*思い起こせば
アユタの好奇心は、ベリルの全てに向けられている──リアルで見る初めての傭兵に、興味は尽きないのだろう。
もっとも、傭兵の中でも彼は特別な存在ではあるのだが、彼を基準には決して考えてはならない。
ナユタは、ベリルが目の前にいるというだけで今は幸せだった。
救いの手が欲しくてめちゃくちゃに送ったメールに偶然つながった事で彼の存在を知り、見えないながらも姿を知った事で救い主というだけでなく異性に向ける感情を抱いてしまった。
何も応えない携帯を哀しく見つめる日々を過ごし数ヶ月が経ったいま──ようやく出会えて、本当に存在していた事がはっきり確認出来た。
考えただけで涙が出そうだ。
「あ」
そうだった、忘れてた……と、ナユタは思い出しベリルの前に立つとペコリと腰を折る。
「?」
「この前は助けてくれてありがとうございます」
「! ああ……」
「会ったらちゃんとお礼を言おうと思ってたの」
「そうか」
随分と律儀なものだ、こちらは半ば楽しんでいたので礼を言われる事もないのだが……と思いつつ携帯を手に──した途端、アユタがさらりと彼の手から携帯を奪い取った。
「どういうつもりだ」
「番号教えてよ」
「アユタ!? 返しなさい」
姉の声も意に介さず、アユタは携帯をいじる。
「あれ?」
「私以外には扱えないよ」
首をかしげている少年の背後から、呆れた溜息を漏らしつつ携帯を取り返した。そして、何もなかったように電話をかけ始める。
「もうっ! ばかアユタ!」
「なんだよ、姉ちゃんのためにやったのに」
「! あたしのため?」
「番号知りたくないの?」
「そりゃ……知りたいけど」
「でもだめだ。あの携帯オレじゃ無理っぽい」
「どうして?」
アユタは彼女に向き直り肩をすくめた。
「暗号化されてて何がなんだか解らなかった」
「へえ……」
「初めにパスワード設定してなかったからいけるって思ったんだけどなぁ~、中がさっぱりだったよ。パスの代わりとかじゃないみたいだけど」
パスワードを設定してない理由も他にあるんだろうな~……という弟のつぶやきに、ナユタはベリルを見やった。
ベリルは、次のランデヴーポイントを確認するために電話をかけたが、ナユタの言葉であの時の事を思い起こしていた。
日本からのメールに半信半疑だったものの、助けを求める内容を頭から否定する事は彼には出来なかったのだ。
そして、日本に来てみれば──それは彼にはまったく関係のない事でもなく、ナユタが捕まっていたカルト教団の教祖はベリルの事を知って彼を神格化していた。
全てはベリルのために大量殺戮まで計画していた。
穿った考えで信仰し、ナユタを捧げものとして誘拐した事をベリルが許容するハズもなく、教祖はいま、殺人教唆の罪で刑に服している。
そこそこの緊張感と日本という国において緊迫感はあまりなく、彼にとってはそれなりに楽しめた出来事でもあった。
もちろん、罪のない人々を殺すなどという事は断じて許す訳にはいかない。
そう考えると、今も良い感じに楽しめている気がしないでもなかった。皆、私の持っている試作品に狙いを定めている。相手は麻薬組織でも、日本以外の組織でもない。
これは……大いに楽しめるチャンスか?
「!」
そう考えたとき、相手が電話に出た。
「──何?」
ベリルの顔が少し険しくなる。
「?」
何か問題でも起きたのだろうか? 2人はその様子をしばらく眺めていた。





