
瞳を細めて問いかけると、章はムチをそそくさとまとめて背中を丸め去っていく。それを見送り小さく溜息を漏らして、右腕の武器に視線を移す。
「かなり改善の必要がありそうだ。当分、実用化は見込めんな」
発して試作品を外すと、その部分が焼けただれていた。
「……っ」
それで時々、苦しそうな声だったんだ……ナユタは思わず手で口を覆う。
「大丈夫?」
さすがのアユタも心配そうに見つめた。
「問題ない」
ベリルはバックポケットに納められていたバンダナを取り出し、焼けただれている腕に巻き付ける。
そして試作品を再び分解しバッグに仕舞うと、巻いていたバンダナを外した。
それに2人は、アッ!? と驚いて腕を凝視した。
「もう治ってる……」
「すげぇ~」
「治癒の間はあまり見られたものではない」
そう言って苦笑いを浮かべ、バンダナを折りたたみバックポケットに戻す。アユタは、落ち着いたように小さく溜息を吐いたベリルを見上げた。
「宝箱取ったから帰るの?」
「! アユタ」
「どういう意味だ」
ふいにかけられた少年の言葉に眉をひそめる。
「姉ちゃんの気持ちなんてどうでもいいんだろ?」
「アユタ! やめて……」
表情の無いベリルに、アユタは負けじと口をへの字にして視線を外さなかった。そんな少年に目を細め、ナユタを見やる。
「姉思いなのだな」
「え……あ……」





