*イレギュラー
ほどなくして、彼の様子に2人は小首をかしげる。
辺りを見回したあと確認して再び歩き出すという事を何度か繰り返していた。目的地は近くなのだろうか?
「あ、こっちに公園あったね」
「! そういえば……あった」
ちょっと奥まった所にある、人気の無い公園が確かにあった。土地勘があるとは思えない彼が、そこを目指していると思うと驚くほかはない。
住宅街は同じような家が建ち並んでいて、さしものご近所ダンジョンと化している事が多い。彼にとっては、日本という特殊な環境において、さらに難関であるはずだ。
そんな彼らの視界に、こぢんまりとした公園が目に映る。
公園内に足を踏み入れ、ベリルはナユタたちをベンチに促した。
「……」
キレイなだけじゃなくて、きめ細やかな気遣いにナユタは彼と離れるのをさらに惜しんだ。
接すれば接するほどに惹かれていく──こっちは、こんなに心を痛めているというのに……と身勝手な怒りも湧いてくるというものだ。
「ベリル」
「!」
そうこうしているうちに、彼を呼ぶ青年が現れた。
「これで最後ね。ホントごめん」
Tシャツにチノパンという茶髪の青年が明るく応える。
「回収出来たのだ良しとしよう」
「そう言ってくれると有り難いよ。それ狙ってる奴らはこっちで何とかしとくから。んじゃ」
登場と同じように青年は明るく去っていった。
「ずっと不思議に思ってたけど……あの人たちは?」
ナユタは、青年の後ろ姿を見送るベリルを見やる。
「広報課の人間だ」
発して、受け取った紙袋からパーツを取り出しバッグからも試作品を手にしてベンチに腰掛け、つなげていく。
まるで、SF映画にあるような小さな突起が今回のパーツにはいくつか出ていた。
それをカチリとはめ込み、さらにいじるとあちこちが開いたり閉じたりと、関節のように数カ所が折れ曲がる。
「面白い~」
アユタは、隣に座って楽しそうにそれを眺めていた。そんな少年をベリルは一瞥し右腕に装着する。
「グローブみたいになってるのはセンサーが入ってるのかな? 腕の部分に接してるのは筋肉の動きをトレースするもの?」
ナユタにはさっぱり解らない事を、弟は淡々と口にしていった。
その時──
「!」
何かが飛んでくる音が聞こえ、ベリルは反射的に頭部を守るように左腕を顔の横に上げた。
すると、その腕にムチのようなものが絡みつく。
「!?」
それを見てナユタたちはようやく驚き、彼の腕に絡みついているものの先を辿った。
「お前か」
「そうだ俺だ」
呆れて発するベリルに、男は嬉しそうに応えてムチに似た武器を外されないようにテンションを維持し続けている。
背中までのブラウンの髪を後ろで一つに束ね、カーゴパンツにプリントTシャツと、ファッション性の高いタクティカルベストを合わせた恰好をしていた。
「だ、だれ?」
ナユタは守るように弟を抱き寄せて、ベリルの後ろに移動する。
「ハンターだ。私を追う仕事らしい」
「そうさ。俺はキサマ専用のハンターだ」
「それにしては一度も捕まっておらんがな」
「ぐっ……うるせぇ!」
どうやら日本人だと思われる青年は、黒い瞳をギョロつかせ声を張り上げた。
「私を捕えた処で不死など得られはしないというのに」
溜息交じりに発すると、その男は笑顔で左手人差し指を立てて軽く振った。
「チチチ、不死だけがあんたの魅力じゃないだろ。依頼者には色んな理由があるの」
「なんだそれは」
当惑するベリルをよそに、後ろにいる2人は「そうかも」と思った。
あたしなら、ずっと傍にいて欲しいから誰かに頼んででも捕まえてもらうかも──とナユタは思い。
きっと戦闘センスとか技術とかをデータ化して、悪の組織が雑魚に覚えさせるんだ──とアユタは考えていた。
ベリルは、未だ腕に巻き付いているムチのようなものに引っ張られるようにしてベンチから立ち上がる。
「あんたを捕まえようと思う奴は随分と減ったからねぇ。だから、俺のように専属のハンターは重宝されるのさ」
その言葉にアユタは首をかしげ、ベリルの背中を見つめた。
「どしたの?」
弟の不思議そうな表情に問いかける。
「うん、ずっと追いかけられてるのにベリルは殺さないんだ……って」
「あ……」
言われてみれば本当だ、どうしてなんだろう? ずっと追いかけられて鬱陶しいと思うのに、どうして?
「ベリルにとっては、あいつでも一般市民なのかなぁ」
「一般市民……」
FPSでは一般市民を撃つと減点されたりペナルティがあったりするモノがある、アユタらしい思考だ。
そうか……ベリルにとっては殺すような人じゃないんだ。例え、自分が狙われていたって殺すほどの人じゃない。
でも、それじゃあ優しすぎるよ……だからみんな、あなたの優しさにつけあがって、調子に乗って……。
この人だって、ベリルが殺さないって解ってるからこんなにも軽く捕まえようとしてるんだ。
追いかけられて捕まえられるっていうコトの辛さとか恐ろしさとか、ちっとも解っちゃいないんだ。
ああ、なんだか腹が立つ。ムカムカするよ──それでも、自分にはどうすることも出来ないもどかしさにナユタは涙をこらえた。





