*喜ばしい出来事
「何故そうなる。──うむ。いつだ」
「どうしたんだろうね」
ナユタは弟に小声で問いかける。
「さあ~」
しばらくして電話を切った彼の表情は苦い、一体どうしたというのだろうか。
「あの……どうしたんですか?」
「今日中に終わりそうにない」
「だったらうちに泊まりで決まりだね」
ナユタとベリルは、しれっと発した少年を無言で見下ろした。
「だって、オレたちを守らないとだろ」
「両親まで守れというのか」
3人の間を長い沈黙が取り巻いた──
「!」
ポケットに入れてある携帯が震えて着信を伝えている事に気がつき、ナユタはそれを取り出した。
画面を見ると母親からだ。
「え? なに? お父さん泊り?」
通話を切って2人を交互に見やる。
「母さんなんて?」
「お父さん泊り。それと買いもの頼まれた」
「……」
ベリルは、2人の視線に眉をひそめる。どのみち、親にどう説得してこの2人を自分の元に置けばいいのか悩んではいた。
いくら、いち夜とはいえ相手は子どもと女性だ……そう簡単に親が「良し」と言うハズがない。
「はぁ~……」
ベリルは頭を抱え深い溜息を吐いた。
「あらあら! まあまあ!」
「……どうも」
若干、ふてくされ気味の青年をその女性は嬉しそうな顔で見つめた。
「あの時はありがとうねぇ。あなたが助けてくれたんですって?」
「いえ……大した事はしていません」
キラキラした瞳で見つめてくる、50代だと見受けられる女性からの視線を微妙に外して応える。
ナユタたちの母親からはそれが謙虚な青年に映ったのか、さらに笑顔になった。
「上がってよ」
アユタが口の端を吊り上げてベリルを中に促す。楽しんでいる事が見て取れて、彼は少年に睨みを利かせた。
「夕飯まだでしょう? こっちよ」
「ありがとうございます」
一般的な日本家屋に、一般的なダイニングキッチン。そして一般的な日本のダイニングテーブル。
ナユタよりも嬉しそうな母が彼を上座の席に座らせた。
「……」
ベリルは当然、日本の文化をよく知っている。
ここに腰掛けていいのだろうか? という表情で目の前の料理を見つめていた。
それを見る二人は苦笑いを浮かべる。確かに、その席はいつもは父が座っているのだ。母の浮かれっぷりがよく解る。
御飯茶碗によそう量が、ベリルの分だけ多めに見える。
「おかまいなく」
「若者は食べなきゃだめよ」
その言葉にアユタが「プッ」と吹いて、ナユタが足を蹴り飛ばした。
ナユタが電話で事前に彼の泊まりを訊ねていたせいか、夕飯の中身がすさまじく豪華な気がした。
普段、こんな組み合わせは絶対に無いと思われるような料理の数々だ──ハンバーグにエビフライ、ポテトサラダとビーフコロッケ。
テーブルの真ん中ではエビチリが背中を丸めて自己主張していた。





