*寂しさの午前
朝食を済ませたあと、しばらくアユタのゲームに付き合わされ、1時間後ようやく出かける事になった。
「行ってきま~す」
「ご迷惑おかけしないようにね」
「行ってきます」
「お世話になりました」
丁寧に会釈するベリルに惚れ直したように、母の顔がほころぶ。
アユタから借りたカジュアルバッグをたすき掛けにしている姿もさまになっていた。別れの挨拶を済ませ、外に出る。
警護してくれている男性2人を見つけて、ナユタはベリルを見上げた。
「あの、あの人たちは……」
「事が解決するまで母親の警護を任せてある」
ナユタはそれを聞いて、ホッと胸をなで下ろした。さすがに明るくなってきたため人通りも多くなり、目立たないように警護するのだとか。
彼の持つ試作品を狙っている輩が、母親にまで手を伸ばすとは考えにくいけれど、念のために警護を雇ってくれたのだそうだ。
優しいな……と、ナユタは彼の背中を見つめた。
「今日はどこに行くの?」
呑気にアユタが問いかける。そんな2人を視界全体で捉え、今日が永遠に終わらない事を願った。
「ぜんぶ回収したらいなくなっちゃうんだ」
ナユタは口の中でつぶやいた。
もっといっぱいお話しして、もっとたくさん色んな所に連れていってほしいな……あなたは何者? 何が好きで何が嫌い? 好きな音楽は?
──そんな、とりとめもない時間を過ごしたい。
「姉ちゃん!」
呼ばれてハッとする。
「何してんの? 早くおいでよ」
気がつけば1人遅れていたらしく、アユタが大きく手招きしていた。
「あっ、ごめん」
なんとなくベリルと目を合わせられなくて、彼の視線を逸らしてしまう。
「……」
ベリルは、その心の揺らぎに目を細めた。
今まで何度となく向けられた感情──恋愛という感情が欠如しているベリルにとって、向けられる恋心は少なからず彼の胸に痛みを与えていた。
その揺るぎない事実を述べても彼女たちは笑って、
「構わない」とささやく……その度に、彼は瞳に憂いを湛えて語るのだ。
『死なない相手を好きになるのは不幸だよ』
それでも諦めきれず、一夜限りのつながりを求める女性も少なくはない。
元々、子どもの作れない体だ。それについては何一つ心配する要素は無いが、彼は求める女性の事を考えて何度も聞き返す。
一夜限りの出来事が、全てのちに良い思い出になるという確証は無いのだから。
大切にしたい思い出として肌の触れあいを求められても、それが良いものかどうか彼には解らない。
その温もりに安心する感覚は理解出来たとしても恋愛と結びつけるには、いささか無理があるとも感じていた。
永遠を生きる彼にとって、その記憶も永遠だ。
死すべき運命の人の子よ──そう詠った詩人がいた。
回る輪廻はいかほどか……?
──それは誰にも解らない。





