*その想い
「あ……っそこ……」
艶を帯びた女性の声がリビングに響く。
「いたたた! ちょっと亜由他! もっと優しく押してよ」
絨毯につっぷしている少女が、背中を指で押している少年に文句をたれた。
「なんだよ、うるさいなぁ。マッサージしてやってるんだから文句言わないでよね」
整った顔立ちの2人は10歳離れた姉弟だ。
姉の那由他は高校を卒業したばかりで現在は就職活動の最中である。
弟のアユタは小学校でも女子から人気の高い優等生。涼しい目がこれからの成長を期待させる。
この姉弟は近所でも評判の2人だ。将来はモデルになるのかと思われるほど、2人の容姿は整っていた。
そんな評価とは裏腹に、アユタはゲーム好きが講じてすでにマニア並でありついでに言えば空手も出来る。
才色兼備とはよく言ったもので、姉のナユタはすでに弟には敵わない。
ナユタも芸能界などにまるで興味もなく日々、就職活動に汗を流していた。
「大学に行けば良かったのに」
「勉強はもう嫌なの」
発したナユタに眉をひそめる。
本当は忘れたくても忘れられない人がいて、必死に忘れようとしてるくせに……アユタはチラリとリビングテーブルに置いてあるナユタの携帯を一瞥した。
来ない電話を待ち、来ないメールをひたすらに待ってる。
変な教団にさらわれて、誰かに助けてほしくて無茶苦茶に打ったアドレスが偶然つながった相手……いま、ここにこうして無事でいるのはその人のおかげなのだ。
「相手は軍人かなんかだよ、会ってくれるワケ無いじゃん」
「うるさいな……」
アユタの言葉に解っていても、どうしても忘れられない。
<私とのやりとりは消せ>
最後の声に涙が出た。そう言われてもメールは消せなかった。
あれから何度メールしても返事は来ない……電話したくても、彼からの最初で最後の電話は非通知だったから番号すら解らない。
優しさからなのだろうか、メール拒否まではしないでくれている。
それが返ってナユタの気持ちを引きずっているのかもしれないが、拒否されたら立ち直れない。
ナユタの心の中では、いつまでも鮮明に彼の声と姿が映し出されていた。
「本当に不老不死なのかな……」
未だに信じられないけれど、その人は死なない人だと知った。
ミリタリー雑誌の端っこに映っていたのを偶然に見つけて、それは何十年も前の雑誌だった。
すごく綺麗な人で、艶のある良い声をしていて──
「はあ……」
少女はへたり込んで肩を落とす。
時々こうして物思いにふける姉の姿に、アユタも少し苦い表情を浮かべた。
いつも殴り合いの喧嘩をするほどにスキンシップの激しい姉弟が故に、相手の感情の変化はすぐに解るのだ。





