*花火
「きさま! うっ!?」
生田が我に返り銃を向けるが、ベリルは男よりも早く引鉄を引いて男の銃を弾いた。
銃を構えて見つめるベリルの瞳にゾクリとし、生田は押し黙る。抵抗する気力を失ったと感じたベリルは、ゆっくりと事務所内に足を踏み入れた。
「面白い計画を練っていたようだな」
「な……何の事だ」
柳田が目を合わせずに答えた。
「とぼけても無駄だと解っているだろうに」
「ひっ!?」
薄笑いを浮かべながら、ぴくりと動いた生田に目線を合わせずその足下に一発お見舞いした。
足をガクガクと震わせる生田を一瞥して数歩、足を進める。
「計画は崩れた。後は警察で話せ」
発して笑みを浮かべると、入ってきたドアから出て行った。
「……警察?」
一同は、ホ~……っと安堵の表情を浮かべるが、柳田は彼の言葉を思い返して眉をひそめる。
途端──ドカン! という大きな音が事務所を震わせた。
「なんだっ!?」
慌てて出ると水色のタンクから勢いよく水が流れ出しているではないか。
「まさか爆弾を?」
柳田がつぶやいた直後、爆音が次々と辺りにこだまし始めた。
「……終わりだ」
煙を上げる工場を視界全体で捉え、柳田は両膝をついてへたり込んだ。
ベリルの話を生田にしたとき、彼は喜んで「捕まえろ」と言ったが不安は拭いきれなかった。
こんな事になるかもしれないという予感は見事に的中した。
「悪いことはするもんじゃないなぁ……」
柳田は半笑いで未だ爆発する工場を眺める。
「ふむ、こんなものか」
ベリルはある程度、満足したようで唇の端に笑みを含ませ工場をあとにした。
爆音とサイレンから遠ざかり、携帯を手にしてメールを確認する。
[お願いです。これからも色々と助けてください]
[もうメールはしない]
携帯を仕舞って歩き出し、タクシーを止めて電話をかける。
「すまんが場所を確かめてくれんか」
電話の相手は『探し屋』と呼ばれる人間だ。大抵の人間の居場所なら、すぐに探し当てる専門家である。
電話を切ってしばらくすると、再び探し屋から返しの電話がかかってきた。
「──そうか、すまんな」
礼を言って携帯を仕舞い、運転手に場所を告げる。
数十分後──都心に近い場所でタクシーが止まる。ベリルは料金をカードで払い、車から降りると辺りを窺った。
「……」
大きな道路を挟んだ向こう側で、背中を向けている人影を見つめて携帯を取り出す。
<……はい?>
いぶかしげな女性の声が携帯のマイクから響き、目を細めた。
「もう君に私は必要ない」
<えっ!?>
「私とのやりとりは全て消せ」
<ベリルさん!? そうなんでしょっ?>
「解ったな」
<待って! どこにいるの?>
応えずに通話を切ったその瞬間──ナユタが振り返る。驚く彼女にニヤリと笑い、その場を去った。
それから数日はナユタからのメールがあったが、ベリルはそれに一切返さなかった。彼女の生活を考えれば、自分と関わる事は限りなくゼロでなければならない。
「まともな生き方が一番さ」
笑いながら発し、ソファに寝ころんだ。